甘川文化村の別の見方 「韓国の悪」を凝縮した空間?

 

韓国第2の都市で、南の玄関口とも言える釜山(プサン)。
博多からフェリーで約3時間半という近さだから、たくさんの日本人観光客が訪れる人気の街でもある。

最近、SNSの日韓交流グループで、ある日本人が釜山観光の1番のおすすめスポットとして、「甘川(カムチョン)文化村」を紹介した。
この村は山の斜面に広がる集落で、建物が赤、ピンク、青などのカラフルな色で塗られているから、写真映えするし、見ていて明るく楽しい気分になれる。
韓国の観光サイトでも、「まるでおとぎ話のようにカラフルな家々が斜面にびっしりと連なる景色」とか「家々がまるで1枚の絵のように美しく立ち並んでいます」と絶賛され、強く推されているスポットだ。

でも、ここを紹介した人に対して、釜山出身の韓国人が「そう言う日本人は多いのですが、私には考えられません」とコメントした。
なぜなのか?

 

 

中米に話題を移して、メキシコにはパチューカという都市がある。
サッカーの本田圭佑さんが所属していたCFパチューカの本拠地のある都市だから、それで聞いたことのある日本人も多いはず。
ここにも、「甘川文化村」と同じようにカラフルな地区がある。
そこは貧民街で、ネットでは「虹色のスラム街」と呼ぶ人もいるようだ。

 

 

このカラフルなスラムの存在を知った後、メキシコ人の知人と会ったから、彼にこの地区のことを聞いてみた。
すると、彼はパチューカとは別の場所で、同じような貧民街を知っていて、こんな切ない話をする。

「貧しい人々は街から追い出されて、不便な山の斜面に住むようなった。昔、そこはすごく汚かったんだよ。それで、街にいる金持ち連中から苦情が出て、街が強制的に家の壁をいろいろな色で塗ることを決めた。メキシコは発展途上国だから、国や地元当局の立場がすっごく強くて、相対的に、一般国民の権利は低いんだよ。貧しい人々なんてハッキリ言って眼中にない。だって、キレイな色で塗られたスラム街を見て、都市の住民は『これでコーヒーがおいしく飲めるようになった』って満足したぐらいだからね」

ここまでくれば、釜山出身の韓国人が「甘川(カムチョン)文化村」を観光地としてすすめたくなかった理由が見えてくるのでは?
その人はまだそこが開発される前、釜山の旅行会社で働いていて、この観光プロジェクトに携わった経験があり、それが成立するまでのウラ事情について語った。

 

20年ほど前、自分がいまの「文化村」を訪れた時、まだそこはただの貧民街で、上下水道も整備されていなかったから、道を歩いていると悪臭が漂ってくるようなところだった。
目的地の家がなかなか見つからず、自分は雨の降る中を歩いて探していた。
周囲は汚れていて、まるでホラー映画のシーンのように見えて怖かった。

釜山市が住民の意思をほとんど聞かず、ほぼ一方的にそこを観光地化させて、「家々がまるで1枚の絵のように美しく立ち並んでいる」と称される現在の甘川(カムチョン)文化村ができあがった。
確かに多くの観光客が集まって、プロジェクトは成功を収めたけれど、それは住民の負担を犠牲にしたものだった。

ある日、突然、家の壁をペンキで塗られて不快な思いをした住民がいたし、自分たちの生活空間を歩いて回る観光客が増えて、プライバシーをのぞかれて嫌な思いをする住民もいた。
そして、そこから得られる収益は外部の事業者が吸い上げて、文化村の住人には最後に少ない利益が回ってくるだけ。
釜山で生まれ育ち、この都市が大好きで、プロジェクトに携わった人間としては、ここまでヒドイ結果になることは想像してなくて、本当に心が痛かった。

自分のおすすめは、釜山にある忠烈祠(チュンニョルサ)。
ここは市民にとって大事なところで、静かでキレイな雰囲気に包まれている。
でも、忠烈祠は朝鮮出兵で日本軍と戦った軍人や亡くなった民間人を祭る場所だから、日本人には複雑かもしれない。

