中国と台湾の関係を、わっかりやすく説明しますよ。

 

いまの若い台湾人は中国をどうみているのか?
そのことについてはまえに、知り合いの台湾人からこんな話を聞いた。

友だち2人と計3人(全員が20代の女性)で日本を旅行していたとき、ホテルのロビーで中国語で会話をしていたら、男性の中国人観光客から「あなたたちは中国人ですか?」と声をかけられる。
すると3人は「いいえ、違います!わたしたちは台湾人ですっ!」と言って、それからは会話の内容が分からないよう台湾語に切り替えて話をつづけた。

こんな感じで中国と台湾には、とても複雑な事情があるのだ。
ということで今回は、両者がどこがどう違うのか書いていこう。

 

まずは大ざっぱに中台の関係を日本の歴史で例えてみる。

幕末の戊辰戦争(1868年~)で旧幕府側が薩摩・長州藩らの新政府軍との戦闘に負け、榎本武揚たちは北海道へと逃げのびた。
そして榎本たちはその地で「新政権(蝦夷共和国:えぞきょうわこく)」の「建国」を宣言。
新政府軍(のちの明治政府)を認めない榎本たちは、江戸幕府につながる自分たちこそが「日本の本当の統治者」と考えたのだろう。

さて「本当の日本」とはどっちか?
国際社会に対して日本を代表している政府は、新政府側か旧幕府側(蝦夷共和国)か?
この場合の新政府側が中国で、蝦夷地共和国が台湾(中華民国)と考えてほしい。

 

「新政権」のメンバー
前列右が榎本武揚

 

前回、中国と台湾の複雑な関係から起きた問題(台湾問題)について書いた。

平昌五輪では、韓国のテレビ局が台北を「首都」と紹介したことで中国側が激怒する。
日本では安倍首相が台湾にあてたメッセージの中に「総統」という言葉があったことで、中国側から抗議を受けて「総統」を削除した。

これらの問題の背景には、「台湾は中国の領土であって、絶対に国ではない」という中国の絶対にゆずれない認識がある。

世界のあちこちで起きている台湾問題は、中国人の「ひとつの中国」という考え方から生まれると思っていい。

習近平国家主席も全人代(全国人民代表大会=国会)で、そのことを強調していた。
毎日新聞の記事(2018年3月20日)

台湾問題については「一切の分裂につながる企ては失敗し、歴史の懲罰を受ける」と述べ、「偉大な祖国のわずかな国土であっても引き裂かれることを容認しない」と強調。

全人代閉会 習氏「憲法を忠実に実行」 「党高政低」印象づけ

 

でも、台湾をはじめ世界には、「台湾は中国の一部ではなくて、別の国」ととらえている人がいる。

前回も書いたけど、国際社会は一般的に「台湾は中国の一部(ひとつの中国)」という中国政府の主張を認めている。
日本政府もその立場で台湾政府を一国の政府とは考えず、「台湾との関係について非政府間の実務関係として維持してきています。」と外務省ホームページにある。

ではこんな複雑な中国と台湾の関係を、歴史をふり返りながら、できるだけわかりやすく説明しよう。

 

「マクドナルド」を中国では漢字でこう書くが、台湾での表記は「賣當勞」。

 

1911年の辛亥(しんがい)革命から話をはじめる。

辛亥革命とは、孫文が中国最後の王朝・清を倒して中華民国を建てた革命のこと。
このとき孫文は臨時大総統となって中華民国の建国が宣言された。

この中華民国の時代、孫文をトップとしてその下に蒋介石や毛沢東がいた。
孫文がつくった「黄埔(こうほ)軍官学校」では蒋介石(しょうかいせき)が校長、毛沢東は面接の試験官をしていた。
ちなみに、この学校の政治部主任をしていたのが周恩来。

このとき彼らはひとつだった。

 

でもこの後、中国国民党の蒋介石と中国共産党の毛沢東との間で内戦が始まる。
中国に攻めてきた日本軍は共通の敵だったから、一時休戦して共に戦っただけで和解はしていない。
だから日本がいなくなると、またお互いに銃を向けることになる。

 

 

この内戦は、農村での支持を広げた毛沢東(共産党)が勝利する。
大陸に居場所がなくなった蒋介石と国民党(=中華民国)は台湾へ移り、そこを支配して1949年に中華民国政府が成立した。

国家の存亡をかけて残存する中華民国軍の兵力や国家・個人の財産などを続々と台湾に運び出し、最終的には12月に中央政府機構も台湾に移転して台北市を臨時首都とした。

台湾問題

 

いまの日本で呼ばれる「台湾」とはこの中華民国政府のこと。
これを幕末の日本で例えると、薩長らの勢力(のちの明治政府)が中国で、江戸幕府勢力による新政権が台湾になる。

 

台湾のお札には「中華民国暦(民国紀元)」が使われている。

辛亥革命がはじまった1911年が初年。
だから、中華民国暦89年とは西暦2000年のこと。

孫文の意思を引き継いだ中華民国(台湾)は1911年からはじまった、ということだろう。

 

上は国民党の蒋介石。

下は共産党の毛沢東。

 

中華民国政府ができた同じ年(1949年)10月に、毛沢東により中華人民共和国が建国された。

蒋介石たち国民党は自分たちこそが「本来の正しい中国」で、毛沢東(共産党)の中国は「間違った中国」と考えていた。
だから蒋介石たちはいつか中華人民共和国を倒して、中国を再び手に入れようとしていた。

