価値観の”押しつけ”②欧米に習った日本がアジアにしたこと。

 

日本人の嫌いなことに「価値観の押しつけ」がある。

たとえば欧米の動物愛護団体は、日本人がクジラを食べることをよく非難する。
すると日本ではそれを支持する声より、それに反発する声のほうがはるかに多く上がる。

「欧米人の価値観で日本の食文化を変えようとするな!」と考える人はとても多い。

だから欧米のメディアが韓国の犬食を批判すると、いつもは韓国に厳しい日本のネットユーザーもこんな韓国寄りのコメントを書きこむ。

・他国で自国の価値観を押し付けるのは良くないわな
・他国の食文化にケチつけるんじゃねぇ
何食おうが勝手

 

「クジラや犬はダメ!でも豚や牛なら食べてもいい」の理由って何だ?

 

日本人と欧米人を比べた場合、欧米人には自分たちの価値観を外国に当てはめて、その国の人たちの行動を変えようとする傾向が強い。
日本のメディアも平昌五輪では、韓国についていろいろな報道をしていたけど、韓国の犬肉を非難する報道は見たことがない。

アメリカでは「米国の文化では犬や猫は大切にするものだ」という考え方から、アジア諸国に犬や猫の肉の売買をやめるように呼びかけることが議会で決議された。

日本だったら、議会でこんなことが話し合われることはない。
外国人が自分の国で何を食べるかは、その人たちの自由。
議会やメディアが、日本人の価値観から他国の食文化を批判することはない。

 

大ざっぱな見方だけど、欧米人は「価値観の押しつけ」をよくする。
でも日本人は、日本に関係なかったら、外国にそんなことはしない。
口を出さずにほっておく。

この態度のちがいはどのように生まれたのか?
その理由のひとつに、日本とヨーロッパの歴史のちがいがあるだろう。

ヨーロッパの歴史には、宣教師を各地におくってキリスト教という自価値観を世界中に伝えていた時代があった。
また、教皇子午線によって地球を2つに分けてしまったこともある。

前回までは欧州の歴史をみて、ヨーロッパ中心主義にもとづくこうした「価値観の押しつけ」について書いた。

今回は日本の歴史について書いていこうと思う。
日本にも自国の価値観を押しつけていた時代がある。

 

 

日本の歴史には宣教師のような存在がない。
世界中にあれだけの人数の専門家を送って、日本の宗教(価値観や考え方)を伝えていた時代がない。

日本は基本的に受け身の国。
教えるよりは外国に学んでいた。

古代の日本は、中国に遣隋使や遣唐使を派遣して、進んだ文化や考え方を吸収していた。
それで律令制度や京都がつくられたわけだ。
近代の日本はヨーロッパに学んで、近代化に成功した。

 

歴史全体をみると日本は「生徒」で、「先生」として世界に何かを教えようとしたことがほとんどない。
ウィキペディアには「ヨーロッパ中心主義」という言葉はあるけれど、「日本中心主義」なんて語句はない。
その理由のひとつに、日本とヨーロッパのこうした歴史のちがいがあると思う。

英語版のウィキペディアには「Eurocentrism(ヨーロッパ中心主義)」の項目で、「colonialism(植民地主義)」や「imperialism(帝国主義)」に触れている。
たしかにこれもヨーロッパ中心主義のあらわれだ。

帝国主義

1870~80年代以降の、ヨーロッパ列強の対外膨張と植民地・勢力圏の獲得行動。

「世界史用語集 (山川出版)」

 

日本は明治時代に、これらの考え方をヨーロッパから学んでいる。
「植民地主義」や「帝国主義」は21世紀の今では許されないことだけど、19世紀の国際社会では常識的な考え方だった。

だから日本が台湾や朝鮮半島を植民地支配しても、欧米は日本を非難しなかった。
それは、当時の国際的な価値観に反することではなかったから。
もちろん台湾や朝鮮半島では、日本に反発する声はあった。

 

日清戦争から国際連盟の常任理事国になるまでの日本について、アメリカ人の歴史家はこうみている。

日清戦争のあと、欧米はこの生徒の卒業を認定し、一八九九年に「不平等条約」最後の条項が書き改められた。
列強は特権を返上し、日本は高校卒業証書をいただいて大人の仲間入りをした。

