タイの社会を考えよう。仏教の托鉢からみる「富の再分配」

 

今日の一言

「富士山はむしろ夢であり、詩であり、インスピレーションです。久しぶりに見た瞬間、心臓が止まってしまいました。それほど美しいのです。富士山が日本人の想像力と美的感性に強い影響を与えている理由がよくわかります。
(キャサリン 昭和初期)」「東京に暮らす 岩波文庫」

 

 

同じ仏教の国でも、東南アジアの国と日本は違う。

一つ例あげれば、タイやカンボジアでは、旅行中に「托鉢(たくはつ)をしているお坊さん」をよく見る。

タイ、カンボジア、ラオスなどでは、「はだしの托鉢のお坊さんが鉢(はち)を持って、街を歩いては食べ物をもらっている」というのを日常的に見かけるけど、日本では、托鉢僧をめったに見ることがない。

 

SONY DSC

タイの托鉢

托鉢

「信者の家々を巡り、生活に必要な最低限の食糧などを乞う(門付け)街を歩きながら(連行)又は街の辻に立つ(辻立ち)により、信者に功徳を積ませる修行

(ウィキペディア」

 

托鉢では、お坊さんにご飯や物をあげることで、上げた人が「良いことをさせてもらった」ということになる。
あげる人が功徳を得ることができる。

つまり、お坊さんに物を渡す人は「良いことをさせてくれる機会をくれて、ありがとう」と、お坊さんに感謝する側になる。
もらったお坊さんが感謝することはない。

「あれで、集めた食べ物はどうするんだろう?」
そんな疑問を、出家して托鉢の経験もあるタイ人の友だちに聞いてみた。

「托鉢の後、お寺に戻って、みんながもらってきた物を出して、一つに集めます。そこから、そこにいるお坊さんが20人なら、20個の食べ物に平等に分けて、それを食べます。それが朝ご飯です」

 

「ふ~ん、完全に平等なんだなあ」と感心した。
みんなで食べきれないと、食べ物を捨てるのではなくてお寺にいる野良猫や野良犬にあげるそうだ。
タイのお寺に野良犬や猫がたくさんいる理由がようやくわかった。

 

ちなみに、タイの場合、最近これが問題になっている。
お坊さんがもらう食べ物が良すぎて、「お坊さんがメタボ化している」らしい。

「スポットライト」の記事にそれが書いてある。

「バンコクポスト」によると、バンコクのチュラーロンコーン大学で実施された研究の結果、実に半数近い僧侶が太り過ぎと診断されたことが判明。更にはそれぞれ糖尿病など何らかの慢性の病気を抱えていることもわかりました。

タイ僧侶に広がる深刻なメタボ問題。太り過ぎの僧侶たちにかかる医療費約9.5億円

 

もらってきた托鉢の食べ物を一度集めてから、それぞれのお坊さんに分けるというのも一つの「富の再分配」だと思う。

富の再分配

租税・社会保障・福祉・公共事業などにより、社会の中で富を移転させること。国などが、大企業や富裕層の所得・資産に累進的に課税して得た富を、社会保障・福祉などを通して経済的弱者にもたらす。また、公共事業で雇用を創出し、所得として間接的にもたらすことにもいう。所得再分配。

(大辞泉)

 

前の記事で、累進課税のことを書いた。
それで、浜松市やタイがかかえる問題にからませながら、富の再分配についても書いてみようと思いたって、今回はそんなテーマにしてみた。

 

累進課税っていうのは、こういう税金のとり方のこと。
たくさん稼ぐ人からはたくさんの税金をとって、稼ぎが低い人からは少なく税金をとるというもの。

 

具体的には、現在の日本の所得税のとり方は、こうなっている。

年収が195万円の人は税率5%だから、約10万円を払う。
年収が4,000万円の人は、税率45%だから、1800万円を払う。
これは、控除額を抜いた額(国税庁HP No.2260 所得税の税率より)。

 

でも、大事なことは税金を集めることじゃなくて、集めた税金を国民のためにどう使うかということ。
タイの托鉢でいえば、「税金を集めた状態」というのは、それぞれのお坊さんがもらってきた食べ物を一つに集めた状態になる。
友人のタイ人がいたお寺では、この食べ物を各僧侶に平等に分けていた。

 

食べ物なら簡単だけど、何兆、何十兆という税金をどうやって平等に分ければいいのか?
日本の場合、お金持ちから税金をたくさんとった後に、それを金のない人たちにまわして日本国内の「平等化」を図らないといけない。
言葉では簡単だけど、現実には難しい。

 

