【歴史はくり返す】いまも日本に広がるウイルスとデマ

 

対新型コロナの切り札となるのがワクチン接種。
これさえすればコロナはなくなる!という魔法ではないとしても、感染拡大を止める最も有効な手段であることは、世界中の専門家や首脳が太鼓判を押している。
にもかかわらず日本や海外ではネットに流布する「ワクチンデマ」を真に受けて、接種を拒否する人も多いというから頭が痛い。

個人的にもちょっと前に、「ワクチンを接種すると体に磁石がくっつくようになる」というウソ情報がネットに流れているのを見た。これは動画付きだったから、騙されたも多かったようだ。
ほかにも、「ワクチンにはマイクロチップが入っていて、個人の行動が政府に監視される」、「ワクチン成分によって、政府の思い通りに遺伝情報が書き換えられる」といったSFちっくなデマもあった。
ワクチンを接種すると自閉症になりやすい、という話はかなり悪質だ。

もちろんこれらの説は漏れなくフェイク。
コロナ禍のいまはウイルスだけでなく、偽情報の侵入を防ぐことも重要になる。
でも、デマは止まらない。今度はこんな説が登場した。

弁護士ドットコムニュースの記事(8/20)

「ワクチン入りトマトが出回っている」、関与疑われたカゴメやカルビー「デマ」と否定

マイクロチップの次はトマトか。

どこかの反ワクチン派が「〇〇の入ったワクチン」という発想を逆転して、「ワクチンの入ったトマト」が広がっているという情報をネットに流すと、これがリツイートされ大拡散。
こんなトマトを開発して使っていると、名前を出されたカゴメやカルビーなど15の企業に不買運動を呼びかける声も出てきたことで、事故に巻き込まれた企業はこの説を完全否定し、「安心してほしい」と消費者に訴えた。

これに対してネット民は、

・小学生でもこんな陰謀論考えないだろw
・嘘を嘘と見抜く力が少なくなっています。
・偽計業務妨害で逮捕しろ
・そのうちワクチンに空気感染するとか言い出すに500ゴールド
・反ワクチン派は学歴低いって研究結果あったけどほんとだな
・こんな簡単に釣れるのならもっとアホな情報でもイケそうな気がする

とあきれ顔。

名指しされた側にとってはまさに大・迷・惑で、カゴメが「事実と異なる情報」、カルビーは「誤った情報で拡散」、モスは「一切関知していない」と声明を出さないといけないほど。
ただフェイクニュースの拡散に、正しい感染症予防がジャマされるというのはいまに始まったワケでもない。

 

江戸時代、学校の歴史の授業でならったこの人も偽情報に悩まされた。

 

 

江戸時代後期の武士だった緒方 洪庵(おがた こうあん:1810年 – 1863年)は「オレって武士に向いてねー」と自覚して、病気で苦しむ人救う医師になることを決意した。
大坂に適塾(いまの大阪大学)を開いたことで有名な緒方は、天然痘(てんねんとう)治療に貢献して「日本の近代医学の祖」といわれる。

天然痘はめっちゃ恐ろしい病気だ。
天然痘ウイルスに感染して発症するこの病気は、激しい痛みや高熱で人を苦しませた挙句に命を奪うこともある。
天然痘には爆発的な感染力があるから、8世紀の「天平の疫病大流行」では日本の総人口の25~35パーセント(100万~150万人)が死亡したという。
この恐怖から日本人を救ったヒーローが緒方洪庵。

「牛痘(ぎゅうとう:牛の天然痘)にかかった人は、天然痘にかからない」という話から、18世紀末にイギリスのジェンナーが牛痘ウイルスを人に接種することで天然痘を予防する「種痘」を完成させた。
*ヒトが牛痘にかかっても大した影響はない。

緒方洪庵がこれを日本で実践したところ、この斬新すぎるやり方に当時の人たちがついていけず、世間には不安や恐怖が広がった。
牛痘には有益性がないどころか、かえって体がおかしくなる(種痘をすると牛になる)といった悪評が広がったせいで、種痘の効能を信じる人は皆無だったと洪庵がなげく。

「都下悪説流布して、牛痘は益無きのみならず、却て児体に害ありといひ、之を信ずるもの一人もこれ無きに至れり」

感染症からヒトを守りたかったのに、迷信による悪説によってそれがうまくいかなかった。
「新型コロナのワクチンにはマイクロチップが入っている」、「遺伝情報が書き換えられる」と単語が近代的になっただけで、フェイクニュースの拡散によって効果的な感染症対策が邪魔される、「都下悪説流布して」という状態は江戸時代も令和のいまも変わらない。
コロナウイルスも怖いが、脳に感染するウイルスもコワい。
*現代では、政治的動機から偽情報を流す人が多いところが江戸時代と違う。

新型コロナウイルスに感染したワクチン反対派の人が、「早くワクチンを打ってくれ!」と医者に懇願して亡くなる事例は多くあるから(発症した後では手遅れ)、事実と科学に基づいて早め早めの接種が大事だ。

 

ちなみにジェンナーもはじめは、「牛のような顔になる」といった風説に苦しめられた。

 

当時のウワサを反映した風刺画(1802年)では、種痘を受けた人の体から牛が生えている。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。