外国でヒット商品を生み出すためには、「現地化」が超大事。

 

前回、中国人の林浄因(りんじょういん)という人について書いた。

世界大百科事典では、「日本のまんじゅうは中国から帰化した林浄因(りんじよういん)に始まる」と言われている人。
言ってみたら、林さんは日本の饅頭の生みの親。

ところで、なんで中国人がつくったまんじゅうが日本人の間で大人気になったのか?
今回はその理由について書いていきたい。

「ヒット商品をつくる」ということでは、平成の日本でも通じるところがあると思う。

 

中国人の林さんは1349年に日本人の仏教僧と一緒に日本にやってきた。

日本に来た林さんはあることに気づいたという。

「日本では、お茶を飲むときに一緒に食べるお菓子がない」

こういうことに気づいたということは、中国では今の日本でいう「お茶うけ」のような物があったのだろう。

 

この当時の日本には、今でいうお菓子がほとんどなかったらしい。
あったといえば、このようなものだったという。

日本の甘味には干柿や栗の焼いたもの

塩瀬総本家のホームページ

堅くパサパサした米菓子

「饅頭」が中国から日本に伝わった経緯―中国紙

そこで、林さんは中国の饅頭(マントウ)を思いつく。

 

 

当時の日本には小麦粉を発酵させる技術がなかった。
小麦粉を発酵させてつくる中国の饅頭は、今まで日本人が見たことがない新しい食べもののはず。

とはいえ、中国の饅頭と同じものをつくることはできなかった。
中国の饅頭といえば、皮の中に肉を詰めたもの。

でも、この当時の日本のお坊さんは肉を食べることができなかった。

肉を食べられない仏教僧に肉入りの饅頭が受け入れられるはずがない。
豚肉を食べられないイスラーム教徒の国でトンカツをは流行らそうとしても、それはムリなことと同じ。

 

だから、中国の饅頭を日本でそのまま再現しても意味がない。
そこで林さんは肉の代わりにあんをつくって、それを皮の中に入れることを考え出す。

中国で肉を詰めて食べる「饅頭(マントゥ)」にヒントを得て、肉食が許されない僧侶のために、小豆を煮つめ、甘葛の甘味と塩味を加えて餡を作り、これを皮に包んで蒸し上げました。

塩瀬総本家のホームページ

 

こうして林さんは中国の饅頭の作り方を参考にしながら、日本人の実情や味の好みに合った餡を組み合わせた饅頭を作り出す。
その苦労のかいがあって、これは画期的なお菓子の誕生になったという。
*でもこのときの餡はいまのあんこのように甘いものではなかった。

この饅頭は日本人に受けて大人気となる。
饅頭がヒット商品になった大きな理由は、饅頭の日本化だろう。
中国の饅頭を日本人の事情や好みに応じて変化させた。
それが最大の理由だと思う。

 

前に日本で英語を教えていたスウェーデン人と話をしていたとき、彼がこんなことを言っていた。

「今までいろいろな国で中国料理を食べてきたけど、スウェーデンの中国料理が一番おいしい」

これを聞いてボクも同感。
ボクも今までに、中国、タイ、インドネシアなどで中国料理を食べてきたけど、日本の中国料理が一番おいしいと思う。
同じ値段なら、絶対に日本の中国料理を選ぶ。
もちろんこれはボクの個人的な感想。

 

でも、中国旅行でお世話になったガイドも同じことを言っていた。
そのガイドは中国人の客を連れて日本を案内することもあるという。
そのガイドが言うには、中国人は日本で中国料理を食べないという。

「日本の中国料理の味は日本人向けで、中国人の舌に合わないんですよ」

と言う。
中国人にとっては日本の中国料理は味が薄くてあんまりおいしく感じられないらしい。

ボクはちょうどこれと逆。
中国の中国料理は味が濃い。
特に油がきつい。

 

結局、ある商品がヒットするかどうかの大きな要因は「現地化」ということなんだろう。

その土地の社会や人をよく調べて正確に把握して、それに合わせること。

中国料理でいえば、日本人やスウェーデン人の味覚を中国人の味覚に変えることなんてできるわけでない。
中国料理を現地の人の舌に合わせて変えるしかない。

日本料理も中国だったら中国人向けの味になっていると思う。
日本を旅行するタイ人には、日本料理にナンプラーを加えてタイ人の舌に合うようにする人もいるという。

 

中国から日本に伝わったヒット商品は食べものだけではない。
物語もそう。
三国志や水滸伝は日本で今でも人気がある。
これほどロングセラーのヒット商品はそうもないだろう。

これも、中国の三国志がそのままそっくり日本に伝わったわけではない。
日本人の好みや価値観に合わせて「日本化」している。

たとえば、中国の三国志には劉備玄徳が人肉を食べる場面がある。
でも、吉川英治氏が書いた三国志ではその場面をカットしている。
人肉を食べるというのは、日本人の価値観にはどうしても合わないから。

この話は現代の日本人にとって共感出来ないエピソードととられるため、吉川英治は『三国志』執筆の際、鉢木を引き合いに出してこの話の解説をしている。

劉安 (三国志演義)

これが具体的にどんな場面かは上をクリックして見てほしい。

 

料理にしろ物語にしろ、外国のものを日本でヒットさせるためには、日本の人と社会をよく理解して徹底的に合わせることがもっとも重要で有効だと思う。

それは日本人が日本製品を外国でヒットさせるときも同じはず。
現地の人や社会を知って、徹底的にそれに合わせる。
そうした姿勢が不可欠だと思う。

たとえば、韓国のサムスンがインドで冷蔵庫を売り出すとき、インドの人や社会に合わせて「かぎ付き冷蔵庫」をつくっている。

「news-postseven」の記事(2012.11.05)から。

インドの富裕層向け冷蔵庫には鍵がついている。メイドの“つまみ食い”を防ぐためだ

サムスン インド富裕層の冷蔵庫に鍵、中東の携帯にコンパス

 

またイスラーム教徒用の携帯電話にはコンパス(矢印)をつけた。
いつでもどこでも、イスラーム教の聖地メッカの方向がわかるためだ。
イスラーム教徒は1日に5回礼拝することになっている。

やっぱり海外でヒット商品をつくり出すためには、「現地化」の努力が欠かせない。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。