インド「カースト差別」をなくす方法・新しい事件

 

はじめの一言

「私が非常に素晴らしいと思うのは、日本が、最も近代的な面もおいても、最も遠い過去との絆を持続し続けていることができるということです」

(レヴィ・ストロース)

 

IMGP9210

 

今回の内容

・ダリットへの「優遇政策」
・新しい事件(問題)

 

・ダリットへの「優遇政策」

前の記事で書いたように、インド憲法では、「カーストによる差別」を禁止している。
ガンディーもカーストによる差別には反対したらしい。

この差別の対象となったのは、おもに「ダリット」と呼ばれる人たちだ。
このダリットたちの仕事はすでに決められていた。

皮革のなめしや染色、ゴミや屎尿の処理、ネズミ取り、死体処理、火葬などといった(ほとんどが世襲の)職業ゆえに「不浄」とみなされている

(インド入門 マノイ・ジョージ)」

 

ダリットの人たちは「不浄」とみなされる仕事をしてきたことから、カースト上位の人たちからは嫌われることになる。

「こうした人のふれたものは、他のひとびとにとっては穢れとなると信じられている

(インド入門 マノイ・ジョージ)」

 

2002年に発行されたこの本によると、こうしたダリット(不可触民)と呼ばれる人たちはヒンドゥー教徒の約15%いるという。

現在のインドの人口が約13億人だ。
この15%をそのままこの数に当てはめたら、現在のインドでダリットの人たちは、およそ2億人いることになる。

 

 

インドの憲法では差別を禁止した。

でも禁止さえすれば、それで問題が解決するわけではない。
それまで差別されていたダリットの人たちの多くは、貧困状態にある。
進学したり就職したりすることは、他の上位カーストの人たちと比べると明らかに不利であった。

そうした問題を解決するために、インド政府はダリットたちを次のように「優遇」している。
下の文で出てくる「ジャーティ」というのは、先ほどの「皮革のなめしや染色、ゴミや屎尿の処理、ネズミ取り、死体処理、火葬」といった職業と考えてくれたらいい。

不可触民に対する差別は一九〇五年に施行された憲法で禁じられた。現在では、インドはそうしたジャーティのひとびとを高等教育機関に入学させて、政府の職をあたえ、議会に議員として送り込む大規模な強制的優先割当システムを採用している。

(インド入門 マノイ・ジョージ)

 

大ざっぱに言ってしまえば、ダリットたちには「ダリット枠」のようなものがあるということ。
だから、一定の人数のダリットが優先的に進学や就職ができる。

この枠が何%かは分からないけれど、仮に20%としたら、100人の合格者のうち20人は必ずダリットでなければいけないということになる。
他のカーストの人は、もちろんこの枠に入ることはできない。

 

こうした優遇システムがあっても、現実には多くのダリットはあいかわらず苦しい生活をおくっている。

しかし、多くのダリットが依然として先祖と同じ苦しみを味わっている(他のカーストとダリットの結婚もまずありえない)」

(ビジネスマンのためのインド入門 マノイ・ジョージ)

 

さらにダリットへの優遇制度があることで、別の問題が生まれてしまう。
今度はダリット以外のカーストで、「自分たちもダリットの枠に入ることができるようにしてほしい」という人たちが出てくるようになる。

 

 

・新しい問題

だれだってい良い仕事がほしい。

低カーストの人たちにしてみれば、自分たちにもダリットと同じような「採用枠」をつくってほしいと考えることは当然だろう。

「自分たちも優先的に進学や就職をさせてほしい」という人たちが現れるようになる。

今年(2016年)の2月、首都ニューデリーでこうした人たちによる大規模な暴動が起きた。

以下は「Bloombergの記事(2016年2月22日)」の引用になる。

ニューデリー近郊のハリヤナ州で18日から「ジャート」と呼ばれるカースト集団(インドの複数の州に住む民族集団)が、公務員採用や大学入試などでの優先枠の割り当てを求めるデモを開始した。 朝日新聞によると、「ジャート」は、「被差別カーストに対して与えられる優先枠の割り当てを求め、道路や線路を封鎖した」という。

軍によると、ニューデリーの西約50キロのジャッジャルで20日に部隊が暴徒に発砲し、民間人1人が死亡。インドのPTI通信は州当局者を引用して、少なくとも12人が死亡し、150人が負傷したと伝えている。

暴動を起こしたのはハリヤナ州の人口の30%近くを占める「ジャット」と呼ばれるカースト集団で、インド版アファーマティブ・アクションの下で低カースト層に与えられる公務員への採用や大学の入学資格といった優遇措置の適用を求めている。

 

詳しくはこの記事を↓

「インド北部で「カースト」めぐる暴動-マルチ・スズキは一部工場閉鎖」

 

かつては「触ると穢(けが)れる」と差別されていたダリットの人たちが、進学や就職で有利になると、今度は差別をしていた側の人たちが「ダリットと同じ社会的地位になりたい」と暴動を起こす。

こういうことは、日本にいるボクにしたらワケが分からない。
でもインドを治めるということは、日本を収めることとはまったく別のむずかしさがあることは分かる。

 

コメントを残す

ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。