毒ガスの歴史。人命を救うために開発し、大量虐殺で使われた。

 

今日(2017年11月02日)、読売新聞にこんな記事があった。

「予算内で手配出来ず…「毒ガス」ビラで旅先変更」

記事のタイトルを読んでも内容が想像できない。
手配できないから、毒ガスのビラ?
いったい何のことか?

記事を読んだら、本当にしょうもない事件だ。

40代の男が小学校の保護者会から、児童旅行の手配を頼まれた。
でも予算内では、金沢旅行に行けないことが分かる。

そこで男は、「金沢には行けない状況」をつくり出そうとする。
男は金沢の各地に、毒ガスのビラを貼った。

同署幹部によると、男は8月20日夜から21日早朝にかけて、津幡町の公民館や金沢市の公園など計5か所に「神経ガス散布車が金沢市内を走行する」との虚偽内容のビラを貼り、警察の業務を妨害した疑い。

この毒ガスのビラで、児童旅行が金沢から能登方面に変更されたという。
正直、何が何だかよく分からない。

 

この事件に対しては、あきれ返る人が続出。

・40代でこれかよ
・ばかすぎ
・なんで正直にこの予算じゃ金沢ではむりだから能登方面にしましょうって言えなかったんだよwww
・津幡から金沢が無理ってどんだけ低予算だったの
・1素直に事情説明
2自腹
3バックレる
4犯罪に手を染める
なんで児童旅行ごときで4番目の選択まで追い詰められたのか

ここまでは、しょうもない話。

 

 

ここからはマジメな毒ガスの話。

本当に毒ガスを使って人を殺した事件となると、「ハラブジャ事件」が思い浮かぶ。

この事件が起きたのは、イラン・イラク戦争がおこなわれていた1988年のとき。
当時のサダム・フセイン政権が毒ガス(化学兵器)を使って、クルド人を大量虐殺した。
このときクルド人が住んでいた「ハラブジャ」から、これがハラブジャ事件と呼ばれるようになる。

事件のくわしい内容は上のウィキペディアを見てほしい。

 

この事件はまだ終わってはいない。
毒ガスの使用を命じたイラクの元国防相は刑務所で死刑を待っている。
AFPの記事から。

元国防相は、1988年のクルド人虐殺事件(アンファル作戦)を指揮し18万人のクルド人を殺害したとして、「ジェノサイド」の罪で死刑判決が下されている。

イラク北部のハラブジャ村、旧政権による毒ガス攻撃から20年

 

今年2017年にも、シリアが毒ガス兵器を使用したとして、世界中を怒らせた。

シリアのアサド政権が毒ガス攻撃をおこない、100人もの犠牲者を出す。
このうち、子どもは20人以上いたという。

イギリスBBCのニュース(2017年04月6日)から。

現場を撮影した映像には、多くの子供が窒息したり口から泡を吹いたりする様子が写っていた。
世界保健機関(WHO)と国際NGOの国境なき医師団(MSF)は、一部の被害者の症状は神経ガスによって引き起こされたものと同じだと指摘した。

「人道への侮辱」 トランプ米大統領、シリア毒ガス攻撃を非難

「これは人道への侮辱だ」と激怒したアメリカのトランプ大統領は、すぐにシリアへのミサイル攻撃を決断する。

アメリカ軍はシリアの空軍基地に、約50発もの巡航ミサイルをぶちこんだ。
くわしいことは、ニューズウィーク誌の記事(2017年4月7日)をどうぞ。

米軍がシリアにミサイル攻撃、化学兵器「使用」への対抗措置

 

シリアで使われた毒ガスは分からないけど、イラクのハラブジャで使われた毒ガスは、ナチス・ドイツがユダヤ人を虐殺したときに使った毒ガスととても似ていると指摘されている。

 

アラビア半島にあるイエメンの首都サヌア

 

天才アインシュタインが、「天才」と呼んだ科学者がドイツにいた。
それがユダヤ人のフリッツ・ハーバー博士。

フリッツ・ハーバーはノーベル化学賞を受賞している。

 

画像は「NHK 映像の世紀」から。

 

フリッツ・ハーバーは毒ガスを開発したしたことで知られている。
このことから、「化学兵器の父」とも呼ばれる。

フリッツ・ハーバーが毒ガスをつくり出したのは第一次世界大戦のとき。
1915年に人類の歴史上初めて、ドイツがフランスに毒ガス攻撃をおこなった。

毒ガスをあびたら、人間はどうなってしまうのか?

