日本人と台湾人、漢字のセンスの違い。邪馬台国は「侮辱」か?

 

2世紀~3世紀に日本に存在したとされる国、邪馬台国。

その時代の日本の様子を伝える佐賀の吉野ケ里遺跡がこのたび、めでたく30周年をむかえたということで西日本新聞にこんな記事があった。(2020/5/19)

教科書でも紹介される遺跡となった。当初の工業団地造成計画から一転、国営、県立公園として丸ごと残った国内最大級の弥生の環壕(かんごう)集落が、全国に与えたインパクトは想像を超えるものだった。

「邪馬台国時代のクニ」が大ブームに 吉野ケ里、国史跡指定から30年

いまとなっては、ここに工業団地をつくろうとしたことが考えられない。

 

この邪馬台国について日本では、九州にあったのかそれとも奈良かという”所在地”がよく議論になるけど、ある台湾人が注目したのはそこではなく漢字で、SNSにこうコメントする。

「私は漢字圏の国の者です(でも中国ではない)。邪馬台国の邪馬の字は本当に相手を下見する文字です。なぜ日本人は平気に使うのか。自分の祖先を侮辱する気でしょうか。」

「下見する」というのは見下すという意味だろう。

 

やっぱり漢字の民はセンスが敏感。
知人の台湾人は日本のアニメを見ていたとき、登場人物の「おまえ、まじでジャマ」という言葉を聞いて、あとで調べたら「邪魔」と知って心から驚いた。
*台湾なら「妨害」を使うらしい。

「邪魔というのはとても強くて悪い意味です。家族や友人に言っていい言葉ではありませんよ」てなことをその台湾人は言う。

たしかに邪悪の邪に悪魔の魔だから漢字を見るとひどい言葉で、台湾人に向かって「おまえ邪魔!」と言ったらケンカになるかもしれないけど、日本人は「じゃま」とひらがなで言っているから特に問題はない。
中国語(台湾華語)と違って日本語にはひらがな・カタカナ・漢字と文字が3種類あるから、気分や状況に応じて使い分けることができる。
厳格さをアピールするなら漢字だけど、かわいさを強調するなら平仮名がもってこい。

 

こういうのが平仮名だと重さやありがたみが消える。
これは伊豆の修善寺にあったものだけど、このとき一緒にいた台湾人に聞いたら、問題なく読めるし意味も分かるという。

 

台湾人と一緒にいて、漢字から受ける印象の違いを感じたことは他にもある。

時代は400年ほどさかのぼり、16世紀に豊臣秀吉が朝鮮出兵を行ったとき、日本軍は姜沆(カン・ハン)という儒学者を捕まえて日本へ連れてきた。
姜沆は日本の社会や人について見聞きしたことを「看羊録」という書に記す。

あるとき「看羊録」を知人の台湾人女性に見せたとき、日本に憎悪を持った姜沆が日本人を「倭奴」と何度も表現しているのを見て、彼女は「気分が悪くなります。もう読みたくありません」と言う。

「これってそこまで悪い言葉か?」と内心思ったけど、その台湾人からすると「倭奴と書いてあるを見て、あなたは何とも思わないのですか?」と逆に不思議だったらしい。

いまなら「倭奴」は差別用語でNGだけど、16世紀には16世紀の価値観や表現があるから、それはそのまま表記するべきでしょ。

とはいえ韓国では現代でもこの言葉が使われることがある。

たとえば韓国では小学生用の国語辞典でも「ウェノム」は載っており「日本人を罵っていう言葉」と注釈がある。

倭人・朝鮮における倭人の蔑称としての「倭奴」

 

こんなふうに漢字への感受性が高い台湾人からすると、邪馬台国の「邪馬」も「なぜ日本人は平気に使うのか。自分の祖先を侮辱する気でしょうか」と言いたくなるほどひどい言葉に見えるらしい。
個人的にはこの漢字を見ても「覚えにくっ」以外の感想はなくて、中学生のころは正確な漢字を書けるよう心密かに「じゃうまだいこく」と呼んでいた。

それに日本人の頭の中ではこれもやっぱり「やまたい国」とかわいく変換されているから、誰かにそう指摘されない限りは何とも思わないだろう。

 

でも、「邪馬の字は本当に相手を下見する文字です」というコメントで気づいたけど、むかしそう言えば卑弥呼を見て「なんで女王に「卑しい」という言葉があるのか?」と疑問に思ったことがある。

その答えは中華思想にあり。
古代の中国人には、中国だけが世界最高の文明を持つ国で、まわりを見下す「中華思想」という考え方があった。
例えば中国の王朝は漢、魏、晋、唐、隋、宋と1文字表記なのに対して、周辺国は匈奴、鮮卑、東胡、烏丸と2字以上の表記にし、さらには虫編や差別的な意味の文字をあてていた。
*それで台湾の閩南語(びんなんご)を「侮辱的だから嫌い」と言う台湾人に会ったこともある。

日本の国や人に邪馬台国とか卑弥呼とか失礼な漢字をあてたのは古代中国人で、これも中華思想によるものという説が有力だ。

 

おまけ

弥生時代の日本はこんな感じ。

「いま倭の水人は、好んでもぐって魚やはまぐりを捕らえ、体に入墨して大魚や水鳥の危害をはらう。のちに入墨は飾りとなる。 」

「盗みはなく、争論も少ない。法を犯す者は軽い者は妻子を没収し、重い者は一族を根絶やしにする。」

くわしいことは魏志倭人伝をどうぞ。

 

 

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4 件のコメント

  • そりゃ「邪馬台国」も「倭奴」も「匈奴」も「鮮卑(朝鮮)」も全部中国による蔑称で間違いありません。
    だけど、現代の中国・台湾と日本では漢字の意味が一致してないですから。歴史的事実を述べるのに「蔑称」だからと言って別の言い方をしたりはしませんよ。日本人はそれほどバカじゃない。
    それより、日本語の侮蔑語が、今ではほとんどカタカナ化されてしまっていることに気づきましたか? もちろん漢字の侮蔑語もあるのですが、書くのが面倒なのと、おそらく、「そういう下品な言葉はおそらく外国人が使うものだから」という理由でカタカナ化しているのだと思います。これも、他人に侮蔑語を投げつけることが嫌いな日本人が生み出した一種の智慧ですね。

    >邪馬台国の邪馬の字は本当に相手を下見する文字です。なぜ日本人は平気に使うのか。自分の祖先を侮辱する気でしょうか。
    などという狭い見識(台湾で使っている漢字の意味が、必ずしも正確であるとは限らない、例えば「幹」だって同じこと、要するに台湾人の勘違い)で日本を非難する台湾人がもしいたら、こう返してあげましょう。侮蔑語をいつまで自国語の文字にそのまま保存しているですのか? 日本人は上品だから、そんな下品な言葉に漢字は使いませんよ、と。
    何でも自国の感覚が正解だと、外国人に向かって価値観を押し付けるな。
    ・・・って、日本人以外だったら言われるかもね。

  • 日本語を学ぶ外国人を見ていると、日本語の3種類の文字で表現が格段に広がっているとよく思います。
    台湾人のコメントも問題提起で、面白い視点だなと思いました。

  • このような漢字の微妙な意味の差異が面白いですね。
    欧州の人が隣の国の言語を見たときの感覚ってこんな感じなのかなって思いました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。