「それは人種差別だ!」 言葉の壁で外国人に苦戦する日本の店

 

日本では、この手の「差別問題」が昔から無くならない。

沖縄タイムス(2023年10月02日)

「ジャパニーズオンリー」と張り紙 那覇市の居酒屋、外国人の入店拒む 市民が行政に相談し後に撤去

ある居酒屋の入り口に、「スタッフが日本語しか話せないため、外国人のお客さまの入店はお断りします」といった内容の英語が書かれた紙が貼ってあって、それを見つけた市民が、あれは人種差別ではないかと那覇市に連絡した。
すると市が動き、職員が居酒屋を訪れて紙の撤去を求め、店側がそれに応じた。

店が「日本人だけ」や「外国人は立ち入り禁止」と表示することは擁護できないが、重要なことはその紙を貼った動機や背景だ。
居酒屋の主張によると、ホール1人、キッチン1人の限界状態で店を回していて、接客に割ける時間がなかったからあの紙を貼った。差別的な意図はまったくなかったとのこと。
画像を見ると、頭を下げる絵と「Japanese only (sorry)」という言葉があって、申し訳ないという気持ちが伝わってくる。

これは、街中で「〇〇人は出ていけ!」と叫ぶヘイトスピーチとは違って、店の「キャパオーバー」だから、ネットを見ると店に同情する人が多い。

・喋れないのに仕方なくね?
・そんなん店の勝手だろ
・客がお店を選ぶように、お店も客を選んでいい。
・それで店の業務が滞って別のクレームが来たらどういう責任を取るんだろう。
・猫カフェ男性入店禁止も行政介入しろよ

沖縄と言えば数年前、石垣市内のラーメン屋が「日本人客はお断り」の表示を掲げ、外国人だけに入店を認めて問題になった。
あれはその後、どうなったのだろう。

 

 

10年ほど前、日本にいたヴェジタリアンのインド人を食事に連れて行って、苦い経験をしたことがある。
彼は日本語が分からないから、外食するときはいつも安全を最優先し、インドレストランに入ってヴェジタリアンメニューを食べていた。
「でも、せっかく日本人と一緒にいるなら、日本料理を食べてみたい」と言うから、彼をショッピングモールのフードコートへ連れて行く。
彼自身にいろいろな店を見て決めてもらうことで、ボクの責任は回避しようとする作戦だ。

そこで彼は全国チェーンのうどん店を選ぶ。
「肉が入っていないうどんなら安心だ」というボクの認識は、激アマスイーツだったことがすぐにわかった。
そのうどん店は、トレイを持った客が列に並び、注文や食べ物の選択をしながら進んでいき、最後にレジでお金を払うという効率的なシステムを採用していた。
店員がテーブルに来て注文を取る店と違って、そこは時短重視で、客が「きつね、大盛りで」と最低限の言葉で注文し、店員が高速でそれを器に入れて出す。
流れ作業のようなものだから、特に混雑時は、客には無駄を省いたクイックモーションが求められる。

 

インド人の知人はきつねうどんを注文することに決め、ボクも隣に並んだ。
でも、注文する時になって、彼がボクに向かってこう尋ねる。

「このスープ(つゆ)は何ででできいるか、店員に聞いてくれ。私にとっては重要なことなんだ」

「えっ」と戸惑いつつ、ボクが原材料を聞くと、うどん担当の店員も「え? ちょっと待ってください」と誰かに確認しに行く。
すると、それは「かつおだし」であることが発覚。
「魚はダメだ」と言って彼は何も注文しないで次へ進み、店員は不快そうな顔をボクに向ける。
何というもらい事故だ。
次のコーナーで、おいなりさんを見つけた彼は、またボク経由で店員に原材料を確認し、「それなら大丈夫だ」と安心して、おいなりさんを3つお皿に入れた。
チラリと横を見ると、予想通り渋滞が発生していて、それに巻き込まれた客は明らかにイライラしていて、こちらをにらむ人もいた。

店員からも「早く行けオーラ」を感じたから、ほかの客には「どうぞどうぞ」とできるだけ先に行ってもらう。
そんなボクの気苦労が、このインド人にはまったく伝わらない。
店で使われている油が植物性だと分かると、「ボクは揚げ物が好きなんだ」と野菜のかき揚げを選んで、満足そうな笑顔を見せる。
ボクがレジでお金を払うと、明るい解放感を感じたが、うどん渋滞を引き起こした彼は何も気づいていない。
インド人の空気の読めなさや、鈍感力の片鱗を味わった気分だ。
もし、店にインド人だけの3人の客がやってきて、カタコトの日本語で今回と同じようなことがあったら、店としてはハッキリ言って大迷惑のはずだ。

 

外国人と一緒にいると、こんなことは珍しくない。
イスラム教徒のインドネシア人とバングラデシュ人と一緒にレストランへ行った時、彼らは店員に、豚肉とアルコールはもちろん、その成分さえ入っていない料理をたずねた。
「ちょ、ちょっとお待ちください」と驚いた店員は、キッチンかオーナーへ確認しに行く。
店員が戻ってきて答えると、彼らはまた別の質問をするから、こんなやり取りだけで結局20分ぐらいかかってしまった。
その間に立って、英語を日本語へ、日本語を英語にしていたボクも疲れた。
日本人が相手なら、こんな確認作業は必要ないか、あってもすぐに終わる。
言葉の通じない外国人を相手にして、手間と時間がかかってしまい、疲労困憊する店は全国に山ほどあるはずだ。
土日の忙しい時間帯に、何度かこんなことがあったら、店としてはたまらない。
店員が少なかったら、完全にキャパオーバーになってほかの客を失ってしまう。

 

20世紀はじめのアメリカでは、人種差別が常識であり空気だったから、公共の場では白人と「Colored」(実質的に黒人)に分けられていた。
現代では、「~人だけ」の表示は差別の象徴とされる。

 

ということで、行為は支持できないとしても、「日本人だけ」という案内を店先に掲げたくなるオーナーの気持ちは理解できる。
ホンモノの人種差別主義者だったら、「sorry」なんて頭を下げることはない。
海外の差別主義者の行動を動画で見ると、彼らは恐ろしく攻撃的だ。
日本では、外国人に対するヘイトの気持ちが1ミリも無くても、言葉の壁が人種差別になってしまうことがよくある。
「Japanese only」という表示自体は差別行為にあたるから、市民から連絡を受けたら、市としては見過ごすワケにはいかない。
でも、それで店から紙が撤去されたのを見て、市民が「ミッションコンプリート」(正義完了)と満足しているだけでは、この問題は解決しない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。