同じことを毛沢東の中国も考えていた。
台湾を武力で制圧して、中国を完全にひとつにしようとしていた。
でも、1950年に朝鮮戦争がはじまったから、この計画は不可能になる。

でも、それは昔の話。
いまの台湾(中華民国政府)は武力統一なんて考えていない。
中国と台湾の力の差を考えたら、絶対にムリだから。

 

いまの世界では、国連も国際社会も日本政府も、「中国」と認めているのは大陸にある中華人民共和国のほう。
中華人民共和国が代表権のある中国で、台湾はその一部であるとみている。

これが台湾問題についての習近平国家主席の言葉につながる。

「一切の分裂につながる企ては失敗し、歴史の懲罰を受ける」
「偉大な祖国のわずかな国土であっても引き裂かれることを容認しない」

 

裏は日本統治時代の中心だった台湾総督府
いまは台湾政府が使っている。

 

先ほど説明文のなかに、「台北市を臨時首都とした」と書いてあった。
このとき蒋介石率いる国民党は、台北を「一時的な首都」として、本当の首都は南京だと考えていた。

友人の台湾人は学校で、「われわれの首都は南京です」と教わったという。
でも彼にはその感覚がない。
彼のなかでは、南京はどちらかというと外国の都市で、「われわれの首都」とはどうしても思えなかった。

 

そんないまの台湾人は、中国と台湾の関係についてどう思っているのか?

ボクが話を聞いた限りでは、「現状維持」を望む人が一番多い。
台湾が中国と戦争をして統一することはあり得ない。
でも、台湾が中国にのみ込まれる(統一される)こともイヤ。

だから、「台湾が独立宣言をする必要はなく、中国と台湾の関係は今のままでいい」という意見をよく聞いた。

 

でも、台湾で会社を経営している台湾人は「もうすぐ台湾はなくなりますよ」と言う。

「いまの台湾では、中国の影響力がとても強いんです。中国の経済力はすごいですから。台湾の経済は中国なしではやっていけません。台湾はこれから、経済的に中国に支配されていくでしょうね。でもこればかりは、どうしてもようもありません」

武力を使わなくても、中国は内側から台湾(中華民国政府)を「中国化」して、「ひとつの中国」を完成することができるかもしれない。

 

 

おまけ

台湾の台北市に「国立故宮博物院」がある。
故宮は辛亥革命で倒した皇帝が住んでいたところで、故宮博物院では、そこにあった貴重なものが展示されている。
北京の故宮博物院よりも、台北のほうが展示物は多い。
その理由は、内戦に敗れた蒋介石と国民党が台湾に移動するときに、価値の高いものを台湾に運んでしまったから。
「国立故宮博物院」のホームページにそのことが書いてある。

12月初頭、中央博物院理事会は集まりで協議し、最も優れた逸品を選び、台湾へ移すことを決定。残りの文物は運輸条件が可能な限り、運搬を進めることとなりました。

伝承と開闢

 

おまけ②

2020年に新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大したとき、海外に行ったとき中国人と誤解されないため」というの理由で、台湾でパスポートの表紙にある「CHINA(中国)」の文字を消すべきだという声が高まった。
この記事を書いている時点ではどうなるか分からないけど、もしパスポートから「CHINA」が削除されたら、中国政府が「独立に向けた動き」として怒ることは確実。
海を挟んで本当に複雑な事情をかかえている。

 

おまけ③

2021年には中国の制裁を受けたヨーロッパの政治家が、「中国に訪問できなくても構わない。台湾を訪れようか。向こうは喜んでくれるだろう!!」と言った。
「いいえ、違います!わたしたちは台湾人ですっ!」と言う日々はまだまだ続きそう。

 

おまけ④

2021年9月に知った話。
コロナ対策としてロシアは中国人の入国を認めていなかったころ(おそらく2020年)、ある台湾人が飛行機でロシアへ行った。
でも彼が無事に入国できたことで、台湾では「中国の一部とみなされなかった」と歓喜の声が上がったという。
もちろんロシア政府は台湾を「国」と認識していないけど、こういう個別対応はするらしい。

 

 

 

台湾 「目次」

中国 「目次」 ②

中国 「目次」 ③

日本・韓国・ヨーロッパで起きた台湾と中国の問題(台湾問題)

 

4 件のコメント

  • 前回も書いたけど、国際社会は一般的に、「台湾は中国の一部(ひとつの中国)」という中国政府の主張を認めている。
    日本政府もそう。

    認めてはいませんよ。
    日本政府も「尊重」に留まっているだけ。
    国際社会的にも、中国の言ってることには「はいはい」と面倒を避けるだけで認めてなんかしていません。台湾のパスポート(中華民国台湾と書いてある)で中華人民共和国以上に自由に海外に行けることからも裏付けられます。

  • 日本政府が台湾を中国の一部ではなく独立国としてみていれば、国交を結んでいます。
    以前はそうでしたが、日本はそれをやめていまは中国と国交を結んでいます。
    国際社会のなかで台湾と国交を結んでいる国はほとんどありません。
    オリンピックをはじめ世界のスポーツ大会では「台湾」でも「中華民国」でもなく、「チャイニーズタイペイ」としてでているはずです。
    それが現実です。

  • →台湾のパスポート(中華民国台湾と書いてある)
    台湾も中華認めとるやんww

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。