インドや日本と同じく、西洋でも「卍」は幸運の象徴だったが…

 

同じものを見ても、まったく別のコトを連想するのは、文化の違う外国人との間ではよくある。
以前、ポーランド人とインド人と一緒にお寺に行ったら、上のような「卍」があって2人とも「マジかっ!」と驚いた。が、その理由はまったく逆だった。
インド人はうれしそうな顔を浮かべる一方で、ポーランド人はショックを受けている模様。
なぜなのか?

 

インドで「卍」はスワスティカと呼ばれ、これが英語にもなっている。
ヒンドゥー教で卍は最高神のひとつ、ヴィシュヌ神の胸にある旋毛(つむじ)を表していて、ヒンドゥー教徒はこれを幸福や繁栄、つまり吉祥のサインと考えている。
インド人はいろんなところに卍を描くから、街でこの印を見かけることも多い。

 

 

インドの街で「ツボ屋(?)」で卍を見つけた。
インド人に聞くと、きっと店主は客がたくさん来て、商売が繁盛することを願っているとのこと。
日本で言うなら、招き猫みたいなものか。

 

 

バイクに「卍」を描くことで、交通安全を祈願している。
日本でこれを見かけたら、どっかのお寺のバイクや車とカン違いしそう。
ただ、インドでは逆走や信号無視などめちゃくちゃな運転をする人が多いから、神に祈るよりも、交通ルールをしっかり守ったほうが効果的だと思う。

 

 

インドの都市ジョードプルにある城では、演奏家がたたくドラムに「卍」が描かれていた。
「間違って卍をたたいたら、不幸なコトが起こるのでは?」という気がしたのだけど。
この時いたインド人ガイドの話によると、卍のあるドラムの音をいろんな人に聞かせることで、吉祥や幸運をみんなに「おすそ分け」しているらしい。
そして、彼らはチップを期待している。

 

卍を表すインドの言葉「スワスティカ」には、「幸運につながる」という意味がある。
この祝福の象徴が中国経由で日本に伝わった。
奈良時代に建てられた薬師寺にある仏像には、手のひらと足の裏に卍が描かれていて、それが日本最古の例とされている。
卍は吉祥のシンボルだから、これを家紋のデザインに採用した武士も多い。
東北の津軽家は「五つ割左万字」を家紋にし、津軽家のあった青森県弘前市はそれを受け継ぎ、卍紋を市章にしている。
現在の日本では、卍はお寺を示す地図記号として使われたり、「まじ卍」という女子高生用語になっていたりする(もう死語かもしれない)。

弘前市の市章

 

西洋世界の多くでも、卍は吉祥と幸運のシンボルだった。
1930年代に、ナチスがアーリア人種の象徴としてカギ十字(ハーケンクロイツ)を採用するまでは。

it was a symbol of auspiciousness and good luck for most of the Western world until the 1930s, when the German Nazi Party adopted the swastika as an emblem of the Aryan race.

Swastika

 

ヒトラーが登場する前、ヨーロッパで「卍」はまったく問題視されず、コーラのボトルのデザインに採用されたこともあったのだ。
しかしながら、ナチスがドイツ国民をアーリア人種と見なし、その“優秀さ”を示すシンボルとして卍を採用し、600万人のユダヤ人を虐殺した後、欧米で卍はナチズムや人種差別といった悪の象徴となった。
卍が描かれた飲み物は、インドでは売上アップが期待できるかもしれないが、ヨーロッパの国でそんな物を販売したらきっと逮捕される。

 

北欧で見つかった石に描かれた卐(9世紀)
世界最古の卍は、ウクライナで発見された紀元前1万年のものらしい。

 

アメリカの学校のバスケットボール チーム(1909年)

 

 

上はナチスのカギ十字(ハーケンクロイツ)で、下はナチスから解放された直後のパリの様子。
ナチスに協力していたパリの女性を市民がリンチし、丸刈りにした上で額にカギ十字を描き、見せ物として街を歩かせた。

 

 

卍についてインドや日本とヨーロッパでは、意味や文化的な背景は同じだったのに、不幸な歴史によって、現在ではまったく別のものになっている。
インドでは相変わらず幸運や繁栄のシンボルで、結婚式や祭りなどでよく使われる。
もともと「幸運につながる」という意味だから、日本のお寺でこれを見たインド人はよろこんだ。
しかし、西洋人にとって卍は悪魔の象徴だから、ポーランド人はショックを受けて絶句した。
世界の東と西で、これほど意味が違うシンボルは「卍」のほかには無いかも。

 

 

宗教 「目次」

インド 「目次」

外国人の言う「京都の禅宗のお寺は写真撮影フリー」は本当か?

【ヒンドゥー教と神道】インド人が天照大御神で驚いたこと

日本人にも人気!タイのパワースポット。ピンクのガネーシャ像

インド人を日本のお寺へ①きっと喜ぶ菩提僊那と奈良の大仏の話

 

2 件のコメント

  • >上が津軽家の「五つ割左万字」で、

    逆でしょ?これは「右まんじ」ですよ。ナチスのハーケンクロイツと同じ向き。
    現在の日本で多く使われているのは、記事の最初の写真に出ているのと同じ「左まんじ」です。
    Wikipediaによると、「右まんじ」はヒンドゥー教やジャイナ教、スリランカ仏教などの一般的なシンボルとして使われているそうです。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。