【ゴドウィンの法則】すぐにヒトラーを持ち出す日本人の悪いクセ

 

世界の歴史を見てみると、不幸で陰うつなことなんだが、虐殺はいろんな国であった。
でも、国家が意図的・計画的にある民族を絶滅させようと考え、強制収容所で毒ガスや飢え、人体実験などで600万人ものユダヤ人を殺害したホロコーストは別格だ。
こんな目的と規模の虐殺を行ったのは、人類の歴史ではナチスとかいう悪魔しかいない。

それで現在の欧米ではナチスを人種差別主義の象徴と見ているから、公の場でそのシンボルであるハーケンクロイツを使うことや、「ナチス式敬礼」をすることが法律で禁止されている国も多い。
このタブーを破れば社会的には“破滅”する。

AFP(2019年12月31日)

米刑務所の実習員、集合写真でナチス式敬礼 全員解雇に

ウェストバージニア州で刑務官の実習員30人が集合写真を撮る際、ひじをまっすぐ伸ばす「ナチス式敬礼」をした。
これが発覚し、激怒した州知事は「可能な限り最も強い言葉」で非難して30人全員の解雇をきめた。
実習員にとって担当教官がヒトラーのように厳しかったことから、こんな愚行につながったとか。
*もちろん教官も解雇。

アメリカではこの当時、ニューヨークで刃物を持った男がユダヤ人を襲うなど反ユダヤ主義的な事件が続いていたから、ナチスについては敏感になっていたらしい。

欧米ではナチス式敬礼をしたり、ハーケンクロイツを見せることは基本的に「知りませんでしたゴメンナサイ」では済まず、逮捕案件にもなるけど、スイスのように「OK」という国もある。
これは行為だけを切り取るのではなくて、その人物の思想や背景などを総合的に把握して、人種差別の意図があったら違法行為で、なければ「問題ナシ」というように判断するやり方だ。
くわしいことはこの記事を。

すれば逮捕の「ナチス式敬礼」が、OKの国も欧州にある

 

日本は歴史的にユダヤ人住民がいなかったし、ユダヤ人問題とは無縁の国だった。
第二次世界大戦中にはユダヤ人を助けた杉原千畝や樋口季一郎などがいて、ホロコーストを行ったナチス=ドイツとは違う立場にいた。
そんなことから、ナチスの犯罪についてはあまり歴史教育で教えられてないし関心も薄い。

それはまぁ仕方ないとしても、自分とは価値観や考え方が違う相手や嫌いな人間に「ヒトラーみたいだ」と安易にレッテルを貼るのはダメでしょ。

最近、立憲民主党最高顧問の菅直人元首相がツイッターで、日本維新の会をつくった橋下徹さんについて「ヒットラーを思い起こす」と投稿していま炎上中。

*全文は「主張は別として弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす」というもの。
もっと詳細な情報は菅氏のツイッターを。

この非常識な発言にフジテレビの『ライブニュースイット!』では、

「ナチスになぞらえるのは、どんな例えでも使ってはいけないものだと思う。国際的な視点、価値観を考えずに発言しているとしたら驚いてしまいますね」

とアナウンサーが振ると、元NHK解説委員で放送ジャーナリストの柳沢秀夫さんがこう切り捨てる。

「言い過ぎだ。思ったことを言っただけだと言いたいのかもしれませんけど、ほかの言い方、例えができる。なぜそれができなかったのか」
「立憲民主党の最高顧問ですから、国民の目にどう見えるのか考えてほしい」

橋下さんは「ヒトラー発言」は国際社会的には完全にアウトとしてこう言う。

「ヒトラーと重ね合わすというのを日本社会は平気でやるんですけど、日本の外に出たらとんでもないヘイト」
「人権人権言っている人が一番人権違反する典型例」

「ヒトラー発言」の代償は重い。
日本維新の会副代表の吉村洋文大阪府知事は、「とんでもない発言だ」と立憲民主党に公式に謝罪を要求した。
柳沢さんが指摘するように、菅氏がヒトラーを持ち出したことには「注目を集めるための表現」という意図もあっただろう。
にしても「ヒットラー」という昭和感。

 

ホロコーストの責任者であるアイヒマンはこう言った。

「ユダヤ人はドイツ国民の永遠の敵であり、殲滅(せんめつ)し尽くさねばならない。」
「今、われわれが、ユダヤ民族の生物学的基礎を破壊するのに成功しなければ、いつかユダヤ人がわがドイツ国民を抹殺するであろう。」

国際ホロコースト記念日:ナチスがユダヤ人絶滅を考えた理由

ナチスやヒトラーとは、こういう最悪の人種差別主義者で虐殺者のことを指す。
なのに全体の背景や文脈を無視して、ある言動を切り取って、まったく関係ない人間をナチスやヒトラーと結び付けて攻撃するやり方はフェアじゃない。
(この点は「スイス方式」の考え方がいい。)

議論で自分が不利な状況になったとき、まったく関係ないのに、ヒトラーやナチスを引き合いに出すことを「ゴドウィンの法則」(ゴドウィンのヒトラー類比の法則)という。
勝てない相手と議論をしている時に、発言の一部を誇張したり恣意的に解釈し、ヒトラー、ナチス、ファシズムの用語を持ち出す。
これは根拠もなく、相手に悪魔のレッテルを貼って攻撃するのと同じだから、相手をヒトラーに例えた時点でその人間の「負け」と見なされることがある。
「困った時のヒトラー」は禁じ手だ。

 

政権や政治家、社会的に影響力のある人を批判するのはいい。
でも、人類史に残る人種差別主義者で大虐殺を行ったナチスやヒトラーを持ち出すやり方に、日本人はもっと敏感になるべき。
欧米はこの基準が厳しくて、「弁舌の巧みさ」でヒトラー呼ばわりする人間がいたら、きっと逆にぶっ叩かれる。
このパワーワードが出てくると、話の具体的な中身がアイマイになって「とにかくコイツは悪いヤツなんだ」という印象に誘導されてしまう。
でも今回の騒動のようにヒトラーやナチスを政治的に利用したり、それで個人攻撃を行うやり方はもう日本でも通用しなくなりつつあると思う。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。