外国人があきれる江戸の日本:肉食禁止でも言葉をかえればOK

 

日本語を学ぶ外国人に言わせると、日本の物の数え方はけっこうやっかいらしい。
前にタイ人と香港人とそんな話をしていたとき、種類によって一個、一枚、一話、一台、一本…と数え方が変わるの分かるけど、油揚げも「~枚」と数えるのは意外だったと言う。

日本語学校に通っていた彼らは、「さいきん授業で面白い話を聞きました!」とこんな話をした。
日本語で動物の数え方には「匹」と「頭」があって、その使い方について説明を受けたときに先生がおまけで、ウサギの数え方は「羽」と鳥と同じになると説明した。

2人とも「なんでウサギが鳥に分類されるんだ?」と思いながら先生の話を聞くと理由はこうだ。
むかしの日本では仏教の影響で、特にお坊さんのあいだで肉食を禁止する風潮があったけど、それはおもに獣(四足獣)で魚や鳥は食べることができた。
タイや香港でも仏教徒は多いからこの考え方は理解できるけど、次の話を聞いて「ふざけるな」と思ったらしい。

ウサギは二本足で立つ、ウとサギに分けると「鵜(う)」と「鷺(さぎ) 」の2羽の鳥になる、ぴょんぴょん跳んで地面から浮く、肉が鳥肉に似ているといった理由から、むかしは「鳥」に分類されて食べることが認められていた。
「肉を食べたい」という人間の欲求を優先して強引な解釈をおこなったことで、ウサギは「鳥カウント」になったという話を聞いてタイ人と香港人はあきれたらしい。

 

ニホンゴはムズカシイ。
英語ならすべて「I」でOK。

 

一般的には肉食禁止だった江戸時代にはこんなふうにテキトーな言葉を当てはめて、タブーを有名無実化してしまう例が他にもあった。
猪の肉を「山鯨(くじら)」または「牡丹(ぼたん)」、鶏肉を「柏(かしわ)」と言い換えて売る店があったし、花札から鹿の肉は「もみじ」、肉の色が桜色に見えることからを馬肉を「さくら」と呼んで販売する店があったしそれを食べる人もいた。
*肉の隠語の由来には別の説もある。

江戸時代には農民が農産物を荒らす害獣をつかまえて、江戸へ運んで売っていた「ももんじ屋」という店もあった。

その他、犬や狼に狐、猿、鶏、牛、馬などの肉を食べさせたり、売っていた店のこと。表向きは肉食忌避があったから、これらを「薬喰い」と呼んだ 。

ももんじ屋

 

当時の日本社会は全体的には肉食を避けていたけど、こうやって表現を変えることで黙認された一面もある。
だから肉食のタブーを無視して、よく豚肉を食べていた最後の将軍・徳川慶喜は、「豚一様」(ぶたいちさま:豚肉がお好きな一橋様)と陰口をたたかれた。

 

話を戻すと、「肉食はダメだけど、ウサギは鳥だから「羽」と数えて食べてもOKだった」と授業で聞いて、「それじゃインチキですよ」あきれる香港人とタイ人に、江戸時代には「もみじ」や「さくら」とテキトーな言葉に言い換えて肉を食べる人もいたという話をすると、ルールにとても厳しいいまの日本人とはぜんぜん違しますね!とおどろく。

「これも言霊という日本文化のひとつじゃないかな」と軽いノリで話したけど、彼らには通じなかった。
これは2人の個人的な感覚かもしれないけど、悪いことを隠れてするなら自覚があるだけまだマシだけど、言葉をかえるだけで看板を出せるほど堂々と”悪いこと”ができる社会はおかしいと、不機嫌というか非難するように言う。
こんなことはどこの国でもやっていたと思うけど、2人とも仏教を尊重していたからこう言ったのかも。

中国があまり好きではない香港人はこんなことを言う。

「欲望をおさえようとしないで、何とかして法やルールの抜け穴を見つけて自分のやりたいことをやる。そのころの日本人はいまの中国人みたいですね」

この反応は予想外。
でも「上に政策あれば、下に対策あり」で、江戸の庶民は抜け目ないところがあったかもしれない。

 

「山くじら」と称して猪肉を売る店

いまの日本でも闇の世界では大麻を「野菜」、覚せい剤を「アイス」と表現すると聞いたけど、この隠語の“伝統”は江戸時代からかも。

 

 

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1 個のコメント

  • > 欲望を(無理に)おさえようとしないで、何とかして法やルールの抜け穴を見つけて・・・

    その香港人はなかなか鋭い。いいところに気づいてますね。
    私は、そのような考え方こそが、日本人の知恵だと思います。だからこそ、日本は、他国に比べて比較的平和で平等な社会を構築できたのでしょう。少なくとも、これまでの歴史においては。
    一神教も、(妻帯や肉食を否定する)仏教も、共産主義も、そのような日本人の知恵には合わなかったのですよ。
    だからと言って、中国人と同じではありませんよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。