15年ほど前に、日本中で「市町村合併」が行われた。
これによって、浜松市は周辺の市町村が吸収されて、巨大な浜松市ができた。
でもその後、「不公平が出てきた」という不満を聞くようになった。

 

「浜松の中心部にいるオレたちの税金をとって、地方に使い過ぎじゃないか?何で、地方にあすこまで立派な橋や道路をつくる必要があるのかって話でさ」

 

「都市部の人から集めた税金を、地方に使いすぎ」という不満は、友だちからも美容院でも聞いたことがある。
これは一方的な意見で、地方に住んでいる人たちにはその人たちの言い分があるはず。
でも、浜松市の都市部では、税金の使い方(再分配の仕方)に文句がある人は現実にいる。
多分、日本の多くの都市でも同じような不満があると思う。
でも、これくらいならいい。

 

 

これが全国規模に拡大して、大問題になったのがタイ。

タイでは、2005年に「タクシン」が首相になって様々な政策を進めてきた。
その中に、自分の出身地である「タイ北部の人たちの生活を豊かにする」というものがあった。
「豊かにする」といっても、簡単に言ってしまえば「主にバンコクで集めた税金を北部に使う」というものになる。

江夏正敏さんがこう書いている。

比較的裕福である首都バンコクをはじめとした南部の富を北部へ流したため、「北部の貧困層の生活改善に繋げた」とタクシン派からは支持されています。ですから支持が貧困層や農村部となります。(赤は団結と国家を意味する)

【かんたん解説】 タイの政治的混乱の原因は?

 

タイ北部では、病院でかかるお金や安くなったり立派な道路がつくられたりして、人びとは確かに喜んでいた。
チェンマイという北部の都市では、「私は、タクシンが好きです。タクシンは、チェンマイ動物園にパンダをもって来てくれたから!」というタイ人に会ったことがある。

 

タクシンさんは本名を「丘 達新」といって、中国系タイ人の人。
中国との関係も深かった。
「チェンマイのパンダ」というのも、そういうつながりがあったんだろうね。

 

「でもそれって、オレたちの税金を使っているだけだよね?」と、バンコクの市民からブーイングが上がる。

そのバンコクで、2010年に「暗黒の土曜日(あんこくのどようび)」と呼ばれる事件が起きた。
これを覚えている人も多いと思う。
このときは日本人も亡くなっているから。

「暗黒の土曜日事件」

2010年4月10日(土曜日)、タイ王国の首都バンコクで発生した武力弾圧事件。

タクシン元首相派の市民ら約10万人(警察推計)の抗議デモに対し、アピシット首相の承認と指示のもとにタイ王国軍が発砲し、2000人以上の死傷者を出した。翌年のアピシット政権崩壊の発端となった。

(ウィキペディア)

 

2000人以上の死傷者って、もう「ほほ笑みの国」じゃなくなってる。
「何で、こんな事件が起きたの?」
と、デモの原因をタイ人に聞いたことがある。

「タイの金持ちとそうでない人との格差の問題が大きいですね。地方の人がタクシンを好きなのは、自分たちにお金を使ってくれたことで、バンコクにいる人がタクシンを嫌いなのは、お金をとられて地方に使ってしまったことです」

 

このデモの原因には、いろんな理由がある。
ボクが聞いたのはその一つ。

でも、都市部と農村部での経済格差は、タイの大きな問題になっている。
金持ちが多い都市部から集めた税金を、どうやって不公平感がなくてタイ全体に使っていくかは本当に難しい。
これも、「富の再分配」に仕方の問題になる。

 

さっきのデモの場合、集めた税金の使い方に不満があって、タクシン派と反タクシン派が分かれたことは間違いない
でも、このデモの最大の犠牲者は、警察と向かい合う最前線に事情の分からないまま置かれたカンボジア人かもしれない。
警察が捕まえたら、「タイ人ではなかった」とびっくりしたらしい。
お金を渡されて、「とにかく、ここにいればいい」とデモの主催者から言われたんだろう。

 

ちなみに、タイでは生まれた日によって色が決められている。
日曜日は赤色で、タクシンは日曜日に生まれているから、「赤」が彼のシンボルカラーになる。だから、タクシンの支持者は赤いTシャツを着ていて、「赤シャツ隊」と呼ばれていた。

 

日本はもちろんだけど、外国に行ったら、その国で「富の再分配(税金の使われ方)」がどんな風に行われているかを調べるのも、いい社会勉強になる。
国民の不満っていうのは、税金の使われ方から生まれるものが多いから、いくらでも話をしてくれると思う。

 

1 個のコメント

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。