日本と世界の食文化②無宗教の日本人なら、昆虫食もできる。

 

前回は昆虫食からはじまって、「世界の食文化」というものについて書いた。

「昆虫を食べるなんて、絶対にムリ!」という日本人はたくさんいるはず。
でも日本の食文化を考えると、昆虫食へのハードルはそれほど高くはないかもしれない。

そう考えた理由は宗教にある。
外国に比べて、日本には「わたしは無宗教です」という人が多いから。

今回は、そんな日本の食文化と昆虫食について書いていきたい。

 

まずは、「食文化って、そもそもどんなものなんだ?」ということを確認しておこう。
辞書的な意味ではこうなっている。

食文化

どのような素材を、どのように料理して食べるかという、食物・食事に関する各民族・各地域に固有の特色を総称していう。食器類の特徴、食事の作法などをも含む。「アジアの食文化」「伝統的な食文化」

デジタル大辞泉の解説

ここでのポイントを2つ抜き出す。
「素材」と「調理法(どのように料理して)」というもの。

どちらも食文化には大切な要素だけど、より重要なのは素材のほう。
どのように調理をしたとしても、その食材を食べることができなかったら意味がない。

 

たとえば、イスラーム教の国でトンカツが受け入れられるか?
絶対にムリ。
イスラーム教の教えで、豚肉を食べることは固く禁止されている。
だから、どんなにサクサクに揚げても最高においしい味付けをしても、トンカツはイスラーム圏の食文化には受け入れられない。
素材(豚肉)を食べられなかったとしら、どんな調理法をしても食文化として定着することはない。

だから食文化では、調理法よりも素材のほうが大事になってくる。
それが前提条件になるから。

 

ヒンドゥー教の影響が強いところでは、ビーフステーキを食べる食文化は生まれない。

 

世界の国を見ると「何を食べていいのか?いけないのか?」ということは、宗教によって決められていることがよくある。
「宗教が食文化を規定している」という考えは、世界では常識になってる。

それで前回、宗教的な理由による「食のタブー」の具体例を書いた。
イスラーム教・ヒンドゥー教・ユダヤ教・タイの仏教・キリスト教での例をあげたから、興味がある人はそれを見てほしい。

 

「食文化を決めるもっとも大きな要因は宗教だ」という点で日本の食文化を見ると、どうだろう?

日本にはそれがない。

「特別な信仰をもたない」という人が70~80%もいる日本(前回参照)は、世界の他の国に比べて宗教の影響力が薄い。
国民の大多数が無宗教という日本では、宗教的な理由からくる食のタブーがほとんどない。

もちろん、「まったくない」ということはない。
日本にはイスラーム教やいろいろな宗教の信者がいるから。

でも世界の国と比べたら、日本には宗教による食物禁忌きんきの考えはほとんどない。
日本には「食のタブー」という考えがほとんどないから、それに対応したレストランもなかなかない。
だから、ベジタリアンのヒンドゥー教徒やイスラーム教徒の人を食事に連れて行こうとすると、レストランが本当に限られてしまう。

先進国の中で、宗教が食文化にあたえる影響がもっとも少ない国は日本だろう。
欧米なら、ヒンドゥー教徒やイスラーム教徒に対応したレストランはたくさんある。

 

「肉は一切食べられない」というヒンドゥー教徒のインド人をうどん屋に連れて行った。
「うどんなら大丈夫だろう」と思ったら、かつお節がダメだった。

 

でも日本の歴史を見ると、過去には宗教による食のタブーはあった。

7世紀(675年)に、天武天皇が「肉食禁止令」というものを出している。
この命令の背後には、不殺生という仏教の考え方がある。

『日本書紀』によると675年、天武天皇は仏教の立場から檻阱(落とし穴)や機槍(飛び出す槍)を使った狩猟を禁じた。また、農耕期間でもある4月から9月の間、牛、馬、犬、サル、鶏を食することが禁止された。

「ウィキペディア」

でも、この天武天皇の肉食禁止令には鹿や猪は入っていない。
だからすべての肉食が禁止されたわけではない。

 

でもこの禁令は遠い飛鳥時代の話で、完全に過去のこと。
今の日本人にはまったくつながっていない。

現代の日本で、宗教が食文化に影響をあたえることはない。
すし、天ぷら、たこ焼きなどの日本料理と宗教は関係がない。

宗教による食のタブーがなかったら、何を食べるかは自分で決めることができる。

宗教の教えで素材(食材)決まっていたら、自分に決定権はない。
イスラーム教徒が豚肉を食べるかどうかを、自分で判断することはできない。

信仰の薄いイスラーム教徒ならトンカツでも何でも食べる。
そういうイスラーム教徒もいた。

 

無宗教の人なら、これを食べるかどうかは自分で決められる。

 

海外に比べたら、日本では宗教の存在感は薄いし宗教による食のタブーはないも同然。
だから、今の日本で「昆虫を食べるかどうか?」というのは、完全に個人の判断にまかされている。

イスラーム教徒の場合、「どんな昆虫を食べて良いのか?いけないのか?」ということはすでに決められている。

イスラム教では、アリやハチを食べることは禁じられているが、バッタを食べることは明確に許可されており

「ウィキペディア」

だから、「個人が決める」なんてことは不可能。
無宗教の日本人なら、何を食べるかは神様ではなくて自分で決めることができる。

 

欧米と日本を比較しても、欧米には「個人的な考えから肉を食べない」というベジタリアンやヴィーガンがたくさんいるけど、日本にはそうした人がほとんどいない。
ボクのまわりでは一人もいない。
ヴィーガンという言葉を知らない日本人もたくさんいる。

だから日本は、「世界有数の先進国だけど、ベジタリアンには生きづらい」と外国に紹介される。
ベジタリアンやヴィーガンが日本で生活するためには、「サバイバル・ガイド」が必要らしい。

It may be one of the most advanced countries in the world, but being a vegetarian in Japan is far from simple.

Being vegetarian in Japan: A survival guide

くり返しになるけど、日本では宗教や個人的な主義が食文化に影響をあたえることが本当に少ない。
そんな日本なら、昆虫食へのハードルはそれほど高くはないと思う。

 

では、新しい世界へ行きますか?

 

実際、こんな日本人もいる。

下の写真は神田 敬大さんという日本人の旅行者のもの。
東南アジアのラオスでは、モグラを食べる食文化があるらしい。

モグラをどうやって食べるのか?
写真でその過程が分かる。

これが、

串に刺されて火であぶられて、

 

でき上がり。

これを食べるかどうかは、自分しだい。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。