アメリカ社会と差別②「オリエント」でアジア人が怒る理由

 

「オリエント」という言葉がある。

これは、狭い意味では中東のあたり、広い意味ではヨーロッパの東(だいたいトルコ~日本)をさす。
高校世界史で「オリエント文明」というのを習った記憶があって、個人的にはこの言葉に悪いイメージはない。

この形容動詞が「オリエンタル(東洋風)」で、こうなると少しおしゃれ感や高級感がある。
だからホテルや会社名で使われる。

ディズニーランドやシーを運営するオリエンタルランドというのは「東洋の地」という意味か?
オクシデント(西洋)への対抗心?

 

知り合いのアメリカ人は「オリエント」を中立的な意味で問題ないと思っていたのだけど、アメリカにいる中国系やインド系のアジア人から、「それは差別的な言葉だから使うべきではない」と何度か怒られた。
それでそのアメリカ人は「オリエント」を封印した。

ここまでのくわしいことは前回の記事をどうぞ。

アメリカ社会と差別①「オリエント」の言葉に怒るアジア人

 

その後、そのアメリカ人(黒人女性)は日本で3年間英語を教えていて、いまは韓国で働いている。
この間、上のことが頭にひっかかっていた彼女は、日本人や韓国人をはじめ、フィリピン人、インドネシア人などいろいろなアジア人に、「オリエントって言葉は差別的と思う?」と質問してみた。
すると答えは全員一致で、「思わない」。
「なんでそれが差別なの?」と逆に聞き返されることもあった。

こういうことがあってそのアメリカ人はいま、「オリエント」という言葉に侮辱的・差別的な意味はないと結論づけている。

でもアメリカ社会に住むアジア人にとっては、差別は身近で重大な問題。
だから「意識高い系」になっていて、差別に対しては過剰なほど敏感になる。
それで話す側にはまったく悪意がなくても、「オリエントって言葉を使うのは差別だから」と風紀委員のように注意するようになった。

ボクもこの考えに同感。
「オリエント」は中立的な言葉でネガティブな意味はない。
日本ではこの理解が一般的だから、「オリエンタルホテル」が各地にある。

 

 

「アメリカにいるアジア人は差別意識が強すぎる。でも、アメリカはそういう社会だから仕方ない」と思っていたのだけど、そんなボクの意識が低かったことを最近知った。

少し前の韓国紙・中央日報(2019年02月26日)の記事にこんなことが書いてある。

オリエンタリズムは東洋に対する西洋の歪曲された認識、オクシデンタリズムは西洋に対する東洋の歪曲された認識を意味する。

「三・一運動、韓国人が世界と主体的に会った最初の事例」

 

オリエント(東方世界)に対する見方や考え方を「オリエンタリズム」という。
だから、これが「東洋に対する西洋の歪曲された認識」というのなら、オリエントという言葉にも偏見や差別的な意味があってもおかしくない。

「マジか」と思ってオリエンタリズムについて調べてみたら、たしかにそういう見方が長い間、ヨーロッパにあった。

伝統的に西欧で継承されてきた「オリエンタリズム」という概念は、東洋人のイメージとして好色・怠惰、自分の言語や地理等を把握できず、独立国家を運営もできず、肉体的にも劣った存在というイメージを作る

オリエンタリズム

 

こういう背景があると、「オリエント」と聞いて不快に思うアジア人がいてもおかしくはない。
とくに非アジア人がこの言葉をつかうときは、注意したほうがよさそうだ。

といっても、オリエンタルランドは夢の国だし、オリエンタル・エクスプレスのチケットは30万円以上するし(前回の記事参照)、個人的には腑に落ちないところもあるけど、「それは差別的」と言うアジア系アメリカ人の認識は間違っていない。

さすがアメリカ社会のアジア人、持ってる情報量が違う。
日本と違って周囲にいろいろな人種や民族がいるから、「自分と彼らの違い」に敏感になっているのだろう。
でも、日本でいまさら「オリエント」をNGワードにするのはきっとムリ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。