【ビスケットの語源】なんで、“二度焼いたパン”なのか?

 

2月28日は「ビスケットの日」だ。
ビスとケットでビスケット。
むかしのヨーロッパで使われたことば(いまも一部では現役)、ラテン語の「ビス(二度)」と「コウトゥス(焼かれたもの)」に由来するビスケットは、もともとは2回焼いたパンのことだった。

*ラテン語で「パーニス・ビスコウトゥス(panis biscoctus:二度焼いたパン)」

なんでパンを二度も焼いたのか?
1回じゃダメなんでしょうか?

 

 

わが静岡には富士山があるもんで、よく外国人を連れてこの山を見に行くのですよ。
そのとき心密かに楽しみにしているのが、彼らが何を持ってくるか?ということ。
そこにはそれぞれの食文化があらわれるから。

 

 

リトアニア人やロシア人は、サンドウィッチをつくってくることが多い。
ヨーロッパ人の彼らにとってサンドウィッチは「日本のおにぎりと同じだよ」とのこと。

 

 

これはベトナム人の昼食。
パンにベトナムの辛い調味料をかければ、大体おいしくなるらしい。
それと野菜はしっかり食べたいという。

 

 

これはインド人からもらった食べ物。
よく焼いたお菓子で、ピクニックなど遠出するときによくこれを持って行くという。

 

どの外国人もハイキング用の食べ物なら、基本的にすぐに腐らず長く保存できるものを考えている。
ラップで巻いたりタッパーに入れるのも、食べ物を状態良く保存することが念頭にあったはずだ。
これは人類の当たり前で、数日間の夏登山に、刺身や寿司を携帯食で持っていく人は聞いたことがない。

 

さてラテン語の「パーニス・ビスコウトゥス(panis biscoctus:二度焼いたパン)」はインド人が持ってきた食べ物に似ている。

2回焼いて固くなったパンは日持ちするから、むかしのヨーロッパ人が遠く離れた地へ航海するときや、戦いにおもむくときの食糧としてこの2度焼きパンを持って行った。
ということで、ビスケットはもともと航海や軍隊で必要な保存食だったのだ。

 

明治のはじめに欧米を視察した岩倉使節団のひとりは、イギリスでビスケット工場を見学して「ビスコイトは二度焼煎餅」の意味だという記録を残している。

 

ヨーロッパ人が航海で持っていったビスケット(1852年)

 

現代ではすぐれた保存料や、ラップやタッパーといった武器もあるから、食べ物が腐りにくい世の中になっている。が千年、数百年前は「よ~く焼く」という発想が一般的だったのだろう。
ろくな準備もしないで旅にでることを、フランスでは「ビスケットなしに乗り物に乗る」というらしい。

日本でいうなら鎌倉・戦国時代によく食べられた「陣中食」のようなもの。
握り飯・五平餅・せんべいなどは持ち運びに便利で、長持ちするし調理なしでそのまま食べられることから、どこぞに行くとき日本人はこれを携行食にしていた。
前に何かの歴史本で日本人は遠くへ出かけるとき、おにぎりの表面を軽く焼いて、より日持ちするようにしたと読んだ記憶があるのだが、いま調べてみてもそれが出てこない。
握った米そのままの状態よりも、あぶった方が保存には良い気はするけど何かのカン違いだったかもしれぬ。

それにしても米か小麦粉かの違いは、そのまま日本とヨーロッパの食文化の違いをあらわしている。おにぎりとサンドウィッチのように。

個人的にも海外旅行に行くとき、もしものための保存食・緊急食としてカロリーメイトをバックパックに入れておいた。
これが「パーニス・ビスコウトゥス」の最終進化形態だ。

 

ビスケットの由来については別の説もある。
19世紀にスペインのビスケー湾で船が遭難したあと、船員が船にあった小麦粉やバターと卵などを一緒に練って焼いて食べたことが始まり、というもの。
でもこちらは、話として「出来過ぎ感」があって信頼性に欠けると思う。

 

 

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カテゴリー: ヨーロッパを知りましょ!

 

1 個のコメント

  • ビスケットって、今でも欧米の軍隊では軍用戦時食料の代表格の一つなのでは?
    その他にも、シリアルとか、カロリーメイトとか、レトルトシチューとか、色々ありますけどね。
    米国陸軍では、確か、KitCutも兵隊たちの大事なオヤツとして扱われていたように思いました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。