銃乱射事件:規制反対の理由「問題は銃ではなく、米国人の心」

 

知人のバングラデシュ人がきのう、SNSにこんなメッセージを投稿した。

「It is not an unfamiliar tragedy in America.
The outpouring of grief and sympathy from around the country. Is that genuine?
How many more innocent lives must be killed in order to pass stricter gun control legislation?」

アメリカではめずらしくない悲劇だ。
全米から寄せられる、悲しみや同情の声は本物なのだろうか?
銃規制強化法案を成立させるためには、あと何人の罪のない命が犠牲にならないといけないのだろう?

 

2日前の24日、テキサス州にある小学校で銃の乱射事件が起きて、児童19人と教師2人の合わせて21人が死亡し、容疑者は警察との銃撃戦の末に射殺された。
多数のけが人が出ているということだから、この悲劇はもっと大きくなる可能性がある。
この“虐殺”をしたのが18歳の高校生というから、アメリカ社会の闇は深すぎる。

これに日本のネット民の声は?

・銃が当たり前の社会
・過去に高校とか大学はあったが小学校は記憶にないな
・アメリカは銃規制は不可能
規制するより銃あふれてる方が安全な国
日本人とは気質が違う
・怖すぎる
・アメリカは分裂するんじゃねえかな
・原因はインターネットだろうな。憎悪を駆り立てる偏向情報が氾濫して誰も取り締まれない。

 

「他の国では類を見ないこのような銃犯罪が、どうして起きるのか?なぜだ?」
「もううんざりだ。この痛みを行動に変える時だ。今こそ、行動に移す時だ」

この事件を受けて、バイデン大統領は銃規制の必要性と緊急性を訴える。
といっても、そのハードルはエベレストよりも高い。
アメリカでは一般市民が所持する銃は約4億丁で、人口100人当たり120.5丁だ。
人口よりも銃の方が多いという、ホントにバカげた国は世界でもここだけ。

今月14日にも、ニューヨークのスーパーマーケットで18歳の男が銃を乱射して、10人を殺害する事件が起きたばかりだ。
撃たれた13人のうち11人が黒人だったことから、これは人種差別に基づくヘイトクライムとみられている。
このときもバイデン大統領は「アメリカの魂の汚点」、「白人至上主義は毒だ。アメリカには白人至上主義の思想が存在する場所はないとはっきりと言う必要がある」と事件を強く非難した。

 

アメリカ・メディアの報道の方が“現実”を伝えている。

 

こういう悲劇が起こるたびに、アメリカでは銃規制の強化を訴える声が出てくる。
でも、それが実現することはなく、いまも無実の人たちが犠牲になっている。
銃規制に反対する人はよく、自分を守ることは個人の権利として憲法に認められていると主張するし、それ以外にもこんな考え方もある。

Another fundamental political argument associated with the right to keep and bear arms is that banning or even regulating gun ownership makes government tyranny more likely.

Gun politics in the United States 

 

もう一つの基本的な政治的主張は、銃の所持を禁止したり、規制したりすることは、政府の専制政治を助長する、というものである。

「tyranny」(ティラニィ)とは、絶対的権力者による独裁政治のことだ。
いまのアメリカはいろんな問題があるにしても、世界を代表するような民主主義国家であるはずなのに、市民が銃を保有するで、政府による圧政や暴政を防ぐことができるという主張はどう考えてもおかしい気がする。
でもアメリカ社会で、この意見に多くの支持が集まっているのは事実。

知人のアメリカ人の話では銃規制に反対する理由として、最近では「メンタルヘルス(精神的健康)の問題」を挙げる人が多い。
銃を持っている人が必ずしもそれを使うわけではなくて、むしろ所持しているだけの人の方が圧倒的に多い。
そもそも殺意があれば包丁でもその道具になるし、普通の精神状態なら、銃の乱射事件を起こすことはない。
問題は銃そのものではなくてアメリカ人の精神状態だから、銃規制を強化するよりも、心のケアにもっと時間やお金をかけるべきだ、という主張をする人たちがいて、銃に反対している知人としては腹立つこと限りなし。
でも、メンタルヘルスが現代のアメリカ人にとって、とても重要なことは間違いない。
だから、この意見を全否定することもできない。
バイデン大統領の言う「アメリカの魂の汚点」や「白人至上主義」もきっとこれに関係している。

