最高の日韓関係と「小さなトゲ」
控えめに言っても「絶好調」。
それがいまの日韓関係だ。
読売新聞社と韓国日報社がそれぞれの国民を対象に世論調査をおこない、その結果を発表した。
それによると、日韓関係について「良い」と答えた人の割合が日本人は59%、韓国人は66%と、過去最高を記録した。
相手国に親しみを「感じる」と答えた人も、日本が49%(前回47%)、韓国が43%(同41%)と、これも今までで最も高かった。
なんだかんだ言って、日韓ほどお互いの文化が身近にある国はなかなか無い。
きょねん友人の韓国人と話をしていたとき、「ソウルで利用者の多い地下鉄の駅を出ると、日本から伝わった手羽先を売る店をよく見かける」と聞いて、意外に思った。
日本でも韓国料理は人気で、一時的なブームを超えて定着したメニューも多い。
もともと日韓の国民は文化的には相手国に親しみを感じていたうえに、高市首相と李大統領が「良い関係」を築いたことが、これまでなかったほどの好印象につながったのだろう。
しかし、日韓関係は複雑だ。
歴史や領土問題ではお互いに譲れず、相変わらず対立を抱えているという現状は変わらない。
そんな「地雷」レベルの大きな危険要素は少ないが、小さな「トゲ」ならたくさんある。そその一つに「自尊心」という素朴な感情がある。

朝鮮通信使がつくった漢詩(in 清見寺)
清見寺と朝鮮通信使
江戸時代、新しい将軍が誕生すると、朝鮮はそれを祝うために、国王の代理として外交使節を江戸城へ派遣していた。
それが朝鮮通信使だ。
当時の朝鮮人にとって、日本は「未来社会」だった。
通信使の金仁謙(キム・インギョム)は日本の繁栄ぶりを見て、「驚くばかりの壮観である」と舌を巻いた。

江戸へ向かう途中、彼らは現在の静岡市にある清見寺で接待を受けていたから、今でも清見寺では、通信使がお礼にプレゼントした漢詩を見ることができる。
数年前、静岡県内の企業で働いていた韓国人をこの寺へ連れて行ったとき、こんな「のぼり」を見つけた。

当時、朝鮮通信使は現在のソウルから旅をはじめたから、東京(江戸)より先に書かれていることは分かる。
引っかかったのは、両国の友好を記念するメダルのデザインだ。

「自尊心」をめぐる日韓戦
なんで韓国の国旗が日の丸の前に描かれているのか?
いっしょにいた韓国人もこのデザインに気づいて、「きっと偶然ではないですね」と軽く笑ってこんな話をした。
「韓日関係はとても大切です。でも、だからといって、自尊心はゆずれません。日本の旗が太極旗の前にあるのは、国民感情としては認められませんね。それで韓国側が主張して、このデザインになったんでしょう」
ボクも同意見だ。
外から見れば取るに足らない違いかもしれないが、韓国側からすると、相手が日本だと「どっちが先か?」というのは、自尊心をかけた「絶対に負けられない戦い」になってしまう。
日韓か韓日か?
そしてそんな小さな摩擦が生じると、きっと日本側が「大人の態度」と称して、相手にゆずって解決しようとする。
今回の掲示物には「日韓国交正常化50周年記念」と書かれていたが、以前、日本でおこなわれたイベントで「韓日~」と韓国を先にした表記を見て「やり過ぎでは?」と思ったことがある。
たった二文字の中でも、「軽く見られたくない」という思いから、順番をめぐる“論争”があったと推測される。
2010年にはサッカーの日韓戦で、ある日本のテレビ局が「韓日戦」と表現し、ネットを中心に炎上した。
もっとも、韓国のテレビ局が日本を先に表記したら、特大炎上するだろうけど。
すごく小さなことだが、日本側が表面的な衝突を回避するために、一歩引くことをくり返すと、やがて「譲る側」と「譲られる側」という構図が固定化しかねない。
実際、もうそうなっている気がする。
文化交流イベントで直面した「壁」
日韓関係は繊細だ。
両国の距離を縮めるための身近な友好イベントでも、それを企画・運営する中では、細かな表現や順序をめぐって摩擦が発生してしまう。
大学時代、知人が韓国人の留学生とそんなほのぼのした企画を開いた際、それを実感した。
それは日本と韓国の料理を食べながら、楽しくいろんな話をして理解を深めるという、文化交流を目的としたイベントだ。
正確に覚えていないが、「のり巻きとキンパを食べて日韓を知ろう」といった名称だったと思う。
この企画を実施するまでに、知人の日本人はこんな「壁」とぶつかった。
・韓国料理が「先」
日本の学生サイドがパンフレットの原案で、日本の食べ物を先に表記したものを見せると、韓国側が難色を示す。
それで、日本側があっさりゆずり、「キンパとのり巻きを食べて日韓を知ろう」というタイトルになる。
・韓国語が「上」
パンフレットの原案で次に問題になったのは、日本語と韓国語の併記だ。
日本語のタイトルの下に韓国語のタイトルが書かれていたため、韓国サイドが「韓国語を上にしてほしい」と求めた。
これは日本の大学でおこなわれるイベントで、参加者はきっと日本人のほうが多い。
日本サイドがそう話してその案を通そうとしたが、留学生たちは反発し、過去の歴史にふれてサラリとこう言ったという。
「日本は過去、韓国に悪いことをしました。だから、日本側がこちらの感情に配慮するべきです」
このとき日本の学生で、こんな日韓友好のためのイベントで歴史問題が持ち出されるとは、だれも予想していなかった。だから、みんな「ア然」としたという。
しかし、留学生は「それが当然」という態度をしていて、結局、日本語は下に併記されることとなった。
知人はポジティブな考え方をしていて、留学生との話し合いの中で、自分の意見を強く主張することや話の展開などで「文化的な学び」があったと話していた。
「こっちはキンパを先にしたのだから、あっちは日本語を上にしてくれるだろう」と考えていたが、そんな日本的な「ゆずり合い」の精神はただの思いこみで、外国人には通じないこともある。
おそらくキンパを食べること以上の収穫だ。
日常や政治に潜む「自尊心」
日韓では、こんな展開はわりとあるらしい。
日本のあるビジネスマンが韓国企業と仕事の交渉をしていて、韓国側が思いどおりにならないと、歴史を持ち出して日本側を揺さぶってきたという話を聞いた。
日韓の政治でもそんなことはよくある。
韓国の感覚では当然でも、日本からすると急に「歴史問題」や「国民感情」が出てきて戸惑うようなことが。
じつは「朝鮮通信使」という名前についても、韓国側では不満がある。
その呼び方は日本の視点でのものだから、韓国人にとってはあまり気分が良くないらしい。

以上、ここまで紹介した事例は、どれも根本的には「自尊心」が深く関わっている。
相手を尊重することも大切だが、絶対にゆずれないものはある。
どちらかというと、その思いは韓国側に強い。
現在、日本人も韓国人も相手の国に良い印象を持っていて、両国の関係もかなり好調だ。しかし、小さなトゲはいくつもある。
韓国では今でも「日本=加害国、韓国=被害国」という前提で、日韓は対等でもあっても平等ではないと考えている人は多いだろう。
そして、その観点から、むしろ韓国側が妥協する面が多いと感じている。
これからも日韓友好を掲げたイベントでは、表には出ない小さな「自尊心」をかけた日韓戦がくり返されると思われる。

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