平和を考えた⑭ 「このグラフ、何だか分かりますか?日本にとって深刻なことです」

 

 

はじめの一言

「日本人のすばらしさは、きちんとした躾(しつけ)の心のやさしさにある。アルバート・アインシュタイン」

 

 

外国へ行ったり外国人と話したりして、日本との違いに驚くことは山ほどある。その中の一つに、「外国では軍隊の社会的地位が高い」ということがある。

お隣りの韓国については、徴兵制がある。
すべての成人男性は、特別な理由がなければ必ず軍隊に入隊しないといけない。

ボクも街中やソウル駅で軍服を着た韓国人の男性が歩いているのをよく見て、日本との違いに驚いたことがある

でも韓国人に話を聞くと、行きたくて軍に行っているわけではなく、それが義務で仕方なく軍に入っているというケースがほとんどだ。

男性なら誰もが経験することだから、「韓国人の男同士なら、軍隊の話を何時間でもできます。酒があれば、何日でもできます」と、友人は豪語する。韓国人の女の子は、そんな話で盛り上が男たちにはついていけないと言っていたけれど。

「軍隊に入れば一人前」という考えがある韓国では、一般的に軍隊は尊敬されている。逆に、軍隊に入らない「兵役逃れ」をすると、厳しい社会的制裁を受けることになる。
ある韓国人の俳優は、アメリカ国籍をとって軍隊に入らなかったことから、韓国への入国を禁止されてしまった。

日本なら、「人を殺すかもしれない軍隊には行きたくない」と拒否すれば、褒められたり、共感されたりされるかもしれないけれど、韓国ではあり得ない。

 

 

フィリピンでも、軍隊は尊敬されるという。

「なんでフィリピンでは軍隊が尊敬されてるの?」とボクが聞くと、フィリピン人から、「そんな当たり前のことを、説明しなきゃいけないの?」という顔をされた。

理由は簡単で、国民の生命と財産を守っているからだ。
フィリピン人なら、学歴の高い低いは関係なく、常識として知っているという。

イギリス人に聞いても、イギリスで軍隊は一般的に高い支持があるという。
日本とイギリスは、天皇と国王がいるという共通点があるけれど、まったく違うのは、イギリスでは王族が軍隊に入ることだ。
現在のウィリアム王子をウィキペディアで見ると「軍歴」がある。

「王室の伝統に従い、2006年1月サンドハースト王立陸軍士官学校に入学した。卒業後陸軍少尉に任官し、近衛騎兵連隊のブルーズ・アンド・ロイヤルズにに配属された。2008年には海軍士官学校及び空軍士官学校でも教育を受け海軍中尉及び空軍中尉の階級も保有することとなった。

(ウィキペディア)」

こんなイギリスで、軍隊への評価が低いはずがない。

日本で考えてみると、皇族が自衛隊に入隊することは想像できない。

逆に、日本に来る外国人が驚くことに日本での自衛隊の立場がある。
憲法によると、日本には軍隊は存在しないことになっている。
ボクの周りの外国人は、自衛隊が憲法で認められていないと知ったときは、ワケが分からなかったという。

でも、外国人の目から見たら、自衛隊は軍隊以外の何ものでもない。
多くの国では軍隊は「あって当然、なければ困る」というものであるから、その存在が「違憲」であるということがよく理解できないという。

でも日本の多くの憲法学者の間では、これが「定説」のようだ。
産経新聞のコラム・産経抄にこう書いてある(2016.3.30)。

ほとんどの憲法学者も、同じ意見だという。それどころか自衛隊の存在さえ、違憲または、違憲の恐れがあるとする学者が7割を占める。

憲法のために国家がある? 3月30日

 

前に外国人にこんな話をしたことがある。
日本の学校で「自衛隊見学」の企画をしようとしたところ、多くの市民からの反対を受けて企画がなくなってしまったというものだ。
これも彼らの常識からは理解できないことで、「日本は不思議な国だ」という印象を深くしただけだった。

とか言っているボクも以前は、「軍隊や武器はなければいいし、自衛隊もなくしまえばいい」と考えていた時期があった。さすがに、今はそんなことを考えてはいな。

フィリピン人と話をしていたとき、今何かと騒がしい「南シナ海問題」の話になった。彼女の話では、豊富な天然資源があるといわれている南シナ海に、中国が「どんどん侵入してきている」という。

