【対中国】ベトナムやフィリピンから、日本が期待されるワケ

 

10年で10倍。
ここ10年間で、日本国内で働くベトナム人の数は10倍以上に増えている。
外国人労働者は約182万人で、そのうちベトナム人が約46万ともっとも多いのだ。(2022年10月)
知人にそんな在日ベトナム人がいて、彼と話をしている時に「ベトナム人に一番人気のある国ってどこ?」と尋ねると、「そうですね~」としばし考えた後、彼は「やっぱり日本でしょうね」と答えた。

そうなのか。
でも、気がかりなことがある。
以前ネットで、日本が第二次世界大戦中にベトナムで破滅的な飢饉を引き起こし、200万人を餓死させたと怒るベトナム人のコメントを見たのだが?

*この「1945年ベトナム飢饉」については、正確な死者数や飢饉の原因はわかっていない。天候不順による凶作だけでなく、当時の日本軍や米仏の責任も指摘されている

それでも、ベトナムの人たちが日本を好きだと言ってくれるのは、とても光栄なことなんだけど、その理由はいったい何だろう?
まず、第二次世界大戦やベトナム戦争などの悲しい過去については、歴史として学び、忘れないようにすればよく、それを持ち出して他国を非難しても意味はない。
現在のベトナム人にとって一番大事なことは、国の発展や豊かな未来といった「国益」だから、歴史もそれを中心に考えていくべきだ。
知人の話では、過去の歴史についてそう考えるベトナム人が多い。

 

ベトナム人が日本を好きな理由には、経済的な関係やアニメやゲームなどの文化的な要素がある。
でも、最近では「中国に対抗する」という意味で、日本に期待する人も多いという。
具体的には、この毎日新聞の報道に関することだ。(2023/7/5)

ベトナムで映画「バービー」上映禁止 中国主張の「九段線」登場

九段下なら問題はないけど、九段線は大きな国際問題になっている。
中国は南シナ海のかなり広い範囲をガッツリ自国の領域と主張し、それを示す九段線を引いた。
これはベトナムが主張する領海を無視したもので、ベトナム側としては主権や石油・ガス・漁業などの権益が奪われることになるため、絶対に認めることはできない。

国連海洋法条約に基づくハーグの常設仲裁裁判所が2016年に、九段線について「法的根拠がない」と判断した。でも、中国はそれを「紙くずだ」と相手にせず、スプラトリー諸島などの岩礁を埋め立てて軍事拠点化している。
ベトナムの漁船が中国海警局の船によって沈没させられた事件もあり、ベトナムには反中感情が強くあるのだ。

 

中国が主張している「九段線」(緑色)

 

アメリカの実写版映画「バービー」の中で、中国が主張する「九段線」が描かれた地図が登場するから、ベトナム側はそれを問題視し、映画の上映は禁止された。
ベトナムでは2019年にも同じように、「九段線」のある地図が出てくることを理由にアニメ映画の上映が中止されたことがある。
日本でも竹島を韓国領、尖閣諸島を中国領とする地図が映画に登場したら、上映中止になるかは分からないが、大炎上することは避けられない。

知人の話によると、強大な中国にベトナムが一国で対抗することはほぼ不可能だから、アジアの大国である日本がこの問題に関与し、中国をけん制してほしいとのこと。
「対中国」で、日本の活躍を期待するベトナム人は少なくないらしい。

 

南シナ海での領有権をめぐる問題はフィリピンにもある。
そのため、ベトナムと同様にフィリピンも「バービー」の映画に登場する「九段線」を問題視し、映画の上映中止の可能性が浮上した。
フィリピンも一国では中国に対抗することは困難だから、日本とアメリカのこんな動きを歓迎している。

TBSニュース(2023年6月7日)

日米比が初の合同海上警備訓練を実施 南シナ海で領有権争う中国に対抗する狙いか

「南シナ海で軍事拠点化を進める中国の脅威」が高まっていることを受けて、日本・アメリカ・フィリピンは海上警備の合同訓練を初めて行った。
フィリピンとしては、周辺国の協力を得て中国に対抗することが理想的。
中国が国際法の裁定を「紙くず」と一蹴し、九段線に根拠に勢力を拡大させる中で、ベトナムもフィリピンと同じく、日本の支援や関与を期待しているのが現状だ。
2018年には、ベトナムの国家主席チャン・ダイ・クアン氏が「日本が積極的に平和のための役割を果たしてくれることを期待する」と述べた。

とはいえ、日本にとって中国は重要な経済パートナーで、長年に渡る友好関係もある。
だから、この問題に深く関わって、日中の緊張を高めるような行動はなかなかできない。
ベトナム、フィリピン、インドネシアから、「にほーん! 早く来てくれー!!」という声が聞こえてきたとしても、日本は国益を中心に考えて慎重に判断し、行動しないといけない。
それでも、日米比による初めて合同海上警備訓練が行われたように、時代や時勢は動いているから、「対中国」を意識して、日本が何らかのアクションを取ることはこれから増えそうな予感がする。
それにしても、東南アジア諸国が日本の「武力」に期待するなんて、時代は本当に変わった。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。