そして日露戦争で、日本は大学卒業論文を見事に書き終える。
一九一九年、第一次世界大戦後の講和条約を協議するパリ会議は、日本がインターンを無事終えたことを認めた。

日本は米英仏伊と並ぶ輝かしき「五大国」、すなわち時の「平和愛好国」の一員となった。日本は優等賞をもらって卒業したのである。

「アメリカの鏡 (ヘレン・ミアーズ)」

 

欧米が先生で、日本はとても優秀な生徒だった。
世界の「五大国」になったとき、生徒は先生の一員となった。

 

日露戦争でロシア軍とたたかう日本をタイムズは世界にこう伝えた。

日本人は西洋の学問の成果をすべて集めた。
そして、西洋の成果を応用し、組み合わせて使いこなしている。
この民族は我々のはぐくんだ複雑な文明を、わずか一世代あまりの内に習得したのだ。

(中略)日本人は誇り高い西洋人とならび立つ列強であることを、世界にしめしたのだ。

「NHK 映像の世紀 JAPAN」から。

 

ただ一方で、このときの日本には、日本の一部になった台湾や朝鮮に自国の価値観を押しつけるところがあった。
くわしいことは「世界史の窓」の皇民化政策を見てほしい。

また、太平洋戦争のときに日本は「八紘一宇(はっこういちう)」というスローガンをつくり出して、これを東南アジアの国に当てはめた。

八紘一宇

天皇が全世界を一つの家にすることをいう。「日本書紀」の中にある語句。
現状打破と東亜新秩序建設の精神的支柱として、提唱されたスローガン。

「日本史用語集 (山川出版)」

「天皇が全世界を一つの家にする」というのは壮大な考え方だ。
原子爆弾を2つ落とされて現実を知ったわけだけど。

太平洋戦争中の日本はこの考え方によって、東南アジアの国に「日本の価値観の押しつけ」をすることもあった。

でも戦後の日本には、そんな例が見当たらない。

 

乗客がバスから降りるとき、インドネシア人は日本の軍人にだけ頭を下げていた。

 

 

この時代、インドのガンディーは日本人にこう訴えていた。

私はあなた方日本人に悪意を持っているわけではありません。
あなた方日本人はアジア人のアジアという崇高な希望を持っていました。
しかし今ではそれも帝国主義の野望に過ぎません。

「NHK 映像の世紀 JAPAN」から。

 

ただ、かん違いしないでほしいのだけど、今のインドネシアとインドは親日国で「日本好き」の人はとても多い。

 

 

日本の歴史にも、他国に価値観を押しつけていた期間はあった。
でもヨーロッパの歴史に比べたら、「ない」といってもいいぐらいに短い。

欧米人が韓国の犬食を批判すると、韓国を好きではない日本のネットユーザーが韓国側について、欧米による価値観の押しつけを批判することがある。

日本のネットで、多くの人が韓国に味方することはめったにない。
それだけ日本人は、「価値観の押しつけ」を嫌っているということにもなる。

その背景には、これまで書いてきた日本とヨーロッパの歴史のちがいがあると思う。

 

 

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日本人と欧米人の価値観の違い。韓国の犬食文化について。

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2 件のコメント

  • 韓国、中国による日本への歴史認識の押し付けをみると宗教や帝国主義ではない要素もありそうです。いや反日は二カ国にとって既に国家宗教化しているのかも。

  • 中国にも反日感情はありますが、いまの韓国ほどではないと思います。
    アメリカやオーストラリアに慰安婦像を建てて、現地の人に「正しい歴史認識」を伝えるのは宣教師と同じです。
    韓国の歴史認識の押しつけは韓国独特のもので、ほかと比べられないと思います。

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    今まで、東南アジア、中東、西アフリカなど27の国・地域に旅をしてきました。以前、中学生に歴史を教えていた経験もあります。 また、日本にいる外国人の友人も多いので、彼らの目から見た日本も知っています。 そうした経験をいかして、日本や世界の歴史・文化・宗教などをテーマに、「読んでタメになる」ブログを目指しています。