文化村が、まるでおとぎ話の世界のようなステキな場所に見えることは事実。
でも、その後ソウルへ移住し、いまは日本で暮らしている自分としては、韓国社会の情けない部分や恥ずかしいところが凝縮されているようで、賞賛の声を聞くと痛みを感じる。
貧民街にほぼ強制的に色を塗って、観光地化する行為は後進国の発想で、日本では考えられないことだ。

もちろん、この話がどこまで本当かはわからないが、この人がウソをつく理由も見当たらない。
このコメントに対してはほかの韓国人から、「その情報は古い」、「いまは状況が変わって住民は喜んでいる」、「貧民街のまま放置しても、何の解決にもならない」といった反論が殺到し、本人は黙ってしまった。

 

ここでちょっと脱線。

韓国では大統領に権力が集中していて、政府や大統領はとても大きな力を持っている。
それで大統領が引退した後、不正が見つかって逮捕されるという事件がよく起きるから、知人の韓国人は「韓国の後進性を象徴していますね」とあきれる。

さて先月、韓国でボーイスカウト、ガールスカウトの世界的な大会(世界スカウトジャンボリー)が開催され、153の国と地域から約4万3000人が参加した。
が、これは、韓国政府の国家的支援による一大プロジェクトだったにもかかわらず、準備不足から各国から不満が続出し、韓国はメンツを失った。
でも、大統領や政府が主導していろいろな分野の人員を導入し、猛烈な巻き返しを図る。
最後のKーPOPコンサートでは、世界的に有名なスターが突然予定を変えて参加したり、音楽番組が放送中止になったりして、このコンサートへ全集中した結果、参加者は大満足だったらしい。
ほかにもいろいろな企業が数千万から、1億円を超える支援金を出した。
良く言えば、大統領がリーダーシップを発揮して難局を乗り越えたのだけど、大統領が強大な力を使って民間部門を動かしたことには「後進国」との批判も上がった。

ハンギョレ新聞のコラム(2023-08-15)

戦時国家動員令を連想させるほど、企業や大学など民間部門が資産とサービスを集中投入しなければならなかった。

目覚めてみれば後進国6…現実を痛感させられたジャンボリー

文化体育観光部はどれも「自発的な支援」だったと強調したが、素直にそう受け取る国民は少ないだろう。

 

閑話休題

日本や韓国のウェブサイトを見ると、1950年にぼっ発した朝鮮戦争の避難民が住み着いたことを甘川文化村のルーツとしているのが一般的だ。
そして、2009年に町おこしを目的に「夢を見る釜山のマチュピチュ」という公共美術プロジェクトが始まって現在に至る。

でも、英語版ウィキベテアの説明では、甘川村は1920~30年代に、釜山市政府が労働者階級の人たちを港から隔離された地域に移住させる決定を下し、そこに居住地を建設したことをルーツとしている。

その後、2009年に文化体育観光部がこの村を文化の拠点に変えるために、パブリックアートをテーマにした工事を行った。
*文化体育観光部は、日本の文化庁、観光庁、スポーツ庁を合わせたような機関だから、この計画は政府の意思と考えていいだろう。
このプロジェクトは美大生、プロのアーティスト、住民に参加を呼びかけて、村を維持したり修理したり、アートで「飾る」ものであった。

In 2009, the Ministry of Culture, Sports and Tourism carried out a public art-themed renovation effort to convert the village to a cultural hub. It called for art students, professional artists, and residents to maintain, repair, and “decorate” the village with art.

Gamcheon Culture Village

 

英語の文章で「” ”」が使われている場合、通常は皮肉だったり、特別な意味があったりする。
この場合、それを望まない住民が多かったことを暗に示している気がする。
ウィキベテアの説明によれば、この計画に賛同する住民もいれば、ここから出ていった住民もいるということだから、賛否は半々といったところか。
逆に、都市部から、この地区に移り住んだ住民がどれぐらいいるのか知りたい。

「甘川(カムチョン)文化村」はまるでおとぎ話のようで写真映えするが、その背後には闇が存在するようだ。
建物には赤、ピンク、青などのカラフルな色が見えるけど、じつは黒が一番大きいかもしれない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。