このクモ、食べないとダメですか?~ポルポト政権下のカンボジア人 ①~


 そのときは、カンボジアの首都プノンペンからバンルンという街に車で移動していた。
車内には、ボクを含めて4人のカンボジア人がいて、そのうちの一人が英語を話すことができた。

 

 その人がもっていたのは、英語力だけではない。
ボクのカタカナ英語を理解しようとしてくれる、強じんな忍耐力と寛容な精神の持ち主でもあった。
そのおじさんのおかげで、道中、それほど退屈しないですんだ。

 バンルンへの途中、休憩のために道沿いの食堂に寄る。
日本でいう、サービスエリアだろう。

 そこで、英語を話すおじさんとご飯を食べることになった。
そこは田舎の食堂で、メニューにはカンボジア語表記しかない。
そのおじさんの通訳がすごく助かった。
だから、そのおじさんの体臭や長く飛び出た鼻毛は、大目に見ることにした。

 

 すると、一人の物売りが、皿に大量の黒い物をのせて歩いて来る。
あれは、何だろう?
そう思って、近づいてよく見てみると、びっくりした。

 「うわ、蜘蛛だ!」
白いかごの上に、山のようにタランチュラのような大きなクモの揚げ物が積まれている。

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そのクモは絶対にいらないけど、写真は撮りたい。
お兄ちゃんに、「ちょっと動かないでくれ」と、ジェスチャーをするが、その兄ちゃんは何やら話しかける。
何を言っているか、さっぱり分からない。

 

 すると、英語のおじさんがボクに声をかけた。
「何匹欲しいんだ?」
そうじゃない。
食べたいんじゃない。写真を撮りたいだけなんだ。
それを、おじさんがその兄ちゃんに伝えてくれたおかげで、バッチリ写真を撮ることができた。

 

 そして、テーブルに戻るとおじさんが話しかける。
「驚いたか?クモのフライは、ビールによく合うんだ。日本にはないのか?」
「山盛りクモフライ」ですか?帰国したら、ガストに聞いてみますよ。
というより、「ビールのおつまみにクモ」という発想が人類にあったことに驚きですね。

 

 すると、テーブルに座っていると、店のウェイターの兄ちゃんが近づいてきた。そして、先ほどのクモの揚げ物がのったお皿をボクの前に、ゴトンと置く。

 え?何だ、これ?

 英語を話せない兄ちゃんは、笑顔を見せて、去って行った。まさか、これを「食べろ」ってことか?

おじさんも笑顔を見せる。
「スナックみたいなもんさ。おいしいぞ」
スナックですか。
おいしそうな響きですけど、ノーサンキューです。

 

 「どうした?少しだけ食べてみろよ。カンボジア人はこれが大好きなんだ」
え?食べなきゃいけないんですか?
でも、クモは、無理だなあ。

 「すいませんが、『これは、いりません』と、店の人に言ってください」
「何だ、食べられないのかよ」と、苦笑いしをして、おじさんが、店の人に話してくれた。

 そして、おじさんがボクの方に向き直して言う。
「それは、店からのサービスだ。タダでいいぞ」
おい、おっさん、「値段を聞いてくれ」なんて頼んでないだろ。
ちゃんと伝えてくれよ。

 

 「おまえが外国人だから、サービスだってよ」
これが、カンボジアの「お通し」ですか?
でも、こんな「おもてなし」は、いらないな。

 店の兄ちゃんに、「これは、ムリです」という顔をしてみたが、兄ちゃんは、親指を上に上げてニヤリとする。
やっぱり、「食え」ってことか?
というか、カンボジアには、困り果てる外国人を見て楽しむ「ドSな習慣」があるのだろうか?

 

 結局、英語のおじさんが、そのクモをおいしくいただくことになった。
今から考えたら、もう二度とない機会だったかもしれない。もったいなかったか?

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「やっぱ、ムリだわ」


 その後、ヒマつぶしにおじさんと話をしていると、ポル・ポト時代の生活に話が及んだ。
その時代、おじさんは16、7歳だったという。

 

 「家族とは別々されて、同じ年代の人たちと一緒に生活をさせられたよ。毎日が、地獄だった。食べる物がなくていつも、腹をすかせてた。朝から夕方まで一日中、農作業をやらされたけど、食べ物はいつも、ほんのちょっとのお粥だけ。休み?そんなのあるわけないだろ。一年中、農作業するか寝ていただけだった。娯楽なんてものもない。周りの人と話をしただけで、殴られたんだ。私語は禁止されていたからな」

 

 これは、「ヒマつぶし」で聞いていい話じゃない、と思ったけど、おじさんは話を続ける。

 「その後、やっと解放されたけど、父親がどこに連れて行かれたか分からなかった。今でも分からないままだけどな。親父の骨を見つけて、塔を建てられたら良かったな、と今でも思うよ」

 体験者だけあって、ポル・ポト時代の様子が、説得力をもって伝わってきた。そして、そのポル・ポトがどんな時代だったのか、ということを知りたくなった。


投稿者: kokontouzai

今まで、東南アジア、中東、西アフリカに旅をしてきました。外国に行って初めて気がつく日本の良さや特長があります。以前、歴史を教えていたので、その経験もいかして、日本や世界の歴史や文化などをテーマに、「読んでタメになる」ようなブログを目指します。

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