日本人とアメリカ人の感覚の違い。”ドラえもん落書き訴訟”から。

 

夢にまで見たマイホーム。
酒や趣味などあらゆる誘惑に抵抗し、必死の思いで数千万円を貯めて家を買ったとする。

「どれぐらいできたのかなあ~」と、あるとき建築中の家を見に行ったら、そこには作業員によるドラえもんの落書きがあった・・。

2013年に兵庫県でそんな出来事が起きた。
作業員がいたずらで、玄関の基礎部分にドラえもんの顔を描く。
そして見学に訪れた家主がそれを見つけてしまった。

自分が家主だったら、これ、どうしますか?

兵庫県の男性は、裁判に訴えることにした。
読売新聞の記事(2018年09月11日)から。

男性が今年5月、「神聖な基礎部分への落書きで侮辱され、精神的苦痛を受けた」などとして慰謝料150万円を求めて提訴していた。

建築中「ドラえもん」落書き、「苦痛」訴訟和解

 

ドラえもんの落書きによる「精神的苦痛」がこの裁判の争点になる。
訴えられた建築メーカーは、「落書き部分は完成後に見えなくなる予定だった」と反論。

で結局これは、メーカー側が30万円を支払うことで和解が成立した。

 

 

このニュースはネットで大きな注目を集めた。
掲示板を見た感じでは、「それほどの精神的苦痛か?」という人より、「家主の気持ちわかるわー」と共感する人の方が多い。

・家の土台が神聖ってなんの宗教?
・基礎なん見えねえんだろどうでもいいじゃん
・こんなもん、いちいち目くじら立ててたら家なんか建てられないぜ。
・神聖とか絶対評価できんだろ、しかも侮辱じゃないし。

 

・馬鹿にされた気がするのはわかるわ
・悪気がないなら落書きしていいのかよと言いたいわ相手弁護士に
・自分でお金出して家を建てた人にしかわからん胸糞の悪さ
・買った人にとっては自分の家は神聖なものなんだろう
・見えなくなるからセーフ理論だとどんな手抜きされてるかもわからんしキレるのは当然やろ…
・わからなくなるから とかそういう問題じゃない
一生に一度の買い物を汚したのと同じです

 

他にはこんな意見もアリ。

・現場で発見した時の空気気まずそうやな
・建築中に顔出してお茶出すってのも監視のためって意味で大事なんだよね
・コンクリの上を猫が歩いて足跡ついたら、かわいいからそのまま残したい
・ドラえもんに罪はないのです
・だとしても150万はないわ
どら焼き20個くらいやろ?

 

 

 

最近、アメリカ人の友人とマクドナルドで話をする機会があった。
このとき「アメリカ人なら、この訴訟をどう思うんだろう?」と好奇心がわいたから、彼に聞いてみた。

そのアメリカ人はまず、「作業員がドラえもんの落書きをした」というところで大爆笑。
まわりの客がこちらを向くほどで、まさに「LOL(laughing out loud:大笑い)」といったところだ。
そのあと、家主が「侮辱され、精神的苦痛を受けた」ということで裁判に訴えたことを話すと、「ええっ!本当?それで訴訟?」と目を丸くしておどろく。

彼がその家主だったら、これは超ノープロブレム。全然気にならない。

「完成したら見えなくなるし、ドラえもんだろ?じゃ、まったく問題ない。問題があるとしたら、そのドラえもんの絵が上手かどうかだ」

彼の感覚ではこれは冗談の範囲内。
これで怒ることはないし、裁判に訴えることは考えられない。
アメリカ人の彼には、訴訟を起こした日本人の感覚が理解できないらしい。

 

「落書きがドラえもんじゃなくてハーケンクロイツだったら、アメリカでも訴訟問題になるな」と真面目な顔をする。

ナチスのハーケンクロイツ!
その発想はなかった。
ナチス=ドイツといえば、ホロコースト(ユダヤ虐殺)を行った悪魔だ。
ハーケンクロイツはそのシンボルで、この落書きをされたら、LOLではすまない。

 

 

念のために書いておくと、ナチス=ドイツによるホロコーストは高校世界史でこう習う。

ホロコースト

600万人が殺されたと言われる、ナチス=ドイツによるユダヤ人虐殺のこと。この用語は「旧約聖書」に由来する。ユダヤ人絶滅を目指し、アウシュビッツなど各地の収容所で計画的に虐殺がおこなわれた

「世界史用語集 (山川出版)」

欧米でハーケンクロイツは人種差別のシンボルでもある。
公の場でこれを使うことを、法律で禁止している国も多い。

友人の見方だと、普通のアメリカ人はドラえもんの落書きなら笑って許す。
けど、ハーケンクロイツなら絶対に許さない。
「これで訴訟なら、みんな納得する」という。

アメリカ社会はハーケンクロイツに厳しい。
この場合の判決は、日本人が「ええっ!本当?」と驚くほどのものになると思う。

 

 

「ドラえもんの落書きで裁判は理解できん」というアメリカ人に、地鎮祭(じちんさい)の話をしてみた。

日本では家を建てる前に、よく地鎮祭が行われる。

鹿島建設の説明によると、地鎮祭にはこんな目的があるそうだ。

工事着手前に行い,土地の神々の霊をしずめ,敷地を清め祓って,永遠の加護と工事の安全成就を祈願します。鍬入れの儀が行われます。

建設工事の式典には,どんな種類や意味があるのですか?

 

宗教の要素が加わると、彼の見方も変わった。

「それは神道の儀式だな。神道には、土地や木を神聖なものと見る考え方がある。それを『落書きによって汚された』というのなら、家主が怒って訴訟を起こすのも分からなくはない」

ここで初めて、彼も日本人の感覚が分かってきたらしい。
でも、こんなことも言っていた。

「地鎮祭のような儀式をアメリカで聞いたことがない。日本人が無宗教なんて、絶対にウソだね」

 

おまけ

アメリカといえば、訴訟大国として有名だ。
何かあると、すぐ訴える。
なかには日本人の理解を超えたものもある。

例えば、あるアメリカ人がマクドナルドで買ったホットコーヒーを膝にこぼして、やけどを負ってしまった。
これを「これはマクドナルのせいだ」と考えて、その人はマクドナルドを訴える。
そして、約7300万円をゲット。

またマイケルジョーダンによく似ている人が、そのことで「精神的苦痛を味わった」とマイケルジョーダン本人とナイキを訴えたこともある。

友人のアメリカ人は「ドラえもんで訴訟するか?」と驚いていたけど、アメリカのトンデモ裁判に比べたら、かなりまともだと思う。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。