第1次世界大戦に従軍していたドイツのレマルクという作家が毒ガス攻撃についてこう書いている。

僕は野戦病院で恐ろしい有様を見て知っている。
それは毒ガスに犯された兵士が、朝から晩まで絞め殺されるような苦しみをしながら、焼けただれだ肺が、少しずつ崩れてゆく有様だ。

「西部戦線異常なし レマルク(新潮文庫)」

 

なんでフリッツ・ハーバー博士は毒ガスを作り出そうとしたのか?

それは”善意”だった。

戦争が長引けば、それだけたくさんの人が死ぬことになる。
できるだけ戦争の犠牲者を少なくするには、戦争を早く終わらせなければいけない。

そこで、毒ガスが出てくる。
毒ガスという新兵器を使うことで、戦争を早く終わらせることができる。
そうすれば、結果的に多くの人の命を救うことになる。

もちろん毒ガス攻撃によって亡くなる人は出てくる。
でも、長い目で見れば、その数以上に救われる人の方が多い。

フリッツ・ハーバーはそう考えた。

 

 

「できるだけ多くの人命を救いたい」という善意から、フリッツ・ハーバーは毒ガス開発に情熱を注いだ。

でも、その考えを理解できない人もいる。

妻のクララ・ハーバーもその1人で、夫の毒ガス開発に反対し続けていた。
でも、どれだけ自分が言っても、夫は耳をかさない。

毒ガスの研究を続ける夫に抗議するため、クララは自殺した。

 

 

毒ガスを開発したのは、ドイツにいたユダヤ人の博士だった。

「毒ガス・ドイツ・ユダヤ人」と並べば、「アウシュヴィッツ強制収容所」が思い浮かぶ。

ナチス・ドイツがユダヤ人を大量虐殺するために使われた毒ガス「ツィクロンB」こそ、フリッツ・ハーバーが開発した毒ガスだ。

これは1942年ごろのことで、このときフリッツ・ハーバーはすでにこの世にはいなかった。

 

連合軍が到着したときの収容所の様子

おびたただしい数のユダヤ人の死体が放置されていた。

 

毒ガスで殺害されたユダヤ人

 

死体はここで焼却されていた。
上の画像は「NHK 映像の世紀 第5集」から。

「人命を救うため」と善意で開発した毒ガスによって、人類史上最悪の大量虐殺がおこなわれた。
これ以上の歴史の皮肉はそうもない。

 

フリッツ・ハーバーは晩年、こんなことを言っていた。

「自分の遺灰はクララと一緒に埋めてほしい」

 

 

おまけ

なんでナチス・ドイツはユダヤ人を絶滅させようとしたのか?

ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の責任者の1人である「アイヒマン」はこう言っている。

ユダヤ人は、ドイツ国民の永遠の敵であり、殲滅(せんめつ)し尽くさねばならない。

われわれに手のとどくかぎりのユダヤ人はすべて、現在のこの戦争中に、一人の例外もなしに抹殺されねばならない。

今、われわれが、ユダヤ民族の生物学的基礎を破壊するのに成功しなければ、いつかユダヤ人がわがドイツ国民を抹殺するであろう

(アウシュヴィッツ収容所 講談社学術文庫)

この考え方はヒトラーも同じ。

 

 

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今まで、東南アジア、中東、西アフリカに旅をしてきました。外国に行って初めて気がつく日本の良さや特長があります。以前、歴史を教えていたので、その経験もいかして、日本や世界の歴史や文化などをテーマに、「読んでタメになる」ようなブログを目指します。