イスラーム教徒のスポーツ選手もラマダン中、断食をするのか?

 

2017年の今年はもう終わってしまったけれど、 5月27日~6月25日まではラマダン月だった。

イスラーム教徒にとってラマダンはとても特別な月。
「ラマダン=断食」というわけではないけれど、ラマダンの間、イスラーム教徒は断食をしないといけない。
だから、昼間に食事をしたり飲み物を飲んだりすることができなくなる。

 

エジプトへ旅行に行った時に、イスラーム教徒のエジプト人にラマダンの様子を聞いてみた0。
エジプトは暑い。
もうれつに暑い。
気温が50度近くまで上がって、ジーンズが20分で乾いてしまった。

そんな暑さに加えて食事をすることができない。
そのため、ラマダンの間は怒りっぽくなる人が増えるという。
ラマダン期間中は、ケンカや交通事故も増えるらしい。

神聖な月なのになんでそうなるのか?

「だったらやめればいいのに」とエジプト人に言うと、「とんでもない!」と否定すれた。

ラマダン期間中の断食は、イスラーム教徒にとっての義務。
絶対にしなければいけない。
その1ヵ月、彼は日中、つばも飲みこまないらしい。

 

ふつうのイスラーム教徒でも、ラマダン中はそれぐらい大変。
でも、イスラーム教徒のスポーツ選手になるとさらに苦しくなる。
食事をまったくしないで試合にのぞむというのはかなり厳しい。

 

こんな乾いたところで水も飲めないなんて・・・。

 

2011年のラマダン期間中に、札幌でUー22日本代表とエジプト代表のサッカーの試合がおこなわれた。
この時、エジプト代表は日本に1ー2で逆転負けをしている。
この敗戦の理由に断食があげられた。
エジプトの多くの選手が飲食をしないまま試合をしたため、それがプレーに影響を与えたのだという。

そりゃそうだ。
食事をしないでサッカーの試合をするのはきつい。
当然、インターバルの間に水分補給をすることもできない。
これで「100%の力を出せ!」というのはムリ。

 

親善試合ならまだいい。
これが国を背負って戦うオリンピックの試合となると、絶対に負けるわけにはいかない。
ラマダンとオリンピックが重なると、日本代表にはない問題が発生する。

イスラーム教徒にとっての義務である断食をおこなうか?
それを破って食事をして試合にのぞむか?
極端にいったら、イスラーム教徒かスポーツ選手かのどちらかを選ばないといけなくなる。

と、ここまでを読むと、とても厳しいように感じるかもしれないけれど、イスラーム教の教えにはけっこう柔軟性がある。

 

 

オリンピックの選手もラマダンの間は断食をおこなうべきか?

2012年のロンドン・オリンピックの場合、エジプトは断食をしないで食事をしてもOKとなった。
エジプト代表の選手たちはイギリスに行っているから、それが「旅行中」とみなされた。

読売新聞の記事から。

湾岸アラブ諸国などに比べ、世俗的とされるエジプトでも、ラマダン中は大半のイスラム教徒が断食を守るが、五輪前にエジプトのイスラム教スンニ派最高権威「アズハル機関」のアリ・ゴマア師は、五輪参加選手について「(断食が免除される)旅行中に当たり、日中の飲食が許される」とのファトワ(宗教令)を出した。

ラマダン中のエジプト選手、日本戦当日は飲食?

「食事をしてもいいですよ」と聖職者が判断しても、最終的に決めるのはそれぞれの選手らしい。

ラマダン月の断食はイスラーム教徒にとっての義務ではあるけれど、その解釈によって各個人が判断できるぐらいの柔軟性はある。

 

 

日本にはエジプト出身の力士「大砂嵐 金崇郎」がいる。
大砂嵐はラマダン期間中は断食をおこなっていた。

相撲のけいこ中に水も飲まない。
他の力士たちは休憩になると水を飲むけど、大砂嵐は水を口にふくんでうがいをするだけだったという。
そして昼食の時間になると、一人別室へ行って昼寝をしたりゲームをしたりしていたらしい。

それでも大砂嵐は強かった。
「BuzzFeed News」から。

翌年2013年の名古屋場所では、ラマダンが取組日程と重なった。体重が10キロ近く減ったが、まるで影響がなかったかのように10勝5敗と好成績を収めた。2015年の名古屋場所も11勝4敗と、決して成績を落とさない。

イスラム教徒の関取・大砂嵐。断食しているのに、なぜ強い? その思いに迫る

 

ラマダンの期間が試合と重なったら、イスラーム教徒のスポーツ選手はどうするか?

それでも断食をするイスラーム教徒がいれば、「旅行中」ということで食事をするイスラーム教徒もいる。
でも中には、そのどちらでもないイスラーム教徒もいる。

チュニジアのテニス選手の場合、断食を延期することにした。

2017年の全仏オープンテニス(French Open 2017)の女子シングルスで、チュニジアのジャバー選手が3回戦進出を果たす。
これはアラブ圏の女子選手としては大会史上初となる快挙。

でもこの試合がラマダンと重なってしまう。
そこでジャバ―選手は断食の延期を決める。
ラマダン中に食事をするけれど、後で断食をおこなうことにした。

AFPの記事から。

世界ランク10位以内の選手から初めて白星を挙げたジャバーは「食べたり、飲んだりしなければやっていけません。大会が終わったら、一日ずつやり直すつもりです。30日間の断食はできないのですが、来年のラマダンまでにやる時間はあるので」と説明した。

アラブ圏女子選手初のGS3回戦進出を果たしたジャバー、ラマダンは「大会後」

イスラーム教徒にとってラマダン期間中の断食は義務。
絶対にしなければいけない。

でも実際には、「旅行中」ということで食事ができたり個人の判断で延期したりすることができる。
イスラーム教は一見すごく厳しそうだけど、実際はかなり人間にやさしい宗教だと思う。

 

 

おまけ

2017年6月にロンドンの高層住宅で火事が起きた。
6月19日の時点で死者79人という大惨事となっている。

このとき、ラマダン中のイスラーム教徒が住民を助けて話題となった。
太陽が昇る前に食事をしようと早起きしたイスラーム教徒が火事に気づく。
そして近隣の住民をたたき起こして、彼らの命を救っている。

イギリスのメディア「HUFFPOST」から。

Muslims who were awake because they were beginning their Ramadan fast “saved people’s lives” when a deadly blaze broke out at a west London tower block, HuffPost UK has been told.

London Fire: Muslims Beginning Ramadan Fast May Have Saved Lives In Grenfell Tower

この記事で住民のひとりが「Thank God for Ramadan」と言っている。
まさにラマダンの奇跡。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。