【無能な働き者】韓国の日常・日本の災害時にいる人たち

ドイツの軍人ゼークトは、軍人を次の４つのタイプに分けたという。

有能な怠け者は指揮官に適している。
有能な働き者は参謀に向いている。
無能な怠け者でも連絡将校は務まる。
無能な働き者は銃殺するしかない。

これは実際には、マリー・アントワネットの「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」と同じような都市伝説で、ゼークトはこんな発言をしていない。
この「ゼークトの組織論」はオチの秀逸さが受けて、ネットでよくネタとして使われる。

知識や判断力がないにも関わらず、やる気だけはエベレスト級で、組織のために全力で働くと、かえって現場を混乱させて仕事を増やしてしまう。
そんなありがた迷惑の「無能な働き者」はよくいるから、「ゼークトの組織論」に共感する人は後を絶たない。
無知とは罪。
昨年末の韓国で、まさにそんな出来事があって注目を集めた。

朝鮮日報の記事（2023/12/22）

2年間手洗いしてきた愛車が…近隣住民の「善意」が韓国ネットで話題に

韓国で雪が降った日、ある住民がご近所さんの車に雪が積もっているのを見つけた。
夜になると凍ってしまい、持ち主は困ってしまうだろうと思い、その住民はほうきで雪を払ってあげた。
その結果、オーナーが大切にしていた高級外車のボンネットやフロントガラスなどに傷がついてしまった。
近所の人が100％の善意でしてくれたことだから、オーナーは怒るに怒れず、「本当にむなしいし悔しい」と嘆く。
このありがた迷惑に、韓国のネットでは、「気持ちは百点だけど、行動は0点」や「悪意がなかったとしても、結果に責任を負うべき」といった同情のコメントが寄せられたという。

「おでかけですか、レレレのレ〜？　雪は払っておきました」
「おかげで車が傷だらけなのだ。これはよくないのだ！」

みたいな展開が『バカボン』でありそう。

正しい知識がなく、“自分基準”で考えて善行をすると、かえって相手のド迷惑になることは災害時でよく起こる。
1995年に発生した「阪神・淡路大震災」の後、当時、西宮市の議員をしていた今村岳司さんがブログでこんなことを書いた。

自分の勝手な判断で被災地に行ってはいけない。
それによって余計な渋滞を招き、現場はさらに混乱して、被災地に必要な人や物が届きにくくなってしまう。
素人が思いつきで被災地へ行くと、かえって邪魔になる。
自衛隊は事前に訓練を受けて、食べ物や水、寝具などを用意しているが、いきなりやって来てボランティアを自称する人たちは、実際にはただの野次馬観光客で何の役にも立たない。
現地のリアルな事情を知らず、自分の頭で考えて物資を送ると、千羽鶴と同じようなゴミになるから、要請されない限り、何も送らないほうがいい。

「やらない善よりやる偽善！」と被災地へ行くのはやめ、現場はプロにまかせて、ボランティアが必要になったら現地へ行くべき。
一般の人たちは、政府が節電や復興支援の増税を求めたら、それに協力することが重要と今村さんは指摘した。

この内容は、いまの能登半島地震にも当てはまる。
SNSを見ていると、自分の車で支援物資を届けたと言う外国人が、倒壊した家の前で自撮りした写真をアップし、「Pray for Japan（日本のために祈ろう）」とメッセージをしていた。
しかし、実際には、まず間違いなく救援活動のジャマになっている。
こういうイラナイ働き者は日本人にもいるから、岸田総理がSNSでこんなお願いをした。

「現在、限られた輸送ルートに一般の車両が殺到し深刻な渋滞が発生しています。被災地へ速やかに必要な物資が届けられるよう、できる限り利用を抑制していただくことについて、国民の皆様のご理解とご協力をお願いします」

要するに、自分の判断で勝手に来るなと。

石川県も公式サイトで、個人からの物資は受け付けないと発表している。
そんなことをされると、仕分け作業などで時間や手間を取られたり、交通渋滞を引き起こしたりして、救命活動の妨げになるから。
災害ボランティアの募集についても、市役所などに電話で問い合せをしないように呼びかけている。
今はそんな対応をしている余裕なんてない。
ボランティアに関する情報は石川県の公式サイトに載せるというから、気になる人は自分でそれをチェックすればいい。
いま一般人ができることは、詐欺サイトに気をつけながら、義援金を送ることぐらいだ。

動機が善でも、結果が悪ならその行為は間違い。
日常生活から災害時まで、「無能な働き者」にならないようにするには、善意を発揮していいかどうかを見極める知識が必要になる。