知人に東アフリカのタンザニア出身で、今は静岡の大学に通っている留学生がいる。
ここではそのタンザニア人を、スワヒリ語で「信仰」や「信頼」を意味する「イマニ」と呼ぶことにしよう。
イマニといっしょにイオンへ行って買い物をした後、サイゼリヤで食事をしながら話をした。
日本とタンザニアの文化について、彼が感じた違いとは?
アフリカの視点から見る「七夕」は呪術的?

イオンの中にあった「七夕コーナー」
イマニ:なあ、あれは何だ?
ーー日本の文化の「七夕」だよ。
7月7日に、願いごとを書いた短冊を竹にくくりつけて、望みがかなうことを祈る。
タンザニアにもそんな文化はあるのか?

イマニ:願いごとは誰にだってあるさ。ただ、そのやり方は信じる宗教によって違う。
たとえば俺はキリスト教徒だから、教会へ行って自分で祈るか、聖職者にお金や食べ物を渡して祈ってもらう。
ーーそのスタイルは、日本人がお寺や神社で祈るのと同じだな。
イマニ:あんなふうに願いごとを紙に書いて、それをくくり付けるのは「呪術的」に見えるね。
ーー呪術? たしかにあれは一種のおまじないだけど⋯。
でも、あのキレイなものがそんな恐ろしいものに見えるのか?
イマニ:見た目じゃなくて発想がね。タンザニアであの行為に近いのが呪術なんだよ。
願いごとを書いた紙や布を持って森に入って、精霊や悪霊に祈る人がいる。
もちろんタダじゃなく、動物を犠牲にしてささげたりする。
ーーそうなんだ。
アフリカの視点だと、七夕が黒魔術に見えるとは思わなかった。
タンザニアが誇る「平和」と、国をつなぐ言葉の力
(サイゼリヤの店内で)
ーー日本では、日本について治安の良さや豊かな四季を誇りに感じている人が多い。
タンザニアについて、イマニが誇れることは何かある?
イマニ:もちろんあるさ。それは「平和」だね。
ーーそれは日本の自慢でもあるな。日本は戦後ずっと、海外で武力行使をしたことがない。
タンザニアはどんなふうに平和なんだ?
イマニ:アフリカというと、各地で戦争や内戦があって「いつも争っている」ってイメージがないか?
でも、タンザニアではそれがとても少ない。
これはとても素晴らしいことなんだ。だから、俺は誇りに思っている。
ーー言われてみれば、タンザニアはわりと平和的な感じがする。
平和を維持できている理由とは?
イマニ:アフリカでは、民族や宗教の違いが対立の原因になることが多い。
タンザニアも100以上の民族がいる多様性にあふれた国だ。でも、政府は国語のスワヒリ語の教育に熱心で、それが人びとをまとめていて分裂を防いでいる。
ーーアフリカはヨーロッパの植民地にされたことも、対立の原因になっているよな。
ヨーロッパ人たちが自分たちの利益を考えて、地図上にまっすぐ引いた線がそのまま現実の国境になったし。

ーー日本は国民の95%以上が同じ人間で、世界的に見ても同質性の高い国だから、アフリカの多様性は想像しにくい。
でもタンザニアの場合、言葉が国をつなぎ止めているわけか。
イマニ:タンザニアが平和的な国家である理由は、もちろん他にもある。でも、みんなが同じ言葉を使っていることが、大きな要因であることは間違いない。
ーー「同じ国民なのに言葉が通じない」ってことは海外ではあるよな。
日本に住んでいるインド人とご飯を食べに行ったら、こんなことがあった。1人は南部出身でヒンディー語が話せなくて、もう一人は北部出身でタミル語が話せなかった。
だから、2人は英語で会話をしていたんだよ。
イマニ:アフリカでも、共通語の英語やフランス語を使って話すのはよくあることさ。
その点、タンザニアでは、ほとんどの人がスワヒリ語を話せるからその必要はない。
ーー日本では逆だね。英語を使われたら、ほとんどの場合、コミュニケーションが成立しなくなる。
日本が平和である理由は、国内に住んでいるのがほとんど同じ民族で、共通の言語を使っていることが大きいのかもな。
イマニ:「かも」なんて控えめな言い方をしなくていいよ。それが正解だ。

西アフリカの家
日本食への驚きと「アクワイアード・テイスト」
ーーここはサイゼリヤって言って、日本風のイタリアンを出すレストランなんだ。
料理はどうよ?
イマニ:最初、値段が安くてビックリした!
ーー知り合いのリトアニア人も同じことを言ってた。バグかと思ったって。
イマニ:でも、出てきた料理の大きさを見て納得した。
味はいいね、俺は好きだよ。
ーー今にはもう2年以上もいるから、いろんな日本料理を食べたと思う。
タンザニアの食文化とはどんなところが違うんだ?
イマニ:日本では生ものを使った食べ物が多いだろ?
アフリカの食文化だと、肉を焼いたり煮たりして、必ず熱を通すからそこが決定的に違う。
だから、天ぷらはすぐにファンになった。
ーーなるほど、生魚は今でもダメなのか?
イマニ:もう大丈夫だ。
時間がかかったけど、慣れたら寿司や刺身が美味しく感じるようになった。
ーー最初は「まずっ!」とか「きもっ!」と思ったけど、何度か食べると美味しさを感じるようになる。
いわゆる「アクワイアード・テイスト(Acquired taste)」ってやつか。

イマニ:そうだな。あと、日本のレストランによくある「日替わりメニュー」には感心したね。
アフリカの飲食店だと料理の選択肢が少ないから、毎日違うメニューを用意する発想はとても新鮮だったんだ。
行列のできる日本、相席を楽しむタンザニア
ーーさて、店内が混んできて行列もできているし、そろそろ帰るか。
サイゼリヤは人気店だからね。
イマニ:そういうところもタンザニアの文化と違うんだ。
タンザニアだったら、あんな行列はできないね。
ーーどういうことだ?
タンザニアの料理人は手を抜くから、飲食店の食べ物はだいたいどこも味が同じで、列に並ばないで別の店へ行くってこと?
イマニ:悪意に満ちた見方だな。
そうじゃない。レストランのテーブルがいっぱいになったら、相席して食事をするから列ができないんだ。
ーー 知らない人と向かい合ってご飯を食べるのか。
気まずくて食事に集中できないな。
イマニ:タンザニア人はオープンだから、新しい人との出会いを楽しむ人が多い。むしろ、食事は美味しくなるね。
でも、日本人は知らない人を強く警戒するだろ?
ーー警戒というよりは尊重かな。
他人のパーソナルスペースに侵入しないのが礼儀だから、ファミレスで相席はないな。相席が前提になっている店もあるけど、それは食事が目的じゃない。
イマニ:日本人とタンザニア人じゃ、人間関係の距離感がまったく違う。俺がこの国に2年ほどいて、感じた大きな文化的な違いはそれなんだ。

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