インド人の疑問 日本人が原爆投下で米国を恨まない理由

 

知り合いのインド人が広島へ旅行に行ったと言うから、感想をたずねると、彼は怒り気味にこんな話をする。

「なんで日本でアメリカの人気が高いのか、私には理解できないよ。日本人に好きな国を聞くと、アメリカを挙げる人が多いし、日本の社会にはアメリカ文化が洪水のようにある。あんなヒドイことをされたのに、なんでアメリカが支持されているのかサッパリ分からない。」

日本に住んでいたモロッコ人にも、同じ質問をされたことがある。
原子爆弾を投下され、数十万人が死んだりケガを負ったりしたのに、なんでいまの日本人はアメリカを恨まず、むしろ大好きなのか?
この質問の答えは「坊やだからさ」では片付けられないほど深い。

 

1945年8月6日、広島でこんな惨劇が起きた。

 

ネットを見ていると、

「日本人はアメリカへの恨みを忘れてはいけない」
「日本人は大量虐殺された。アメリカに復讐するべき」

などと、どこまでホンキか分からないけど、怒りの投稿を見かけるから、「この恨み、晴らさでおくべきか」と考える日本人がいないこともない。
しかし、「リメンバー・ヒロシマ&ナガサキ」なんて発想はスペシャルで、ほとんどの日本人は原爆がもたらした悲劇を知っていても、アメリカを恨んでいないし、謝罪を要求することもない。
ただ、外国人にその理由を聞かれると、ちょっと答えづらい。
AIに聞いてみると、次の3つの理由がでてきた。

・教育とメディアの影響:日本の学校教育やメディアは、戦争や原爆使用の恐ろしさや悲惨さを取り上げて、平和や協力の大切さを強調してきた。

・戦後の政策と和解: 戦後、アメリカは占領政策を通じて、日本に民主主義や平和主義を導入し、日本は戦争について反省するようになった。
そして、アメリカと日本は政治や経済的な協力を深め、友好的な関係を築いてきた。

・原爆の経験と被爆地の平和活動:広島と長崎は原爆の被災地として、被爆者やその家族が核の恐ろしさを訴え、核兵器廃絶と平和実現の努力を続けている。この活動が日本国内で理解や支持を集めている。

日本人がアメリカを恨まない理由は、ひとつだけではなく複数あってからみ合っている。
その中にアメリカの占領政策の影響があることは間違いないが、日本人は意外とその大きさに気づいていないかも。

 

大東亜会議に参加したアジア各国の代表
左からバー・モウ(ビルマ)、張景恵(満州国)、中華民国(汪兆銘)、日本(東條英機)、ワンワイタヤーコーン(タイ)、フィリピン(ホセ・ラウレル)、スバス・チャンドラ・ボース(インド)

 

1941年のきのう12月12日、日本政府が日中戦争を含むアメリカ(連合軍)との戦争を「大東亜戦争」と呼ぶことを決めた。
当時の日本は欧米の植民地にされていたアジア諸国を解放し、日本を中心とした共存共栄のアジア経済圏を築くことを主張していた。
東京で大東亜会議を開催したのはそのため。

しかし、戦後に日本を実質的に支配したアメリカが、そんな考え方を認めるワケない。
アジア解放の意味が込められた「大東亜戦争」というワードの使用を禁止し、「太平洋戦争」と呼ばせることにして、それがその後の日本の標準となった。

当時のアメリカにとって重要だったのは、日本国民に「アメリカってじつは良い国じゃん!」と思わせること。
そんなイメージ向上キャンペーンの一環として、「占領軍」ではなく「進駐軍」と呼ばせた。
アメリカ兵が日本の子どもたちに、ガムやチョコレートをバラまく写真を見た人も多いと思う。
でも、そのお菓子代を出していたのは日本政府だ。
アメリカは「鬼畜米英」のイメージを払拭するために、文字どおり配っただけだった。
連合国軍占領下の日本

 

このころのアメリカが目指したのは、日本を二度と戦争をさせない国へつくり変えること。
そのため、占領政策では、「大東亜戦争」が閣議決定されたちょうど4年後の1945年12月12日、『忠臣蔵』の上映が禁止された。
江戸時代、無念の死をとげた主君のため、家来が敵を殺して恨みを晴らした「赤穂事件」を基に作られた復讐劇が『忠臣蔵』。
この作品は時代を超えて日本人に愛され続けた。
こんな仇討ちモノを見て、日本人の復讐心に火がついてしまったら、アメリカとしては激しく困るから“バン”するしかない。
雑誌『LIFE』に、日本人の「血に飢えた」メンタリティーを忠臣蔵から分析する記事が載っていて、それがこの決定に影響を与えたという見方もある。

アメリカの占領政策は日本の政治や教育制度から、こんな娯楽作品にいたるまで行なわれた。
現代の日本人の平和を求めるメンタリティーには、これによって形成された部分が確実にあって、原爆投下についてアメリカを恨まないの理由の一つにもなっているはず。
でも、それは「One of them」でしかない。

決定的な要因はきっと日本人の国民性だ。
日本人は「和をもって貴しとなす」の考え方をとても大事にして、個人の主張をするよりも全体的な協調を優先する。
アメリカ人はこの点が違って、全体の「和」よりも自己主張を優先する傾向が強い。
それに、日本には「水に流す」文化がある。
過去の恨みをいつまでも持ち続けることで、具体的にどんなメリットがあるのか?
時代が変わったら、終わったことに固執しないで、意識を変えて眼の前の問題に対応する必要がある。
そもそも憎悪や敵意を抱き続けるのは疲れるし、良いこともない。
アメリカに対しても、原爆投下の恨みを晴らすことよりも、負の感情は水に流し、平和や協力を求めていく方が良い。

日本人がアメリカを恨まない理由は、そんな日本人の国民性とアメリカの徹底的な占領政策が合致したから。

 

 

カテゴリー「平和」 目次 ①

【最後の選択肢】原爆投下の理由をアメリカ人はこう考える

米軍による日本への原爆投下、ヨーロッパ人はどう思う?

アメリカ人の歴史認識:悪いのは原爆投下より日系人の強制収容

【外国人の見方】第二次世界大戦は、ドイツと日本が始めた? 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。