日本とモルディブの違い:宗教国でおきる過激派の暴走

 

結婚した友人夫婦が、新婚旅行先で選んだのはモルディブだった。
ここは世界屈指のリゾート大国で、エメラルドグリーンの海と白い砂浜が織りなす美しい景色は一生の思い出になるし、透き通るほど透明度が高く、カラフルな熱帯魚が泳ぎ回る海は世界中のダイバーを魅了する。
ただ友人夫婦にとっては、イチイチ納得できない値段設定だったというから、ここでは庶民感覚を捨て去らないといけない。
インドの先っぽにある島国・モルディブってそんな国。

 

 

1192の島々があって(鎌倉幕府かよ)、それらを合わせたモルディブの国土は東京23区の半分ほどで、人口は55.7万人で首都をマレという。
そんな南国のモルディブの国教はイスラム教だから、ここは「イスラムの国」と言ってヨシ。
世界中の観光客を歓迎するモルディブには、イスラム教以外の信仰は禁止されているというかなり排他的な面もある。

アッラーを信じ、イスラム教は正しいと思うことはまったく問題ない。
でも、「イスラム教だけが正しい」という独善的で、行き過ぎた考え方の過激派は社会の敵でしかない。
先月あった国際ヨガの日(6月21日)、モルディブでは首都マレにあるサッカースタジアムで、インド大使や英国大使も参加するヨガ・イベントが開かれた。
すると突然、「アラーは偉大なり!」と叫びながらイスラム原理主義者が乱入して会場はカオス状態に。
イベント参加者に暴行を加える前に、原理主義者らは警察に取り押さえられたらしい。
「ヨガは太陽にお辞儀するから、イスラム教の概念に反する」と主張する彼らは、このイベントが許せなかったらしい。
イスラム教徒はひざまずいてメッカの方角に頭を下げ、神に向かって“お辞儀”をするから、その行為と重ねたかもしれない。

この出来事に日本のネットユーザーはというと、ただの他人ごとか、理解不能といった反応が多かった。

・ダルシムについてインド人はもっと怒っていい
・面倒臭いなぁw
・まあカツ丼でも食べて…
・元来のイスラム教は寛容なんだけどな
過激派は歴史を学ばない
・ヨガ使いも火ぐらい吐いて応戦しろよ
・何だか分からんな
こんなに嫌う理由って何だろ

 

こういう過激思想を持つイスラムグループが最近のモルディブでは増加していて、2021年には元大統領が爆弾テロに巻き込まれて負傷した。

 

ヨガ・イベントに乱入してくるイスラム原理主義者ら。

 

日本なら、ヨガが問題視されて禁止されることはない。
ただ超例外的に、数年前に栃木県の刑務所で、ヒンドゥー教徒のインド人受刑者がヨガを禁じられたことならあった。
刑務所内の静穏を乱すおそれがある、自殺・逃走などを防止する必要があるといった理由で、特定のヨガのポーズは許可されず、それを知った日本弁護士連合会(日弁連)が「人権侵害」と指摘する。

【日本の多文化共生】刑務所でインド人のヨガはダメなのか?

こんな激レアケースは別として、スタジアムで行うような大規模ヨガ・イベントが開かれたとしても、日本なら、「〇〇は偉大なり!」と叫びながら宗教の原理主義者が乱入して、参加者が逃げまどう状態になることはない。
元首相に爆弾テロを行うような宗教グループもない。
モルディブでこうした過激派が出てくる理由の一つに、イスラム教が国教にされるほど、社会に強い影響を与えていることがあるはずだ。
信じるのはアッラーだけで、他の宗教の信仰を禁止しているという排他性が過激派の登場と無関係とは思えない。

 

モルディブ・レベルではないとしても、リゾートなら日本にも沖縄がある。
でも国民のほとんどが無宗教という日本は、宗教についてはモルディブとは正反対で似ても似つかない。
イスラム教を国教としているということは、モルディブでは聖書のクルアーン(コーラン)が最高法規、日本でいえば憲法に相当することになる。
日本では憲法に基づいて法律が制定されて、すべての国民がそれを守ることで社会が成立している。
刑務所内で受刑者がいつ、どんなポーズのヨガができるのかも最終的な基準は憲法にあり、それに反しているかどうかが問題になる。
モルディブでは主にクルアーンに基づいて制定されたイスラム法(シャリーア)があって、国民はそれを守って社会が成り立っているはず。
宗教の教えが社会のトップにあって、全国民がそれに従っているサウジアラビアやモルディブのような宗教国家は、日本人の感覚ではなかなか理解できないと思う。
だから、「面倒臭いなぁw」、「何だか分からんな こんなに嫌う理由って何だろ」なんて反応が出てくる。

でも、ヨーロッパもむかしはそんな感じだった。
ヨーロッパの国は歴史的にはキリスト教を国教としていて、国民がその教えを守って生活していたから、いまのモルディブと基本的には変わらない。
知人のドイツ人の話では、たぶんヨーロッパでは1789年に始まったフランス革命の前までは、キリスト教が国教になっていて、革命以降、社会からキリスト教が切り離されていき、現在の政教分離の国家になっていった。

日本も明治時代のはじめ、政府によって神道が一種の国教になったとき(神道国教化)、仏像や寺を破壊する仏教弾圧が起きた。(廃仏毀釈
「ヨガなんて許さん!」と会場に乱入した、イスラム原理主義者を笑えないような蛮行をご先祖もしていたのだ。
でも、そんな動きはすぐになくなる。
特定の宗教を国教化するという政策は、やっぱり日本の伝統や価値観には合わなかった。
基本的に無宗教で超世俗国家の日本は、イスラム国家のモルディブとは社会の成り立ちが違っている。
世界的に見ても、日本ほど宗教の過激派が生まれる土壌のない国はあまりない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。