無能な働き者は⋯
ドイツの軍人ゼークトは、軍人を次の4つのタイプに分けたという。
有能な怠け者は指揮官に適している。
有能な働き者は参謀に向いている。
無能な怠け者でも連絡将校は務まる。
無能な働き者は銃殺するしかない。
ただし、これは日本のネットに伝わる「伝説」だ。
この元ネタはゼークトではなく、彼と同じ時代のドイツ軍人「ハンマーシュタイン=エクヴォルト」が唱えた「将校の4分類」とされている。
ハンマーシュタイン=エクヴォルトはその中で、次のように述べたとされる。
「もっとも注意すべきは愚かで勤勉なもので、このような者は害を及ぼすのみである」
組織のためになると思って一生懸命に活動するけれど、方向性が間違っていると、ほかの人が後始末に追われる。
現実的には何もしないことが、組織にとっては最大の貢献になるという人物もいる。
動機は「善」でも結果は「災い」に?
日韓で逆転する「安重根」の歴史認識
動機は「善」であっても、誤ったことを全力でやると災いしか引き起こさない。
個人的に、韓国で「良心的」と呼ばれる日本人もこれと同じニオイがする。
先月、高知で「安重根」騒動があったことは今も記憶に新しい。
韓国社会において伊藤博文は『侵略の元凶』として忌み嫌われていて、伊藤を暗殺した安重根(アン・ジュングン)は国民的英雄とされている。
しかし、日本の立場からすると、初代首相を務めた伊藤を暗殺した安重根は『テロリスト』になる。
どの国でも、元首相を殺害した人物はそういう扱いを受けるはずだ。
日韓では歴史認識が逆転し、埋められないミゾがあることは仕方ない。
とはいえ、ナポレオンが祖国フランスでは英雄でも、スペインでは侵略者と見なされるなど、同じ人物でも評価がひっくり返ることは世界的にある。
日本では、韓国側の歴史認識と完全一致する人もいる。
そんな人たちが高知のリゾートホテルの敷地内に、安重根を称える記念碑を設置し、その中のひとりが除幕式でこう述べた。
「安重根義士の東洋平和の思想と人類共栄の精神を広く伝え、次の世代に韓日の和解と協力の重要性を伝える意義深い機会になる」
高知のリゾートホテルで起きた記念碑騒動
しかし、繰り返しになるが、日本にとって彼はテロリストだ。
そんな人物を称える像が設置されたと知って世間は沸騰し、ホテルには批判が洪水のように殺到した。
くわしい内容を知らされていなかったホテル側は「心よりお詫び申し上げます」と謝罪し、この像を速やかに撤去した。

結局、この像は日本で一週間も存在できなかった。
除幕式に参加した李洛淵(イ・ナクヨン)元総理も、メンツを潰された思いだろう。
この騒ぎがもたらしたものは、まさに「災い」だ。
騒動に対する韓国の反応
韓国メディアの報道を見ると、間違った歴史認識をもつ日本の「右翼勢力」によって、この像が撤去されたといったことが書いてある。
ある報道に対する読者の反応は以下のようなものだった。
・おすすめです(추천해요):6
・いいね(좋아요):8
・感動しました(감동이에요):5
・怒っています(화나요):654
・悲しいです(슬퍼요):15
つまり、韓国では圧倒的多数の人が「怒り」を感じているのだ。
その具体的なコメントを紹介しよう。
・日本はテロ国家だ。
・戦犯国家が何を被害者ぶっているんだ?
・自分たちが我が国の主権を侵奪し、明成皇后を殺害したことは何とも思わないのか。あの連中め。
・「韓日友好・東洋平和」が何がいけないんだ? 心の狭い日本(笑)。
・暗殺ではなく処断だ。我々の朝鮮を踏みにじった罪で……。
しかし、韓国での反応は「日本非難」一色ではない。
少数だが、日本の立場を理解する人もいた。
・我々には英雄だが、あちらの立場ではテロリストが正しい。それを否定するなら民主主義ではない。
・日本人にとって安重根はテロリストだろう、愛国者か?
・我が国に、6.25(朝鮮戦争)のとき軍を送った毛沢東の銅像を建てたら、受け入れられるだろうか?……まあ最近は国防部が抗米戦争と呼んだりもしているけど……。
日本の反応もほとんどが怒りや不満で、なかには韓国側に一定の理解をする人もいた。
「良心的日本人」は対話の接点か、無能な働き者か
今回、安重根の像を日本国内に建てようとした人たちは、両国の友好を願った「善人」だったはずだ。
しかし、韓日友好と日韓友好は「イコール」ではない。
彼らの動機は純粋だったが、きっと対立の種を持ち出すことになると気づいていなかった。
だから、像の設置は失敗に終わっただけでなく、嫌韓感情と反日感情を刺激し、日韓の分裂を深めることとなった。
こんな結果になるのなら、最初から何もしないほうが良かった。
韓国が好意的に評価する「良心的日本人」は、努力するほど大きな災いをもたらす「無能な働き者」になることが多い――。
個人的にはそう考えているけれど、知人の韓国人は違った。
彼は韓国の日本企業で働くサラリーマンで、日本語を上手に話せるし、日本の文化も大好きだ。
しかし、歴史認識は一般的な韓国人と同じで、日本は韓国に悪いことをしたのだから、謝罪してほしいと考えている。
そんな彼からすると、日本でも自分たちの歴史認識に共感する人がいるという事実は重要だ。
「日本人は全員が歴史問題を否定しているわけではない」と感じられることで、最低限の対話の余地が生まれるという。
もし、「良心的日本人」がまったくいなかったら、「日本とは完全に分かり合えない」と心を閉ざし、関係はもっと冷え込んでしまう。
その意味で良心的な日本人の存在は、対話の接点をつくる役割を果たしているというのが、彼の意見だ。
そうは言われても、そうした人たちは善意で動いていても、状況を悪化させているとしか思えない。
実際、安重根像の設置は「日韓友好」どころか、火に油を注いでしまった。彼らは一生懸命に働いたのだろうけど、結果的には足を引っ張っている。
もっとも重要なことは動機の美しさではなく、結果の正しさだ。
韓国ベースで友好親善をするのは「良心的日本人」か、それとも「無能な働き者」かは見る人の価値観によって異なる。
日韓関係は本当に複雑でむずかしいのだ。

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