次のインド大統領は、最下層カースト・ダリット出身の政治家?

 

今回は今もインドにあるカーストの話。

インドのカースト制度で、もっとも低い身分が「ダリット」と呼ばれる人たち。
インドで、そのダリット出身の大統領が誕生するかもしれない。
そんな話。

 

 

インドのカースト制度については、中学校の授業で習ったはず。

ヒンドゥー教にある4つの身分のこと。
ちょっと復習してみよう。
カーストとは、上から順にこの4つのことをさす。

バラモン:ヒンドゥー教の聖職者
クシャトリヤ:王や戦士
ヴァイシャ:庶民階層で商人が多い。
シュードラ:上の3つのカーストに奉仕する義務をもつ人たち。農耕や牧畜の仕事が多い。

このうち、支配者階級のカーストはバラモンとクシャトリヤで、ヴァイシャとシュードラは支配される側の人たちになる。
学校の先生が教えてくれたことは、だいたいこんな内容だったと思う。

 

でも今の教科書では、これをカーストとは書いていない。
カーストではなくて、「ヴァルナ(種姓)」と書いてある。
この4つの身分をカーストと覚えていた人は、「ヴァルナ」にアップデートしておこう。

ということで、この記事ではここからヴァルナという言葉を使うことにする。

 

頭にターバンを巻いているのはヒンドゥー教徒ではなくて、シク教徒の人たち。
彼らシク教徒にはヴァルナは関係がない。
シク教はヴァルナの考え方を否定しているから。
「すべての人は平等」とされている。

 

でもじつは、上の4つのヴァルナには入っていない人たちもいる。

それが「アウト・カースト」と呼ばれていた人たち。
「カースト(ヴァルナ)から外れている」という意味だろう。

ヴァルナの身分制度でもっとも激しい差別を受けていたのが、このアウト・カーストの人たち。
その生活は次のようなものだったという。

住居も、町や村外れの、不潔な、生活用水もない場所に定められ、木の葉や泥以外の家に住むことができず、その暮らしは家畜以下であった

(アンベードカルの生涯 光文社新書)

こうしたアウト・カーストの人たちの仕事はだいたい決まっていた。

皮革のなめしや染色、ゴミや屎尿の処理、ネズミ取り、死体処理、火葬などといった(ほとんどが世襲の)職業ゆえに「不浄」とみなされている

(インド入門 マノイ・ジョージ)」

これは世襲制。
だから、親がネズミ取りの仕事をしていたら、その子どもも自動的にネズミ取りの仕事をするようになっていた。

 

 

また、「物乞い」も職業のひとつになっている。
だから、親が物乞いだったら、その子どもも物乞いになる。

とはいえ、必ずしも「物乞いだから貧しい」というわけではない。

ヴァラナシという街でオートリキシャーのドライバーから聞いた話では、そうした物乞いの人たちはそのドライバーよりも稼ぎがいいらしい。
でも、「ヴァルナが違うから、ドライバーである自分は物乞いの仕事はできないんだ」と彼は言う。

 

ただ、ここまで書いてきたことは、ひとつの目安と考えてほしい。
アウト・カーストの人たちの状況は時代とともに変わっているし、インドの場所によってもまったく違うから。

 

オートリキシャー

 

ボクがインド旅行で会ったバックパッカーから聞いた話は、目安にもならなかった。

「インドの物乞いは、親が子どもの手足を切ってしまう」
「ガンディーはカースト制度を否定した」
「インドの憲法でカースト制度は廃止されている」

これらはすべて間違い。
この話を聞いたときは素直に信じて、他の旅行者にも話してしまった。

インドを旅するバックパッカーは、今でもこんな話をしているかもしれない。
聞いても信じないように。

 

アウト・カーストの女の子

 

アウト・カーストの人たちの呼び方はいろいろある。
今では、「ダリット」と呼ばれることが多い。

アンタッチャブル(Untochable)は日本語で不可触民という言葉を使っているが、インドでは、アチュート、ハリジャン、アウトカースト、ダリットなどと呼ばれている。

近年は、新聞等の慣用として、ダリットが定着してきたようである。不可触民の人たちが自分たちを呼ぶときにも使われる

「インド人とのつきあい方 (清好延)」

「不可触民」とは、触れることができない人たちのこと。
「そうした人に触ったら、自分がケガれてしまう」と考えれていたから。

こうした人のふれたものは、他のひとびとにとっては穢れとなると信じられている

「インド入門 (マノイ・ジョージ)」

「その暮らしは家畜以下であった」
「触ったら自分がケガれてしまう、と考えれていた」

そんなダリット出身の人がインドの大統領になったとしたら、それは画期的なことだ。

 

ダリットの人たちの家。

 

2017年7月15日のBBCにそのニュースがある。

17日に国会議員と州議会議員によって行われる大統領選挙で本命とみられているのは、与党インド人民党(BJP)の候補で、ダリット出身のラム・ナス・コビンド(Ram Nath Kovind)氏(71)だ。

(中略)約2億人といわれるダリットの人々は、インドの最貧困層でもあり、昔から社会の周縁に追いやられてきた。法的な保護はあるものの差別は横行しており、教育など社会進出の機会へのアクセスを日常的に拒否されている。

インド次期大統領に最下層カースト出身者か

 

ただ、もしこのコビンド氏が大統領になったとしても、それは「ダリット出身の初めてのインド大統領」というわけではない。

この記事を読んで初めて知ったけど、すでにダリット出身の大統領は誕生している。
1997年から2002年まで、ダリット出身のナラヤナンという人が大統領をしていた。

だから、もしコビンド氏が選ばれたとしら、彼はダリット出身の2人目の大統領となる。
とはいえ、これによってインドでのダリットへの見方がすぐに変わることはないだろう。

でも、インド社会の大きな変化をしめすことにはなる。
結果は20日に発表されるという。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。