差別に厳しいアメリカ社会。日本ではOKの言葉も、使用禁止!

 

アメリカのニューヨークで、これからこの言葉の使用が禁止されることになった。

「Ladies And Gentlemen(レディース・アンド・ジェントルメン:紳士淑女のみなさん)」

とはいっても、それはニューヨークで運行している地下鉄やバスなどでの話。

 

地下鉄やバスの乗務員がアナウンスで乗客に呼びかけるときに、「レディース・アンド・ジェントルメン(Ladies and gentlemen)」という言葉を使っていたのだけど、このほど、ニューヨーク交通公社がその使用を禁止することにした。

 

これは「LGBT」の人たちへの配慮とみられる。

Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)
Gay(ゲイ:男性同性愛者)
Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)
Transgender(トランスジェンダー:生物学的な性別と違う性別で生きたい人)

この頭文字をつなげると、「LGBT」になる。
つまり、「性的少数者の総称(朝日新聞掲載「キーワード」の解説)」ということ。

 

ニューヨークの地下鉄やバスに乗っている人たちの中には、性別を男性か女性かに分けることがむずかしい人もいる。
そうした少数の人たちのことを考えば、「レディース・アンド・ジェントルメン」という言葉は不適切になってしまう。
アメリカ社会は人種や性の差別に対して、とても厳しいのだ。

では、代わりにどう言うのか?

読売新聞の記事(2017年11月20日)にこう書いてある。

乗務員は代わりに、「Everyone(皆さん)」や「Passengers(乗客の皆さん)」などと呼びかけている。

「レディース&ジェントルマン、NY地下鉄で禁止」

「皆さん」や「乗客」なら、たしかに性別は関係がない。
すべての人へのアナウンスになる。

 

アメリカの1ドル札。
IN GOD WE TRUST(我々は神を信じる)」と書いてある。
これは、アメリカの国家としての標語。
「WE」なら、性差別の問題はない。

 

ウィキペディアによると、日本では1990年代からLGBTという言葉が使われ始めている。

ここ数十年で、性差別への意識は世界的に高まっていて、いろいろな言葉が変えられた。
「レディース・アンド・ジェントルメン」から「エブリワン」もその1つ。

むかしは「スチュワーデス」と言っていたのが、今では「CA(キャビンアテンダント)」になっている。

他にもこんな言葉がある。
ポリスマンはポリスオフィサーになった。
キーマンはキーパーソンに。
カメラマンはフォトグラファーに。

「マン(男)」という言葉だと性差別にあたるから、「パーソン(人)」になったらしい。
そういえば、日本のゲームボーイがアメリカでは「ゲームパーソン」になっていた気がする。

 

日本ではこんな言葉の変化があった。

看護婦は看護師へ。
助産婦は助産師へ。
保母さんは保育士へ。

日本の地下鉄やバスのアナウンスでは、「ご乗車のみなさん」「お客様」という言葉を使っていると思う。
これならOKだ。

 

ハロウィンの置き物

 

アメリカには、世界中の人種や民族の人たちがいる。
それで、「人種のるつぼ」と呼ばれることがあった。

多様な人種,民族による多様な文化がアメリカ社会で溶け合い,新しい生活文化を形成していると考え,その状態をいうときの表現。

「世界大百科事典内の人種のるつぼの言及」

でも今では、この「人種のるつぼ」という表現はあまり使われない。
その代わりに、「サラダボウル」という言葉が使われることが多い。

いろいろな人種や民族が「一つになる(溶け合う)」必要はない。
それぞれが独自性を保ったまま、アメリカ社会にいればいい。
そんな考え方なんだと思う。

 

アメリカには、いろいろな人がいる。
だから地下鉄やバスでのアナウンスのように、少数の人たちへの配慮が必要になって、それにふさわしい表現が求められる。

それで最近のアメリカでは、「メリー・クリスマス」と言わずに、「ハッピー・ホリデーズ」と言うことが増えている。

「メリークリスマス」はキリスト教の言葉だ。
でもアメリカには、イスラーム教徒やユダヤ教徒やヒンドゥー教徒もいる。
「メリークリスマスというあいさつは、彼らに対する配慮が足りない」と考える人たちが増えてきたことから、「メリークリスマス」と言わなくなったという。

 

そのことをニューヨークにいるアメリカ人にメールで聞いてみた。
するとこんな返事が来る。

Its strict for businesses.
But it is considerate to say happy holidays if you think they might not celebrate christmas. Here we have Christmas, Hanukkah, Kwanzaa, and Ramadan.

(意訳)

仕事の場面では厳しい。
でも、クリスマスを祝わない人もいるかもしれないから、「ハッピーホリデーズ」と言った方が思いやりがある。
ここ(アメリカ?ニューヨーク?)には、クリスマス、ハヌカ、クワンザにラマダンがあるのだから。

 

「女神」が変えられることはないだろうけど。

 

この返事を読んだだけで、「宗教や人種がごちゃ混ぜ」というアメリカの多文化社会が見えてくる。

ここにで出てくるHanukkahハヌカとは、ユダヤ教の祭りのこと。

Ramadanラマダーンはイスラーム教徒にとって神聖な月で、ラマダーンが終わると盛大な祭りがおこなわれる。
ちなみにイスラーム教徒はラマダーン期間中に断食をするけど、「ラマダーン=断食」というわけではない。

ラマダーンの期間中は、رمضان كريم(Ramadan Kareem、ラマダーン・カリーム。「恵み多い月ラマダーンおめでとう」)という挨拶が使われる。

「ウィキペディア」

「Kwanzaa(クワンザ)ってなんだ?」と思ったら、これは黒人(アフリカ系アメリカ人)の祭りのことらしい。

クワンザとはアフリカの言葉で「初めての果物」という意味であり、アメリカに暮らすアフリカン-アメリカンが、遠い祖国アフリカの文化や伝統を祝うと共に、自らの誇りや、アメリカでの未来を切り拓くための礎を確認するためのもの。

「ウィキペディア」

「クワンザ」とはアフリカの言葉だけど、アフリカ人の祭りではない。
アメリカにいる黒人がおこなう祭りのこと。

 

 

「ハッピーホリデーズ」は知らない人や仕事でつかうあいさつで、相手がキリスト教徒なら「メリークリスマス」と言っているらしい。

「レディース・アンド・ジェントルメン」の言葉が使用禁止になったのも、地下鉄やバスといった公共の場だ。
「レディース・アンド・ジェントルメン」も全面禁止ではなくて、場によっては使用できると思う。

 

さまざまな宗教、人種、性の人たちがいる多文化共生社会のアメリカでは、異なる宗教や人種への「considerate(配慮)」は絶対に必要だ。

でも、日本人のボクからすると、ちょっと面倒くさい。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。