NY出身のアメリカ人、日本人の信仰スタイルに疑問を感じる

 

7月21日は神前結婚記念日。
神前式は神道の神様の前で愛を誓う結婚式で、現代では芸能人を含めて一般的に行われている。
でも、その歴史は意外と浅い。
日本で初めて神前式が登場したのは1900(明治33)年だから、まだ120年ほどの伝統しかない。
その年の5月、当時の皇太子(後の大正天皇)と九条節子(後の貞明皇后)が皇居内で、神の前で夫婦の誓いを立てる「結婚の儀」を行なった。
皇室は当時も今も日本における最大級の「インフルエンサー」だ。

この結婚の儀が広く知られるようになると、多くの国民がそれまで新郎の家でしていた結婚式を神前でやってみたいと思うようになる。
そこで現在の東京大神宮が皇太子の「結婚の儀」を参考にして、1901年の7月21日に神社で初めての神前結婚式を行なった。

*東京大神宮のHP(神前結婚式)にこんな説明があるが、日本初の神前式については別の説もある。

 

さて、日本人の結婚式と言えば、知り合いのアメリカ人がその実態を知って「何というデタラメ…」と驚いたことがあった。
彼女はニューヨーク出身の20代の女性で、ある日、浜松市内にあるホテルで素晴らしいランチバイキングが楽しめるという話を聞く。
それでそのホテルへ行って、2人とも来たことを後悔するほど食べた後、彼女がせっかくだからホテルの中を散歩したいと言い出す。
ホテル内を歩いていて、彼女が不思議に思ったのは結婚式場だ。
そこにはキリスト式、神前式、仏前式、人前式の部屋があり、カップルは好きなスタイルで結婚式を挙げることができるようになっていた。
それを知った彼女は次の2点にツッコミを入れる。

・アメリカで結婚式場なんて見たことも聞いたこともないから、まずそんな場所に違和感がある。
・結婚式では、カップルの意思が尊重されることは分かる。でも、カップルが宗教の形式を選ぶと、それに応じてキリスト教、仏教、神道の聖職者がやってきて式を挙げるという発想はまったく理解できない。

そう首をひねるアメリカ人に、よくある日本人の一生を説明してみる。

日本では、子供が生まれたら、親は神社へ行って神に感謝の気持ちを伝えるお宮参りをする。
そしてその子は成長すると、12月25日にクリスマスを楽しみ、一週間後には初詣で神社やお寺へ行って一年の幸せや健康を祈る。
大人になったら、ステキな相手とキリスト教の教会で結婚式を挙げる。
そして最後は、仏教のやり方でお葬式をしてあの世に送り出される。

日本人には平均的で平凡な人生と思われるが、そのアメリカ人には支離滅裂か意味不明に聞こえたようで、こんな感想を述べた。

「ニューヨークにはカトリックやプロテスタントの教会、イスラム教のモスク、それにヒンドゥー教やシク教の寺院などさまざまな宗教施設がある。一つの都市に、いろいろな宗教や信者がいることは分かる。それはロンドンやパリも同じだから。でも、日本人みたいに、1人の人間が複数の宗教を”兼ねている”状態は、違和感を超えてすごく奇妙に見える。」

 

日本は自分たちの都合で、外国との付き合いを最小限に限定する”鎖国”ができたような島国だから、海外と価値観や考え方が違うのも当然。
日本人自身も「日本の常識は世界の非常識」とよく言う。
ただ、このアメリカ人は日本人の信仰スタイルを「奇妙」と表現しただけで、それを「間違っている」と否定したり、「遅れている」と非難したりすることはなかった。
キリスト教の文化圏で育って今は無宗教の彼女からすると、異なる宗教が共存する日本は平和で理想的にも感じる。
アメリカにいた時は、「聖書に恐竜なんて出てこない。だから、地球上に恐竜なんていなかったんだ」とホンキで主張するキリスト教の原理主義者と出会って、ウンザリした経験がある。
日本なら、そんな目にあうことはない。
自分の信じる教えがもっとも正しいという独善的な人よりも、宗教に無関心な人の方が付き合いやすい。それに、そういう人は社会を自分の信仰に合わせようとしない。
そもそも日本人が複数の宗教を信じていても、自分に迷惑はかからないからどーでもいい。

ということで、NY出身のアメリカ人から見ると、日本人の信仰の仕方はとても不思議だけど悪いことではない。平和共存している点は素晴らしいと言っていい。
とはいえ、これはあくまで知人の見方だから、「日本人の宗教観はオカシイ…」とドン引きする外国人もきっといる。

 

 

イスラーム教 「目次」

【悪霊退散】日本人も欧米人も恐怖は同じ。でも方法は違う

【偶像崇拝】図工に雪だるま、日本人とイスラム教徒の違い

アメリカ社会のキリスト教信仰:中絶は”殺人”か”権利”か?

ウンザリするキリスト教の独善性、外国人が驚く日本人の寛容

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。