韓国の「言論弾圧」:政府の反日を批判したメディアのいま

 

「ここはオレにまかせろ!おまえたちは早く行け!」というセリフなみに、人生で一度は言ってみたいと思う言葉がある。

「私はあなたの意見に反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」

中世のヨーロッパを代表するフランスの文学者で哲学者のヴォルテールがこう言ったという。
民主主義の精神や言論の自由を象徴する言葉として、世界的に有名な言葉だからおぼえておこう。

高校世界史で必ずならうヴォルさんについて、くわしくはここをクリック。

ヴォルテールの思想は啓蒙思想の典型である。彼は、人間の理性を信頼し、自由を信奉した。ヴォルテールの活動として最も有名なものは、腐敗していた教会、キリスト教の悪弊を弾劾し是正することであった。

ヴォルテール

ヴォルテールの墓

 

朝鮮日報の報道(2020/04/22)によると、ヴォルテールの言葉と反対のことがいま隣国で起きている。

「政権の意向に合えば公正放送で、合わなければ不公正放送なのか」

韓国の「TV朝鮮」の記者でつくるTV朝鮮記者協会がこう怒りをぶちまけた。

「言論の自由を深刻に侵害する」
「言論の公正性を政権が裁断し、報道機関に極端な制裁を加えることは、民主主義の国ではあり得ない」

これは、政府・与党の影響を受けた放送通信委員会がTV朝鮮に「条件付き再承認」を決定したことへの反応。
つまり委員会が提示した条件の範囲内でしか、表現の自由は認められないことになる。

でもこの判断基準が中立でも公正でもなく、政府寄りだったことで、TV朝鮮の記者たちは「納得しがたい。政権の意向に合う放送は公正で、政権の意向に合わない放送は不公正なのか」と大反発だ。

TV朝鮮の記者たちは、出演者が注意・警告など法定制裁を一度でも受けたら出演禁止とし、時事番組が法定制裁を3回受けたら番組を廃止する「三振アウト制」などが悪用される余地も懸念している。

 

この記事にはTV朝鮮のどんな報道が問題視されたか書いてないけど、きょねん韓国政府を批判したことがやり玉にあげられたから、それではないかと思う。

日本に対して反日的言動をくり返す文大統領や政府を名指しして、「政府が反日感情を煽っていることが果たして韓日葛藤の解決策になるか」「竹やりを手に持って日本と戦おうという曹国民情首席の主張は韓日関係に何の役にも立たない」と報道してTV朝鮮は政府と与党、それに支持者から「親日美化的な発言をした」と徹底的な攻撃をうけた。

TV朝鮮は日本やアメリカとの関係を重視していて、それを傷つけるような政府の対応を厳しく批判していた。
でも韓国で反日(または反日愛国)はひとつの「正義」として確立しているから、それを批判するメディアや政治家は「親日」のレッテルを貼られて袋叩きになってしまう。

TV朝鮮の記者たちはこう訴える。

「我々は前政権・現政権を問わず、権力の監視者役を忠実に行い、事実を報道するため努力してきた。『事実を見て、真実を述べる』という姿勢で国民の知る権利のためジャーナリストの使命を果たす努力をしている」

また野党の推薦をうけた放送通信委員会の委員は、「公正性を政府が審査して再承認基準とすれば問題にならざるを得ない」と韓国メディアの自由を危惧する。
サラリと書いたけど、日本政府がこんなことをしたら、メディアや国民から総攻撃を受けるのは間違いない。

 

韓国政府による“言論弾圧”は昨年で特に見られた。
「解決策を提示せず、国民の反日感情に火を付ける韓国大統領府」と朝鮮日報(日本語版)が報道すると、これに激怒した政府はに削除に追い込んだ。
また、「韓国はどの面下げて日本からの投資を期待するのか?」という中央日報の記事にも“圧力”を加えて削除させている。

くわしいことはハンギョレ新聞の記事(2019-07-18)をどうぞ。

大統領府報道官、「朝鮮日報」日本語版の見出しを真っ向批判

 

日本が行った輸出管理強化に対して、「日本には二度と負けない」「盗人たけだけしい」と批判するだけで具体的な対策を示せなかった政府を、「解決策を提示せず、国民の反日感情に火を付ける韓国大統領府」と朝鮮日報が表現したのはまさにその通りなのだけど、こう書くと「親日」と言われてたたきつぶされる。
この言葉は韓国社会では致命傷となってしまう。

この程度の政府批判なんて日本なら日常茶飯事で、メディアに報道を削除させるなんて考えられない。
国民の知る権利のために「事実を見て、真実を述べる」という信念を持つ人間とっては、いまの韓国は辛すぎる。
政府の反日にくぎを刺す報道はこれから減っていくだろうし、韓日関係も良くなりそうにない。
ヴォルテールはムン政権の韓国に生まれなくてよかった。

 

 

こちらの記事もどうぞ。

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ①

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ②

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ③

 

4 件のコメント

  • リアル「1984年」の世界ですね。現実の日本では、その年、故郷を離れた私が東京で職についたばかりでしたが。スマホも、インターネットもなかった時代でしたけど、これよりマシだったと思います。
    こんな社会で生きるのは、ごく一部の「目覚めている人」にとっては辛いでしょうね。

    が、もしも世の中を変えたければ自分たちの責任で動くしかありません。動くのが嫌で、それでも世の中に不満があるなら自分を変えるか、耳と目を閉じ口をつぐんで孤独に暮らすしかない(草薙素子 談)。

  • その、韓国で言うところの「保守系」「進歩系」という言葉の定義が、また韓国に独特の定義であってややこしい。「保守」と言うがいったい何が? 「進歩」って何が? 韓国人は単語の意味が理解できてないですよ。
    と言っても、漢字を撤廃してしまって今では「ハングル読みがな」だけなのだから仕方がないか。しょせん、「保守」も「進歩」も日本人が考案した漢字熟語であろうから、韓国人が理解できない、理解しようとしない、意味を継続保持できないとしえも、やむをえないでしょう。
    呉善花さんの言う通り、漢字を廃止してしまったのは、長い目で見ると韓国社会にとって大きなマイナスとなりそうですね。その一つが「社会全体の知的水準の低下」だと思う。

  • ハングル文字でも保守と進歩はあるとおもいますよ。
    保守系の朝鮮日報は韓米日の関係を重視していますし、自身を保守と認めています。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。