数年前、日本の会社で働くタイ人の知人がいて、彼が自転車に乗っていると「ハイ、ちょっとそこの人~」とよく警察官にとめられて職務質問をされると不満を言っていた。
そんな彼が「タイへ帰る前に、京都を旅行したいです」と言うから、彼の思い出づくりに協力しようと、他の外国人も誘って古都の神社仏閣めぐりをすることとなる。
今回はこのタイ人にフォーカスして書くのだけど、さて日本とタイの共通点といえば、いったい何があるだろう?
それは何と言っても皇室(王室)と仏教でしょ。
この2つは日本とタイ社会の土台となるもので、特にタイでは国王とブッダを崇拝する気持ちは日本人と比較できないほど深くて激しい。
タイでは不敬罪があるから王室批判をすると警察に捕まってしまうけど、いまの日本でそんなことはあり得ない。
日本とタイの公約数、仏教について簡単に確認しておくと高校世界史ではこうならう。
仏教
前5世紀頃シャカが説いた教え・宗教。
全てのものが無常であり、苦しみにあふれた現世から、極端に走らない中道を取りつつ、正しい認識と実践によって解脱することを目標とした。「世界史用語集 (山川出版)」
タイをはじめ東南アジアの仏教は上座部仏教で、日本・韓国・中国の大乗仏教とは違うけど、上の内容は共通している。
仏教の最終目標は悟りを開いて解脱することで、そのための方法が上座部と大乗仏教では違うだけなのだ。
タイの仏教寺院はド派手で、わび・さびを重んじる日本のお寺とは銀河系レベルで違う。
京都でタイ人を仁和寺に連れて行くと、彼はまずこの山門の大きさと迫力に度肝を抜かれ、「すごいです!こんな門はタイにはありませんよー」と声をあげて写真を撮りまくり。
中に入ってこの五重塔と対面すると、「これもタイにはないですね。日本らしい建物です」と感心。
五重塔の「五」にはそれぞれ意味があって、地(基礎)、水(塔身)、火(笠)、風(請花)、空(宝珠)の五要素で仏教的な宇宙観を表現している。
でも、仁和寺で最も重要な金堂には特に関心をしめさず、タイ人は記念写真を一枚だけ撮ってスルー。
彼と境内を歩いているときに、あることを思い出した。
「ちょっと前まで春になるとこのお寺の中で、すき焼きを出す店があったんです。でも仁和寺とトラブルになって、いまはないんですけどね。おいしいと評判だったのに残念です」と彼に話すと、「ええっ!」と驚がくしてこちらを向く。
「仏教では殺生は禁止されていますから、基本的に肉食は禁止されています。タイでは、信者がお坊さんに渡す食べ物に肉が含まれていたら、僧はそれを食べることができます。でも、お寺の中で肉料理を食べるというのは聞いたことないですね」とやや興奮して言う。
そうか、彼にとっては失われた味は問題じゃなかったか。
仁和寺にいたからふと思い出したから話しただけだけど、ここまで驚くとは思わなかった。
個人的にも友人の家がお寺をしていて、仏教僧の父親はクリスマスになるとフライドチキンを買ってきて、家族みんなで食べるという話を聞いたことがある。
日本仏教の自由度はすごく高いから、肉食ぐらいは特に問題なく、フライドチキンやから揚げを食べる肉食の仏教僧なんて全国にふつーにいるはず。
でもタイでは一般人なら食べるけど、仏教僧が肉を食べるのは超NG。
でも例外はあって、その生き物が殺されるところを自分は見ていない、自分に提供するために殺したと聞いていない、自分のために殺されたとは知らないといった、三種の浄肉ならタイのお坊さんでも食べられると思う。
日本ではよく職務質問されていたこのタイ人は、母国にいたころは出家してお坊さんになって、仏教について学んでいたからその方面の知識はかなりある。
そんな彼が来日してから、日本の仏教僧は肉を買って食べるし、飲酒も結婚もOKと聞いて心の底から驚き、堕落した日本のお坊さんをはじめは「本物」と認めなかった。
仏教では生き物の命を大事にしていて、タイのお寺ではあまったご飯を犬や猫に与えるから、寺の中にはよく野良犬や野良猫がたむろしていて、ときどき住民が噛まれることがあるという。
でも日本とちがって、仏教精神から野良犬や猫を殺処分することはなく、野放し状態にされている。
日本とはここが違う。
このタイ人は、日本のお坊さんが肉を食べるという話は聞いていたけど、お寺の中ですき焼きを食べるという事態は想像を超えていたらしい。
*でもさすがに仁和寺のお坊さんは食べなかったと思う。
このタイ人の話では、まえにタイで仏教徒とイスラーム教徒が対立したとき、お寺の敷地内に肉料理がぶちまかれる出来事があった。
犯人は見つからなかったけど、これは仏教へ挑発やヘイト行為。
タイ人仏教徒ならこの報いを想像するだけ恐ろしくなるから、みんなイスラーム教徒のしわざと考えたという。
世界遺産の由緒あるお寺ですき焼きを食するというのは、日本人にとっては花見シーズンのお楽しみだったけど、タイ人ならきっとあきれ返って絶句する。
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