【日本人のありがた迷惑】海外の被災者に千羽鶴を送ろう!

 

いまからおよそ300年前、江戸時代に生まれたと言われる日本の文化・折り鶴。

「鶴は千年、亀は万年」と言われるように、鶴はむかしから長寿の象徴として日本人に愛されてきた。
でも実際の寿命は、野生の鶴なら30年ぐらいしかない。
日本航空のシンボルマークとしても有名な鶴は美しい姿をしていて、折り紙で簡単に作ることができるから、折り鶴はいまでも日本で人気がある。

さらに現代では、折り鶴を千羽(要はたくさん)折って千羽鶴にして、祝福や災害などへの慰安、病気の治癒や平和祈願など多くの目的で使われている。

 

 

いま新型コロナウイルスと最前線でたたかっている医療従事者に、感謝の気持ちを伝えようと市内の小中学生が折り鶴を作った。
それならよくありそうな話だけど、福井市の小中学生が作った折り鶴の数は半端なかった。
ギネス記録の約33万羽を超えたということで、いろいろな話題や不安を呼んでいるところだ。

福井新聞の記事(2020年8月24日)

23日午後5時ごろ、明道中生徒会執行部が最後の1羽をつなぎ、計34万3149羽が一列につながった。

医療者に感謝の折り鶴34万羽、福井

 

ひとつになった34万3149羽の折り鶴はこれから、福井市医師会を通じて医療機関に送られるらしい。

折り鶴の発想はいいとして、問題はその膨大な数でこれが波紋を呼び、ネット掲示板を見ると8割は批判的だ。

・療従事者を応援するならマスクするのが一番
・誰がどれぐらい触ったかも分からず置場所にも困る物を医療機関に送るなよ
・これ1人何個ってノルマあったのかな
・体育館いっぱいの折り鶴もらって喜ぶ人ゼロ人説
・これ処分するの大変そうだな。相当なゴミの量になるぞ。
・感謝のエールを届けようと思えば、どうしたらいいか相手方に訊くべきだよな。
・やるなとは思わんが、やり過ぎである。

34万個の折り鶴をひとつの医療機関に贈るなんて言ったら、ありがた迷惑を超えて巨大な嫌がらせだから、まあそれはないだろう。
これから誰かが適当な大きさに切って複数の医療機関に届けるのだろうけど、医療機関の人たちにかかる手間や時間、コストを考えるとどうなのか。

 

今回のケースとは意味合いが違うけど、地震発生後に現地の人たちを励ますために大量の折り鶴を送ることが日本ではある。
でも折り鶴は生活に必要な物資ではないし、そのために労働力や費用を必要とすることからこの行為には批判も多い。

東日本大震災や熊本地震以降、たとえ善意であっても処分するしかない千羽鶴を送られることは避難所での負担になるという指摘が被災経験者から行われるようになった。

被災地への送付に対する批判

 

日本国内でも賛否が分かれるこの行為を10年前、中米のハイチにもやろうとして物議をかもした。

 

北海道の横にハイチがある。

 

2010年にハイチで大地震が発生し、約31万6000人が亡くなるという空前絶後の被害がでた。
それを知って、「ハイチ大の被災者に激励の千羽鶴を贈ろう!」という運動が若者を中心にSNSで盛り上がって、それを知ったほかの日本人からは「ありがた迷惑では?」といった批判が殺到する出来事があった。

これを思いついた人は良い人なんだろうけど、何かが足りない。

Jcastニュースの記事(2010年01月27日)

地震で家族を失ったハイチの人たちに、1人ではないと元気づけてもらうのが狙いという。

「ハイチに千羽鶴贈ろう」 被災者喜ぶのか、迷惑なのか

 

日本にいる外国人ならまだしも、まったく違う文化圏にいる人たちに千羽鶴を贈ってもデメリットの予感しかない。

ハイチで援助活動中だった日本人も、医薬品などを運ぶ飛行機のスペースが千羽鶴に取られる心配があり、たとえハイチの人が千羽鶴を受け取ったとしても調理用などに燃やされるだけだと言う。でこの運動を「足手まとい」とバッサリ。
さらにハイチの一部で信仰されているブードゥー教では、鶴は日本と逆で「悪魔の使者」として縁起が悪いとされているという。

取材に答えたハイチ共和国大使館の関係者は、「千羽鶴の意味を伝えるのも、そんなに簡単ではないかもしれません」と話す。
いや、かなり面倒くさいだろこれ。
とはいえ大使館関係者は、折り鶴については問題ないと言う。
「日本から来れば、悪魔などと結びつけることはないからです。日本を知っている人を通じて言葉で説明すれば分かり、たぶん喜んで受け取られると思います」と好意的だ。

でも公式にはそう言うしかないし、やっぱりこれは善意の押し付け&ありがた迷惑だろう。
「地震で家族を失ったハイチの人たちに、1人ではないと元気づけてもらう」という気持ちは善でも、それを実現する手段が千羽鶴というのは現実的とは思えぬ。

善意で始めたことが、全てハッピーエンドになるわけではない。
たとえそんな美しい気持ちでされた行為でも、それによって思わぬ悪い結果を招くことを表す言葉で、「地獄への道は善意で舗装されている」ってのがある。

「人種や宗教は違っても、結局人間はみんな同じ」という話はたまに聞くけど、人類が日本人と同じ価値観を持っているワケがない。
動機が美しければ、行為全体まで善や正しいものに見える人が日本には多いと思う。
鶴とは別の意味のおめでたい人たちで、ありがたくはない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。