銃の乱射事件が起こると、全米から怒りと悲しみ声が寄せられて銃規制の声が高まる。
でもそうなると、反対派からは銃の必要性を訴える新しい説が出てくるから、なんだかんだで、結局なにも変わらない。
だから外国人からは、「Is that genuine?」と言われることになる。

 

 

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6 件のコメント

  • > いまのアメリカはいろんな問題があるにしても、世界を代表するような民主主義国家であるはずなのに、市民が銃を保有するで、政府による圧政や暴政を防ぐことができるという主張はどう考えてもおかしい気がする。

    うーん、ブログ主さんがそのように考えられるのは外国人だからであって、米国人自身は、それほど自国を(というか自国の政治家全員を)信頼しているわけではないのですよ。
    その証拠に、たとえば、ハリウッドアクション映画やスパイ映画などを見ても、敵役・悪役であるのは外国人だけというよりも、米国の内部に「裏切り者がいる」という設定が多いです。また、政府が国内治安を維持しようとするあまりに暴走して、個人を犠牲にしたり弾圧したりするという設定の映画もよく見られます。米国以外のたとえば中国とかロシアとか、率直に言って民主主義があまり成熟していない国で作られるその手の映画だと、敵役はほとんど必ず「外国人」なんですよ。

    個人が武器を持って政府にも対抗できる力を有することを許容する社会、個人に与えられたその権力が時には間違った使い方をされて犠牲者を生むこともあり得る。が、それも国民個人の力で究極のリスク(民主主義政府が誤って民主主義を弾圧する)から民主主義を守るためにはやむを得ない犠牲であると、今のところはそういう考え方も(表立ってはなかなか出ないが)米国ではかなりの多数派を占める意見のようです。
    その気持は分からないでもないですね。
    自分は米国人でなくてよかった。ある意味、良いところも多い社会なのですが、永住してやっていく自信はとてもありません。長生きできそうにない。

  • >民主主義を守るためにはやむを得ない犠牲であると、今のところはそういう考え方も(表立ってはなかなか出ないが)米国ではかなりの多数派を占める意見のようです。
    この根拠はなんでしょう?
    民主主義のため銃の保有が必要だと考えるアメリカ人は少数だと思いますが。

  • > この根拠はなんでしょう?
    > 民主主義のため銃の保有が必要だと考えるアメリカ人は少数だと思いますが。

    米国で銃器事件が多発するようになってから、数限りない「選挙」の機会がありました。州知事、州議会、上院下院議員、そして大統領も選挙で選ばれます。民主主義国の選挙ですから、政策を実現したければ政治家を選挙で選ぶことが最善・最強の方法です。しかしながら未だに日本と同レベルの銃規制が成立していない、それがその証拠です。

    逆に伺いたいのですが、そのように考えるアメリカ人が少数だと主張されるその根拠はなんですか?
    まあもっとも、ブログ主さんの知り合いを全体母数とするのであれば、少数なのは間違いないでしょうけど。
    だけど日本のような等質社会と違って、米国は上下格差や多様性に富んだ(というか過大な?)国ですから、通常のアンケート調査はあまりアテになりません。米国の電話調査なんか回答拒否したり、電話口で調査者を罵倒する人が日本の何倍もいるのですよ。

    良くも悪くもとにかく米国は「自由(と民主主義)の国」です。
    「民主主義とは話し合い至上主義のことである」と未だに誤解している、アジアの幼稚な国とは違う。

  • 銃規制だけが争点になった選挙は一度もありません。
    「思う」というのは個人の感想なので、根拠は必要ありません。
    断定するなら、客観的な根拠が必要になります。

  • > 断定するなら、客観的な根拠が必要になります。

    ははは、それは単なる日本語表現での「断定の程度の強さ・弱さ」に問題をすり替えているだけですね。
    (私は日本人ですが)その主張は外国人には通じないですよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。