【日本人と昆虫食】明治~令和、社会や意識の移り変わり 

 

明治時代にアメリカからモースという男がやってきて、東京帝国大学(いまの東京大学)で教授を務めていた。
大森貝塚を発掘したことでも有名な彼は、東京の街をブラブラ歩いてこんな経験をする。

*螇蚸(バッタ)、焙(あぶ)る

一人の男が、螇蚸を食料品として売っていた。螇蚸は煮たか焙ったかしてあった。私は一匹喰って見たが、乾燥した小海老みたいな味がして、非常に美味いと思った。螇蚸は我国にいる普通の螇蚸と全く同一に見えた。我国でだって、喰えぬという理由は更に無い。

「日本その日その日 (モース エドワード・シルヴェスター)」

エドワード・シルヴェスター・モース(1838年 – 1925年)

 

明治時代の日本では首都の路上でバッタを売っているほど、昆虫はポピュラーな食べ物だった。
でも時代が進んでいって、肉や魚を新鮮な状態で輸送・保存する技術が発達すると、昆虫食は過去のものとなっていく。
同時に、「きんもーっ」という負の感情が増大し、テレビ番組の罰ゲームで使うようなゲテモノ扱いされるようになっていく。
でも、長野県、岐阜県、群馬県などでは昆虫食はわりと一般的で、お土産屋でイナゴの佃煮が売ってるを見てチョット引いた記憶。
そして温故知新、昔ながらのこの食材が令和になって復活しつつある。

そのきっかけは国連だ。
これからの地球では人口が増えていって、このままでは食糧難におちいることはきっと避けられない。
飢餓や栄養不良から人類を守る秘策として、FAO(国際連合食糧農業機関)が動物性タンパク質の多い昆虫食に注目し、全世界へすすめた。
牛や豚などの畜産に比べて、食用の昆虫には成長に必要なエサや水はかなり少なく済むから、環境にとてもやさしい。
特にコオロギは世話がしやすいということで、世界各国で飼育されているのだ。

日本でも最近はコオロギを使った食べ物の商品化が進んでいて、『無印良品』がコオロギを使ったせんべいを発売したところ、爆売れしたから生産能力を6倍に増やした。
給食のメニューでコオロギを取り入れた学校があるし、浜松市内のパン屋で「コオロギパン」を見たこともある。

でも、やっぱり壁は高く厚い。
「ホットペッパーグルメ外食総研」が全国の成人男女を対象にアンケート調査を行って、ことし1月に結果を発表した。

「避ける」と思われている食品・食品技術発表! 「昆虫食」「人工着色料」を避ける人の割合は? 

これによると、「絶対に避ける」と「できれば避ける」の合計が多かった、つまり日本人がいま食べたくない食品のワースト3位は「3Dフードプリンターで作った食品」(70.3%)だった。
2位は「人口着色料」でその数値は 73.5%とやや多い。
そして、堂々の1位は 88.7%をゲットした「昆虫食」。
4位の遺伝子組み換え(70.2%)と5位の培養肉(67.8%)と比べても、日本人はダントツで虫を口に入れたくないらしい。

そのせいか、大手パン会社が粉末にしたコオロギを入れたパンを販売したら、公式ツイッターアカウントに「気持ち悪い」といったネガティブ・コメントがつぎつぎ投下されてプチ炎上になった。

ネットを見ると、昆虫食の”ゴリ押し”に抵抗を感じる人が目立つ。

・何でわざわざ虫食わなあかんねん
・押し売りってレベルじゃねぇぞ?www
・きれいな室内で育ててるんだからむしろエビよりも安全で菌も少ない
・もっと他の手段考えて欲しい
・激安スーパーの惣菜弁当はほぼこれになるだろうね
謎肉、昆虫肉

 

バッタを初めて食べたモースが「乾燥した小海老みたいな味」とレビューしたように、コオロギもエビに似た味をしているらしい。
といっても現代の日本では、新鮮な食材を輸送・保存する技術が発達していて、他に食べる物が山盛りある。
昆虫食が徐々に拡大していることは間違いないが、現状では国連や政府がプッシュしても、国民は聖書にある「笛吹けど踊らず」の状態で、明治時代の日本人みたいに街中で食べるほど気軽な食材ではない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。