【厄災の原因】日本人は怨霊、アフリカ人は悪魔のしわざ

 

きょう11月17日は、日本の歴史にとってかなり重要な日だ。
794年のこの日、桓武天皇が平安京へ遷都して、京都がそのあと千年にわたって日本の都になったのだから。
でも、奈良の平城京からダイレクトに引っ越したのではなく、784年に一度、長岡京に都が置かれている。
長岡京が約10年で“捨てられた”理由は、怨霊のしわざだとか。

785年に藤原種継が暗殺されると、桓武天皇の弟で皇子だった早良親王(さわらしんのう)がそれに関わったとされて捕まった。
「違う! 私はやっていない!」と早良親王は無実を訴えたのだけど、桓武天皇などからは無視されて、彼は強い恨みを抱えたまま死んでしまう。

するとその後、飢饉や疫病が広がったり、桓武天皇の家族や女官などが病死したりするといった厄災が発生した。
陰陽師による占いの結果、これは早良親王の怨霊が原因と判断される。
桓武天皇や周囲の人々も、こうした不幸は祟(たた)りによるものと信じ、早良親王の怒りを鎮めための儀式をおこなう。
それでも、また災害が発生し、天皇から不安や恐怖が消えることはなかった。
それで結局、長岡京はあきらめ、新しい都を築くことを決めて「鳴くよウグイス平安京」という運びとなる。

 

千年、数百年前の日本人は、病気の原因がウイルスにあることを知らず、疫病や災害がおこる理由を怨みを持って死んだ人間の「怨霊」のせいと考えた。
この考え方では、死者の恨みを解消すれば厄災もなくなるから、怒りをしずめる儀式がセットになっている。

怒り、荒ぶる霊を満足させて、神として祀ると、もともと人知を超えるパワーを持っていた怨霊は、今度は守り神になってくれると信じられていた。
強敵が一転して、頼れる味方になるという少年ジャンプ的な発想は古代からあったのだ。
そんな良い霊は、魂の尊敬語である「御霊」と呼ばれる。
昔の日本には、怨霊を祀ることで御霊に変えて、平和な生活や社会の発展を願う御霊信仰(ごりょうしんこう)があった。

 

平安時代におきた清涼殿落雷事件

当時の人々は、菅原道真の怨霊が雷神となって現れ、雷を落としたと考えた。
道真の魂は北野天満宮で祀られ、いまでは受験の神という「御霊」になっている。

 

昨年、東アフリカから来たタンザニア人と一緒に京都を旅行した。
そのときに御霊信仰の話をして、どう思うか聞いてみたら、彼はこんな話をする。

「怨霊が病気や災害を引き起こして、人々が祀ることでそれを鎮める、か。現在のタンザニアでも、そんな考え方はある。コロナが流行したとき、大統領はそれを“悪魔のしわざ”と考えた。だから、彼は“みんなで神に祈ろう!”と国民に呼びかけたんだ。」

なるほど。
そのコロナ対策はとても斬新で、不幸な未来しか見えません。

調べてみたら、本当にタンザニアの大統領は、ウイルスを「悪魔(demon)」と表現している。
彼は国民に向かって、「コロナのウイルスはイエス(神)の体内では生き残れず、焼き払われるだろう」と意味不明な供述…ではなくて、ガチでそう話している。
そして、コロナに対する霊的な戦い(spiritual war)を宣言したと、「Religion News Service」の記事にある。(March 12, 2021)

he described the virus as a demon and declared a spiritual war against the disease, saying, “COVID-19 cannot survive in the Body of Jesus (and) will be burned away.”

Amid deadly resurgence, Tanzanian officials maintain they can pray the ‘coronavirus devil’ away

 

「霊的な戦い」とは、国民が神に祈って悪魔(コロナウイルス)を倒すことを指す。

知人の話によると、大統領はコロナのパンデミックを“悪魔のしわざ”と考えた。人々が神への信仰をなくすように、悪魔がこの世界的な厄災を発生させたと。
具体的には、国や地方自治体にロックダウンをさせて、キリスト教徒は教会へ、イスラム教徒はモスクへ行かせないようにさせて信仰心を奪おうとした。
だから、タンザニアの大統領はそんな悪魔の邪悪な計画を防ぐために、教会とモスクの閉鎖を拒否し、人々がそこへ行き、祈りを捧げるよう訴えたという。
これが“スピリチュアル・ウォー”だ。

日本人で無宗教のボクからすると、クラスターが発生して、患者が激増する予感しかないのだけど。

 

知人に意見をたずねると、彼も大統領のこんな考え方を支持していた。
彼はキリスト教徒で神を信じているから、悪魔の存在も信じると言い、こんな話をする。

21世紀になって、科学は人類を月へ運ぶほど発展したけれど、人間はまだこの世のすべてを理解していない。
この世界の誕生についても、まだ謎は残されている。
それは人知を超えた存在、神が創造したと考えるのが一番自然だ。
悪魔は存在し、常に人々を神から遠ざけようとたくらんでいるから、教会に行って祈らせないように、コロナのパンデミックを引き起こして、その目的を実現しようとしたと考えてもおかしくない。(いやいや)
コロナが、なんでこのタイミングで始まったのか誰も分かっていない。
そういうことの背後には悪魔がいるんだ。
だから、タンザニアでは悪魔に対抗して、数千人がスタジアムに集まり、24時間の祈りを捧げる動きもあった。
悪魔のねらいとは逆に、いま信仰を深める人が増えているんだ。

彼はこのとき、いつも通っている日本の教会へ行けなかったから、個人的に神への祈りを欠かさずおこない、「spiritual war」に参加していたと言う。
なんか平安時代の怨霊信仰とあんまり変わらないような…。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。