公平性とは別で、米女性選手がトランス選手に感じた“苦痛”

 

『トム・ソーヤーの冒険』で有名なアメリカの作家マーク・トウェインにはこんな言葉がある。

The two most important days in your life are the day you are born and the day you find out why.
(人生でもっとも大切な日は2つある。自分が生まれた日と、なぜ生まれたのか分かった日だ)

ちょっと強引だけど、まえにテレビでトランスジェンダー女性の話を聞いていてこの言葉が思い浮かんだ。
これまでは一般的に性別は、身体的な特徴から男性/女性の2つに分かれていた。
でも、見た目に関係なく、自分が考えて判断する「心の性」(性自認)が最近では注目されてきている。
からだは男でも、自分では女と思う人がトランスジェンダー女性で、逆だとトランスジェンダー男性になる。
テレビ番組に出ていたトランスジェンダー女性は男として生まれて、中学生のころから、自分は女性ではないかと考えるようになって違和感を感じる。
体と心の性(性自認)が一致しないから、高校では男子トイレを利用し、男子生徒の中で着替えをしてすごく苦しい思いをした。
でも高校を卒業して、制服を着る必要がなくなったことがきっかけで、見た目に関係なく、自分の心にしたがってこれからは女性として生きていこうと決意した時、自分は生まれ変わったような気分になったという。
その感覚は「なぜ生まれたか分かった日」に近いのでは?

トランスジェンダーにレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルを合わせたのがLGBT。
いま日本では、そんな人たちへの理解を増進するための「LGBT法案」の成立が急ピッチで進んでいる。
G7広島サミットの主な議題に「ジェンダー平等」があって、ホスト国としてのメンツがかかっているから急いでいるらしい。

その内容で議論を呼んだのが「性自認」という言葉で、結局これは「性同一性」へ変更された。
それに不満な東京新聞は社説で批判。(2023年5月17日)

医師など第三者の承認を前提にしようとしているのなら誤りだ。他者の承認を要するアイデンティティーはあり得ない。それを少数者に求めること自体が差別にほかならない。

LGBT修正案 人権感覚の欠如露わに

 

外見が男(女)でも、自分が女(男)と思えばそれが正しい性別になる。
ほかの人間の許可なんていらないし、自分が決めた性で胸を張って生きていけばいい。
「いやいや見た目は男なんだから、オマエは男として行動しろ」と強要するのは差別だ。

ただ、そういう性自認には問題もある。
トランスジェンダーの女性選手は肉体的には男性に近いから、女性の大会に参加するのは不平等だという指摘がよくあがる。
つい最近も、アメリカで行われた自転車のツアー女性部門でトランスジェンダー選手が優勝し、約470万円の賞金を手に入れると、元自転車の世界女王が「女性にとって公正なスポーツとしての自転車競技に汚点を残す」と批判して議論が巻き起こった。

今回の「LGBT法案」について読売新聞はその問題を指摘する。(2023/05/13)

スポーツ競技で、トランスジェンダーが女性の種目に出場することを認めるのか。
トランスジェンダーにこうした権利を認めることになれば、女性の権利が侵害されかねない。

LGBT法案 拙速な議論は理解を遠ざける

 

トランスジェンダー選手の象徴的な人物がリア・トーマスさんだ。
アメリカで男性の水泳選手だったトーマスさんは自分を女性と認識するようになり、トランスジェンダーの選手として女性の水泳大会に出るようになった。
もちろん各種大会で優勝をかっさらう。
となるとスポーツの公平性が問題視されるのは当然として、別の問題もでてきた。

ほかの女子大学生の選手は事前に何も知らされていなかったから、外見は男性のトーマスさんと同じ更衣室で着替えるとその場で知ってショックを受ける。
185㎝のトーマスさんがパンツを下ろして男性器を露出したり、自分たちの着替えを見たかと思うと苦痛だったと一緒にいた女性選手のゲインズさんがいう。

そんな経験をふり返ってゲインズ(Gaines)さんは英紙デーリーメールの記事でこう話す。(9 February 2023)

これは1、2年前なら、一種の性的暴行やのぞき見と考えられていたでしょう。
しかし今では、このようなことが許されているだけでなく、まるで大きな組織(スポーツ団体)がそれを奨励しているかのようです。

‘Not even probably a year, two years ago, this would have been considered some form of sexual assault, voyeurism. But now not even are they just allowing it to happen, it’s almost as if these large organizations are encouraging it to happen,’

Trans swimmer Lia Thomas ‘dropped her pants’ and exposed her ‘male genitalia’ in a women’s locker room after a meet, claims University of Kentucky athlete Riley Gaines

 

トーマスさんは「I’m not a man」と男性であることを否定し、自分は女性だと考えている。
他人が何を言ってもどう思っても、そう自認しているから、ほかの女性と同じように自分にも敬意を払ってほしいと語る。

でも、「トランスジェンダー女性との更衣室共用」について大学側から何の説明もなく、同意も求められずに、それを“強要”されたゲインズ氏としてはとても辛かったという。
でもそれを口にすると、トランスジェンダーの人への偏見や憎悪、差別と呼ばれてしまうらしい。
*原文は「they will be called a bigot and hateful and transphobic」
トランスフォビアはトランスジェンダーの人への嫌悪や差別。

いまは女性スポーツの推進者として活躍するゲインズさんは自分の経験から、全米大学体育協会(NCAA)に、トランスジェンダー選手と女性選手にはそれぞれ別の更衣室を用意するよう求めている。
これは差別ではなくて、必要な区別だろう。

LGBT法案が成立したら、日本社会はどう変わるのか。
個人的にはG7という“納期”に間に合わせるより、読売新聞のいうようにもっと議論を深めるべきだと思う。

 

もはや無双状態のトーマスさん。

 

 

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2 件のコメント

  • 声を上げて社会に訴えることは大切だけど
    この手の問題に私が賛同出来ないのは
    当事者が他人への敬意を感じないからですね

    競泳選手の件では更衣室の出入りを他の選手と時間をズラす提案できたはずだし、ましてLでもあるから性愛対象と同室で着替えるなんてまず非常識だと感じました
    受け入れてほしいなら相手を受け入れる姿勢を示す…日本人的な発想かもしれませんね

  • 「自分の性は自分できめる」というのは当然の権利です。
    ですが、男性はまだいいとしても、いろんな施設で一緒になると、困ったことになる女性が多い気がします。
    そのへんの理解が社会に広がっていない気がするので、もう少し議論をつづけるべきだと思いますよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。