「南シナ海問題」

中国は、独自の「9段線」を根拠にほぼ全域での管轄権を主張。軍事力や経済力を背景に、監視船を派遣するなど実効支配を強めてきた。フィリピンはスプラトリー(南沙)諸島ミスチーフ礁を奪われた経緯から中国と激しく対立

(朝日新聞デジタル)

 

フィリピンでは、南シナ海とは言わずに「西フィリピン海」と呼んでいる。
だから、これはフィリピン側からみると「西フィリピン海問題」になる。
「何でこんな問題になったの?」
ボクが聞くと、彼女はこんなことを言っていた。

「まず、香港が中国に返還されてイギリス海軍がいなくなったの。それから、フィリピンにあったアメリカ軍が出て行ったの。それで、気がついたら中国がすぐそばまで来ていたの。『ここは中国のものだ』と宣言して、基地までつくっちゃったから、今では、もうどうしようもできないのよ」

もちろん、これは彼女の個人的な意見でしかない。中国には、中国の考えがあるとは思う。

けれど、中国は「尖閣諸島は我々のものだ」と主張しているのだから、このことは日本とまったく無関係ではないし、考えさせられてしまった。
少なくても、自衛隊は今の日本には必要な存在で、前に「なくてもいい」と考えていたことには、素直に「ごめんなさい」を言わないといけないと思っている。

 

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尖閣諸島といえば、2011年に 海上自衛隊に中国の漁船がぶつかって来た映像は、今も記憶に生々しい。
友人の自衛隊員に聞くと、あんなことは今でもよくあるという。
航空自衛隊で働いている彼は、「このことは、知ってる?」と、スクランブルの話を始めた。

 

 

こにあるグラフは、 航空自衛隊が行ったスクランブル(緊急発進)の回数を示している(航空自衛隊のHPより)。

「スクランブル」

「主に国際法上の不法行為とされる領空侵犯に対して行われる戦闘機の緊急発進がよく知られている(ウィキペディア)」 

「自衛隊のスクランブル」

「航空自衛隊では日本国の防空識別圏をレーダーサイト、早期警戒機早、空中警戒管制機化により24時間体制で監視している。国籍不明機が領空侵犯する恐れがあれば戦闘機F-15、F-2、F-4EJ改戦闘機が、緊急発進して自衛隊法84条に基づき対領空侵犯措置を実施する(ウィキペディア)」

 

このグラフを見ると、東日本大震災が起きた平成23年の翌年から、スクランブルの回数が急増していることが分かる。

平成23年といえば、自衛隊の歴史で、最も大変だった年の一つだ。
友人から聞いた話では、自衛隊の人事が白紙に戻ったのはこの年だけだという。
自衛隊の人事では、全国何十万人もの隊員がいっせいに異動するため、実際に異動する2、3年前には、次の移動先が決まって知らされることになっているらしい。

23年の3月には、例年のようにすべてが決まっていて、各自が引っ越し作業に追われていた。しかし、あの地震が起きて、もう人事異動どころではなくなった。
その後の自衛隊の活躍は、テレビや新聞の報道でご存じのとおりだ。

自衛隊が、というより日本があんなに苦しい状況にある中で、日本に向けて戦闘機を飛ばしてくる国があるのか。

 

あのとき、世界中の国が日本のために祈ったり、支援をしたりしてくれた。
でも、そうすると同時に(その機をねらって?)、どこかの国が日本の領空を侵犯していたことを知ってして、驚いてしまった。しかも、だんだんとその回数が増えている。

「いや、それがひどいんじゃなくてさ、世界の国はそんなもんだよ。どこの国だって、自分の国の利益を一番に考えているんだからさ。善意や博愛精神だけの国なんて、あるわけないじゃん。『そのくらいは、当たり前』として対応していかないとね」

こんなことで驚くことが、「平和ボケ」している証拠なのかもしれない。

こうして、ボクが記事を書いている日にも、スクランブルは2回、3回と行われているのだろう。

前にも書いたけれど、日本には平和憲法があり、日本人は憲法に基づく平和の精神をもっている。

外国に行くと銃を持った軍人を見る。
けれど、日本のように、戦争中でもないのに、駅や国会の前で若い人たちが「戦争反対」「平和を守れ」と訴えているのを見たことがない。
まあ、その場を目にしたとしても、言葉が分からなくて気づかないけれど・・。

