【アメリカのポリコレ】LGBTに配慮してマンホールも名称変更

 

マンホールという言葉は「man(人)」と「hole(穴)」でできている。

下水道に対して「汚い」や「臭う」といったネガティブな印象を一掃するために、日本ではマンホールのふたにオシャレなデザインやかわいいキャラクターなどを描くようになった。
これがいま外国人に大うけ。
そのことはこの記事をどうぞ。

汚いを“かわいい”に。外国人も魅了する日本のマンホールのふた

この発想が日本人の“らしさ”なら、アメリカのマンホールにもアメリカ人の“らしさ”があらわれている。

 

ローマにある「真実の口」

ウソつきがこの口に手を入れると、手が抜けなくなるという伝説がある。
この真実の口は古代ローマ時代のマンホールといわれる。

 

マンホールは先ほどのように「人・男性」と「穴」を組み合わせた語。

マンホールのふたを芸術作品にするのが日本の特徴なら、LGBTの人たちに配慮して、マンホールという言葉をなくしてしまうのがアメリカ社会。
*LGBTは、女性同性愛者(Lesbian)、男性同性愛者(Gay)、両性愛者(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)のこと。

AFPの記事(2019年7月19日)

「マンホール」とはもう言いません、ジェンダー配慮で用語変更 米バークレー市

世界中の人種や宗教の人たちが住むアメリカ社会は、人権問題や差別問題にはとても厳しい。

それでどんな立場の人も不快に感じないような表現、いわゆるポリティカル・コレクトネス(略してポリコレ)が求められるのだ。

性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用することを指す。

ポリティカル・コレクトネス

 

この考え方にしたがって、警察官(policeman)は男性だけではないから、police officerと呼ばれるようになる。
消防官(fireman)はfire fighter、写真家(cameraman)はPhotographer といった具合だ。

日本でもポリティカル・コレクトネスの考え方から、看護婦が看護士、保母が保育士になった。
でも、LGBTへの配慮から「学校の先生が児童生徒に『お母さん』と言うのは適切ではない」という空気はどうか?
そのことはこの記事をどうぞ。

日本のポリコレ②「お母さん」が”差別用語”になる時代

 

ここまで読んだら、アメリカのバークレー市でジェンダーに配慮して「マンホール」という言葉を変更する理由が見えてきたと思う。
マンホールの「マン(男性)」が問題視されたのだ。
それでこれからは性差による区別のない表現、「メンテナンスホール」になるという。

この意義についてバークレー市のロビンソン議員はこう話す。

「トランスジェンダー(性別越境者)や従来の性別の概念に当てはまらない人々に関する社会的な認識が広がってきて、男女どちらにも分類されないジェンダー(社会的性別)の人々を包摂する重要性が浮き彫りになった」

 

アメリカ社会ではこんなふうに、LGBTなど社会的少数の人に配慮して表現を変えることがよくある。
*こういう動きはアジアより欧米で多い。

そんなポリコレに厳しいアメリカにいると、アジア人も「意識高い系」になるらしい。
知り合いの黒人のアメリカ人がインド系やベトナム系のアメリカ人から、「オリエントという言葉は差別語だから使うな」と言われて驚いたという。
そのことはこの記事をどうぞ。

アメリカ社会と差別①「オリエント」の言葉に怒るアジア人

でもそのアメリカ人が日本でベトナム人やインド人にその話をすると、「オリエントという言葉を聞いても何とも思わない。なんでそれが差別語になるんだろう?」と首をひねる。
「氏より育ち」で、人間は生まれ持った血より、環境や教育のほうが大きな影響をあたえるのだろう。

 

あとで調べてみたら、マンホールが「メンテナンスホール」になったのはバークレー市が初めてではなかった。
同じカリフォルニア州のサクラメントでも、1990年以降に「メンテナンス・ホール (maintenance hole)」という言葉を使っている。
それとアメリカ全土で「メンテナンスホール」になるということではない。

 

 

外国人の価値観とタトゥー/アリアナグランデの「日本好き」

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3 件のコメント

  • この英語「man」に対する感覚は、我々日本人と、欧米人とではかなり異なるものなのでしょうね。
    日本人がmanあるいはhumanと言った場合に、性別までわざわざ思い浮かべることはほとんどないと思うのですが。あくまで「人間」「人類」ですよね。
    だけど欧米人は違うのかなぁ。「人間(男)」「人類(雄)」とでも頭に浮かんでいるのでしょうか。何しろ代表的な人称代名詞が「he」「she」の国ですものね。(ところでLGBTの人への人称代名詞はどうすればいいの?)
    昔に英語を習った時は、「Miss」と「Mrs.」と「Mis」の使い分けが面倒臭くて手を焼いたものですが。
    いっそのこと「he」も「she」もなくして、全部「it」にでもすりゃいいのに(Stephan Kingかよ)。あるいは「humanhole」にするとか(これじゃ同じか)、蓋の半分は「womanhole」にするとか(これはさすがにマズイか)。
    まったく、そういう面では愚かな言語であり、遅れた文化だと思う。まあしかしそれも伝統的な遊牧文化の影響ですよね、たぶん。
    余計な知識を学ぶ必要がない日本人に生まれてよかった。敬語の方がまだマシだ。

  • 単語の背景には歴史や伝統がありますから、違う社会に住む人間では正確にその言葉のニュアンスは理解するのは難しいです。
    日本に生まれたら日本語が楽ですけど、敬語や漢字などは外国人からしたら地獄のようですよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。