仏教とジャイナ教の共通点と違い:無所有・不殺生/全裸OK

 

世間がコロナコロナと騒いでいるのに今年のハロウィーンの日も、コスプレして街を歩く若者が全国に出没。

福岡市の警固公園には思い思いの格好をした人たちが集まり、その中で興奮して我を忘れたのか、それともはじめからソレが目的だったのか、20歳の男が全裸になって公然わいせつの現行犯で高速逮捕された。

テレビ西日本の報道で目撃者は語る。(11/1(日) )

「一人でちょっと張り切ってて、自分もちょっと注目してたら、いきなり全員注目とか言い出して、全員(の前で)全裸になりだして、そのまま3秒後ぐらいに捕まった」

「注目を浴びたかった」 ハロウィーンで全裸に 男を逮捕 福岡市の公園

「3秒以内ならOK」のルールは通用しなかったか。

 

この変態にネットの声は?

・皮を被ってたんだよ
・全裸にスニーカーって、意外と似合うもんだな。
革靴が王道かと思っていたら、そうでもない。
・「ファッションは引き算の美学」イブ・サンローラン

日本では開始3秒で逮捕されるこの事案が、街中で白昼堂々とおこなわれる国があるらしい。
そこでは日本でいう変態が”聖者”とみなされる。

 

 

少し前にヒンドゥー教徒のインド人4人を静岡にあるお寺へ案内して、いろいろと話をしたときにジャイナ教の話題がでてきた。

ボクがインド旅行でジャイナ教の寺院に行ったとき、ガイド兼ドライバーから「皮の財布、靴、ベルトがあったら、車に置いていけ」と言われたことを話すと、「それがジャイナ教の人たちの考え方ですね。彼らは生きものをめちゃくちゃ大事にしていて、命を奪うことを厳禁しています」と言う。

日本でジャイナ教は、信者はゼロかいてもほぼゼロのマイナー宗教だけど、マハーヴィーラがはじめたこの宗教とシャカがはじめた仏教には共通点がたくさんある。
どちらもおよそ2500年前のインドでバラモン教を母体にして生まれた宗教で、開祖のシャカとマハーヴィーラは王族のクシャトリヤ・カースト出身だ。
両者は超ハードな苦行を実践して、真理を悟ったブッダは(目覚めた者)、同じように真理を悟ったマハーヴィーラはジナ(勝利者)と呼ばれ、それぞれが民衆に教えを広げていった。
だから「どっちもそっくり」というレベルを超えて、同一視されてマハーヴィーラも「ブッダ」と呼ばれたことがある。

「勝利者(悟った者)であるジナの教え」という意味のジャイナ教では、こんな考え方を大事にしている。

・生きものを傷つけない(アヒンサー)
・虚偽のことばを口にしない
・他人のものを取らない
・性的行為をいっさい行わない
・何ものも所有しない(無所有)

この考え方は仏教の五戒とよく似ている。

・不殺生戒(生きものを故意に殺してはならない)
・不妄語戒(嘘をついてはいけない)
・不偸盗戒(他人のものを盗んではいけない)
・不邪婬戒(不道徳な性行為を行ってはならない)
・不飲酒戒(酒類を飲んではならない)

インド人から話を聞いても、ジャイナ教とヒンドゥー教の考え方には共通してるところが多いけど、大きな違いは、ジャイナ教ではやり方がとても極端なところ。

例えばジャイナ教で特に重視されている、命あるすべてのものを絶対に傷つけないという「アヒンサー」をみてみよう。

ジャイナ教はあらゆるものに生命を見いだし、動物・植物はもちろんのこと、地・水・火・風・大気にまで霊魂(ジーヴァ)の存在を認めた。したがって、アヒンサーの禁戒のためにあらゆる機会に細心の注意を払う。

ジャイナ教

 

「皮の財布、靴、ベルトが~」という話はこの教えに基づいてる。

*いままでにヒンドゥー寺院には何度も行ったことがあるけど、事前にこんな注意を受けたことは一度もナッシング。

ガイドの話では以前、「いやいやバレないだろう」と皮の財布をポケットに隠し持ってジャイナ教寺院に入ったインド人がいた。
でもそれが見つかって大騒ぎになり、期間は忘れたけど寺院は一般信者や異教徒をシャットアウトして、聖職者が祈りを唱えたり儀式をするなど大がかりの「浄化作業」をしたという。
ジャイナ教徒にとって革製品は、神聖を汚すあってはならない存在らしい。

500年ほど前にヨーロッパ人のカトリック宣教師がインドに来て、ふだん飲んでいる水には微生物がたくさんいることをジャイナ教徒に顕微鏡で確認させたところ、彼ら(一人かも)は水を飲むのを拒否して衰弱死を選んだという話が宣教師の記録にある。

 

ほかにもヒンドゥー教とは違い、ジャイナ教では玉ねぎやジャガイモを食べることも禁止されているとインド人は強調する。
地面から掘り出すと小さな生命をつぶす可能性があるから、そういう野菜は口に入れてはいけないことになっているという。
仏教の不殺生戒もここまで厳しくはない。
ただむかしのチベット仏教ではジャイナ教と同じ理由で、地面を掘り起こすことができなかったという話は聞いたことがある。

 

そんなジャイナ教は全身を白い布でおおった白衣派と、無所有の教えに基づいて「真っ裸」になる裸行派の2つのグループに大別される。

 

 

このグループのジャイナ教徒は白衣に加えて、空気中の小さな生きものを吸い込まないようマスクをしている人もいる。

地面の生命を踏み殺さないために、足元をホウキで掃きながら歩くという話を聞いたことがあったけど、インド人にたずねたら「なにそれ?」とのこと。
ウィキペディアにも「実際には道を掃きながら歩くわけではなく、座る前にその場を払うための道具である」とあるから、都市伝説のひとつらしい。

 

白衣派の人たちは日本でも社会生活をおくることができるけど、いわゆる「マッパ」の裸行派の人たちは法が存在を認めない。
物にとらわれないという「無所有」の考え方は仏教にもあるけど、さすがに服を全て脱ぎ捨てて外出することはない。

マハーヴィーラのこの像は全裸になっているから、開祖は裸行派だったのだろう。

 

 

日本なら3秒で捕まるこの姿も、インドでは法律で認められ保護されている。
一緒にお寺へ行った4人のヒンドゥー教徒のインド人のうち2人は、スターバックスがあるような街中を全裸で歩く裸行派のジャイナ教徒を見たという。
20代のインド人は2回、30代のインド人は1度だけ、その神々しい姿を目にしてビックリしたけど、ジャイナ教の話は知っていたし写真も見たことがあったから、「あれが本物か!」と思ってちょっとドキドキして横を通りすぎた。
日本でいうなら、渋谷で芸能人を見かけたようなものか。

人生で1~3回しか遭遇したことないというから、確率的にはインド社会の「はぐれメタル」といえる。
もしこちらが攻撃しても、相手がジャイナ教の教えを忠実に守るとしたら、やり返さずにそのまま殺されることになる。

 

裸行派の信者が歩いていても、周囲の人は二度見したりスマホを構えることもなく、(内心は知らないけど)普通にしていたから、彼らは法的にも常識的にも21世紀のインドに受け入れられている。

「全員注目!」と言って服を脱ぎ出しても、きっとこの国は動じない。

 

 

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1 個のコメント

  • >ジャイナ教で特に重視されている、命あるすべてのものを絶対に傷つけないという「アヒンサー」
    それではおそらく、消毒という衛生観念は、あり得ないのでしょうね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。