憲法9条には、「戦力の放棄」・「戦力の不保持」・「交戦権の否認」の3つの要素があり、「平和憲法」とも呼ばれている。

そうした憲法や平和への熱い思いをもっていても、それが通じない国はあるのだろう。

でも、憲法については、それが他国へは通じないというのはまあ、当たり前だ。
日本の憲法は国内でのみ有効で、外国に適用されるはずがない。
他の国には、独自の考え方や価値観があって、それに基づいた憲法をもっている。

 

 

前に、国連が戦争(武力行使)を認めていると知って驚いたことがあったという記事を書いた。
でも、国連には国連の考え方があって、それが日本の憲法の考え方と同じであるはずがない。国連の価値観と日本の価値観に違いがあるのは、当然なんだろう。

国連では、国際紛争を解決する手段として、武力行使を認めていて、朝鮮戦争では、実際に国連軍が派遣されている。憲法9条からみたら、国連の戦争も国連軍も「憲法違反」になってしまう。

日本と外国は違うのだから、日本の憲法の考え方が、必ずしも外国の考え方と合うことはない。
それでも、憲法の平和の精神を守り続けることや駅前や国会で戦争反対の声をあげることは大事なことだと思う。

そうした活動ができたり、ふつうの日本人が平和な生活を過ごすことができたりするのも、自衛隊の日々の活動があるからこそだと思う。

 

日本の平和について、外国人から聞かれて考えてみると、やっぱり、「憲法の平和の精神」「天皇のお言葉」「自衛隊の活動」の3つの要素が大きいと思う。
これが、「三種の神器」だと勝手に考えている。ただ、トランプさんに言わせれば、「アメリカ軍を忘れるなよ!」となるかもしれない。
海外に旅に出るようになってから、自分の考え方や価値観は変わった。
特に、平和についての考え方が変わってきている。

以前は、こんなふうに考えていた。

「平和の敵は、戦争だ。そして、戦争に『良い戦争』も『悪い戦争』もない。すべての戦争は悪であって、絶対にしてはならない。そして、核兵器も平和の敵で、すぐにでもなくすべきだ。できれば核だけではなく、すべての兵器がこの世からなくなればいい」

もちろん、今でも、戦争はしてはいけないことだと考えている。
けれど、他の国がどうするかは、その国が決めることで、日本が口出しできることではない。実際、友人の韓国人には、それを強くは言えなかった。

現実の世界には、避けることができない戦いというものがあるだろうし、日本にも自衛権はあるだろう。

核兵器も同じで、日本は非核三原則をこれからも守るべきだと思う。
けれど、外国がどうするかは、外国が決めることだ。
日本は、世界で唯一の被爆国という立場から、「核兵器をなくしていきましょう」と世界に訴えていくことしかないと思う。実際に、それは外務省がやっていたけれど。

今から思えば、前に自分がもっていた平和観は、憲法の考えに影響を受けていたところが大きい。でも、ほとんどの日本人がそうだろうと思う。

実際に世界の国を旅したり、外国人から話を聞いたりすると、この考えには現実離れしたところがあったと思う。
でも、「戦争も核兵器も武器もなくなればいい」というのは、「イマジン」を歌ったジョンレノンを始め、世界の多くの人がもつ理想だと思う。

今からすぐに、世界から核兵器や軍隊をなくすことも不可能だけれど、いつかそんな日がくればいいなあと願っている。

前に、人事にいる友人の話を紹介した。
「組織の中では『何だ、こいつは?』と思ってしまう人間が必要」というものだ。

インドで平和を考えた② ~「あいつ、嫌だな」という人があなたを成長させる~

 

そういう「変わり者」には、普通の人とは違う価値観や発想がある。
他人が思いつかないようなこと言ったりやったりして、組織を活性化させる「刺激」になるという。

「核兵器は必要だ」「現実には、やむをえない戦争はある」「軍隊がないという状態は考えられない」と、今、世界の多くの国が考えている。
そんな中で、一国くらいは、戦争や武力を放棄するという「変わり者の国」があってもいいのかな、とも思う。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。