「盗んだ VS 借りただけ」 日本人と外国人の“所有感覚”の違い 

 

きのう神戸でツッコミどころ満載の事件が発生。

神戸新聞NEXTの記事(2023/2/13)

パトカー盗んで10キロ逃走 会社員の女「借りただけ」 窃盗容疑で逮捕

ブラジル人の女が車に乗っていて、運転していた姉と車内でケンカになり、手に負えなくなった姉が警察へ通報した。
すると1人の警察官がパトカーに乗ってそこへ到着。
女を後部座席に乗せて警官が車の外で警察署と無線連絡をしていたら、女が「よいしょ」と運転席に座ってパトカーを発車させる。
あわてた警察官は110番通報をして、姉の車に乗って追いかけた。(オイこら)
パトカーを盗んだ女は赤色灯を付けたまま、兵庫県内の国道を10キロほど走ったところで逮捕される。
女は「借りただけ」と主張して、盗みを否定しているという。

この事件にネット民の反応は?

・これ盗まれた警察官は一生出世できない
・なんだそのジャイアン理論
・日本だと考えられない
言うまでもなく関西
・海外のコメディーみたいで楽しそう

 

パトカーを運転してみたい気持ちはわかるとしても、「借りただけ」なんて斬新な言い訳が日本で通用するわけない。
ブラジルでパトカーを強奪したら、まず間違いなく警官に撃たれるわ。
この警察官も今までの経験から、おとなしく座っていると思ったのだろうけど、そんな感覚が通じない相手もいるのだ。
にしても姉の車で追いかけたって、「待て~!ルパ~ン!!」じゃないんだから。
こんなアニメみたいな出来事で、京都のゲストハウスで聞いた日本人と外国人のトラブルを思い出した。

 

そこは1泊3~4000円のチープじゃなくて、リーズナブルな宿だったから、客層は節約志向の若い外国人や日本人が多かった。
ボクがチェックインをした時、フロントのいた若い男性スタッフはわりと時間に余裕があったようで、近くにあるおススメのラーメン店なんかの情報を教えてくれる。
ちょっと話をしていて、日本人と外国人の客には態度や行動で違いがあるか聞くと、「最近こんなコトがあったんですよ~」とこんな話をした。

ある日の夕方ごろ、フロントで業務をしていたら、日本人の客がやってきて「〇色で~な自転車を知りませんか?」と不安そうに聞いてくる。
不吉な予感を感じながら「いいえ」と答えると、「やっぱり盗まれた…」と日本人が絞り出すように言う。
話を聞くと、自転車で旅行中だった彼は一日の観光を終えて宿へ戻ってくると、すぐにまた出かけるつもりだったから、カギをかけずにゲストハウスの入口(敷地内)に置いといた。
そして30分ほど後にそこにへ行くと、あるべきモノが無い。どこにも愛車が見当たらない。
「ひょっとして宿の人が移動したかも?」と思ってたずねてみたら、いまその希望は打ち砕かれた。
深刻な顔をして「警察に~」とか言ってる客の後ろに、スタッフは話とソックリの自転車に乗った外国人男性がやってきて、宿の前に停めるのが見えた。

「それってアレでは?」とスタッフが指さす方向を向いたその日本人は、「あ!」という言葉を残して飛び出す。
自転車に乗っていたのはオーストラリア人の客で話はこうだ。
近くのコンビニへ行こうと外へ出たら、カギのない自転車を発見した。
「歩いて行くのはめんどくせえ」と思っていた彼は、それを“借りる”ことにする。
それは本当で、だからこうしてちゃんと宿へ自転車に乗ってきた。

でも日本人からしたら「それは盗みだ。犯罪行為だ!」となって、泥棒あつかいされたオーストラリア人は逆ギレする。
オーストラリア人が悪びれて「すまない」と謝ったら、日本人はそれで済ませようとしていたから、この反応は完全に予想外。
「10分もかかっていない!そもそもおまえはカギをかけていなかったよな?」と相手が怒りだしたから、彼も引っ込みがつかなくなる。
でも、「うるせーバカ野郎」と歩き出すオージーを止めることはできず、争いはそこで終了。
「まあ、自転車が無事だったからいいんですけど。ボクも油断してましたし。でも、あの態度はひどくないですか?」という客のグチを聞くのもフロント業務の1つ。

これまでいろんな外国人の相手をしてきたそのスタッフには、オーストラリア人に悪意なんてまったくなかったし、「ちょっと借りただけ」という本当に軽い気持ちだったことがわかる。
感覚的にこういう場合、自転車が戻ってきたら、欧米人でもアジア人でも外国人ならきっと怒らない。
「おかえり。ボクの自転車の乗り心地はどうだった?」と相手にジョークを言う可能性のほうが高いし、「良かったよ!このコーラを飲むかい?」という展開になっても驚かない。
でも立場がひっくり返って日本人だったら、まず間違いなく他人の自転車には乗らないで歩いてコンビニまで行く。
宿のスタッフはこの時、そんな日本人と外国人の感覚の違いを実感した。

 

さてこの場合、オーストラリア人がしたのは「盗み」か「勝手にレンタル」か?
これに興味があったから、まわりの外国人に聞いてみると、リトアニア人、アメリカ人、トルコ人、インド人、台湾人は、

「10分以内に戻ってきたなら、それは“借りた”になる。カギをしなかったのは相手のミスだし、それで泥棒あつかいされたら自分も怒る」

と言う。
もちろん個人差はあるだろうけど、この質問をしてみた外国人はみんな同じことを言う。
日本人と比べると外国人には、自分の物と他人の物との境界線があいまいで、「所有感覚」がかなりユルイと思う。
「オマエの物もオレの物」というジャイアン理論じゃないけど、「ちょっと借りる」の感覚が日本人からすると失礼に感じるほど広い。
だから、日本人の「コレってずうずうしいかな?」ということが、外国人にはまったく気にならなかったり、逆に嬉しかったりする。
でも、さすがにパトカーを盗んではいけない。
まあ警察官も平和ボケしていたと思うけど。

 

 

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ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。