外国人から見た、日本の職人と職人技・「職人町」も

 

はじめの一言

日本人の天才的資質は、小さな物において完全の域に達する。茶碗、御分、湯わかしをも美術品に作りあげる方法、(中略)一瞬の間に浮かんでは消える思想を表現する方法―これらを日本人の半分もよく知っている国民はいない

「チェンバレン 明治時代」

 

最初に豆知識を一つ。
江戸時代には「職人町」というものがあった。

職人町

町人地のうち、職人の集まり住む地域をいう。業種によって紺屋町・鍛冶町・大工町などと呼ばれた。

(日本史用語集 山川出版)

 

浜松市には、今でも紺屋(こうや)町や鍛冶(かじ)町という地名は残っている。
日本の全国でも、こうした職人にちなむ地名がたくさんあるはず。

 

さて、前回、戦国時代に日本に連れて来られた「姜沆(きょうこう)」という朝鮮人が、日本での職人に対する見方をこう述べたと書いた。

あらゆる事がらや技術について、必ずある人を表立てて天下一とします

「看羊録―朝鮮儒者の日本抑留記  (東洋文庫)」

 

朝鮮では、「木を縛り、壁を塗り、屋根をふくなどという」ということは「つまらない技」とされていた。
でも日本では、こうしたものでさえ、卓越した技術があれば「天下一」として尊敬されることに姜沆は驚いている。

 

戦国時代の日本には、優れた才能を尊重する風土があった。

でも戦国時代の日本人にとっては、優れた職人には「天下一」と敬意をしめすことは、当たり前のことでそれが「日本の特徴」だとは気がつかなかっただろう。

 

「職人とは、日本の社会ではどんな存在か?」ということは、日本人だと逆に分かりづらい。
姜沆(きょうこう)の視点のように、外国人の感想を知ることで「日本では、他国に比べて職人は尊敬されているんだ」といったことが分かる。

 

 

ということで、今回はヨーロッパ人やアメリカ人の目から見た日本の職人の姿を紹介したい。
戦国時代の宣教師の記録では見つからなかったから、幕末・明治時代が中心となる。

美術の方面、たとえば青銅の作品、陶磁器製造法、園芸などにおいて日本人をしのぐ他の国民はいない。

(ヘボン 幕末)

日本ほど道具類が高価でまた多種多様な国民はどこにも見当たらない。道具類は、この国では、それぞれの職人によって別々に製作される。日本国民以上に諸道具に対して大きな価値を認めている国民はどこにもない。

(フィッセル 幕末)

鋼鉄すなわち鉄製品だけではなく、木製品でさえもやはり同じように清潔に手入れをしてある。日本の職人たちは、全般的に見て、長い人は、毎日一時間余りを自分の道具の手入れのために費やしていると言っても差支えない

(フィッセル 幕末)

人間のさまざまな必要をみたすために、あらゆるところに竹を利用することは、日本人の発明工夫の才のすばらしい成功例です。(中略)水稲や、水盤、箱、湯呑みなども、節ごとに、しっかりしたしきりをもる種類の竹から、そのしきりと節間を活用してつくられます

(フレイザー 明治時代)

着色法、彫刻技術、青銅の象眼細工術に関して、日本人は他に追随を許しません。しかし、この偉大な日本金属工芸研究のために、民族美術研究家は個人コレクションや目利きの骨董商の宝を訪ね歩かなくてはなりません。

(シドモア 明治時代)

日本の職人は、本能的に美意識を強く持っているので、金銭的に儲かろうが関係なく、彼らの手から作り出されるものはみな美しいのです。自分の手仕事が認められなくても、美しく作らざるをえないのです。

(アリス 明治時代)

日本人は美しくきらびやかな絹織物を作り、これを用いる。模様も多彩で、金糸、銀糸を用いて織り上げた錦は、イタリアの最良の品に勝るとも劣らない

(アルミニヨン 幕末)

精巧で芸術的な多くの作品がある。が、日本人にとってはあくまでも、日用品にすぎない。

(テオドール・デュレ)

日本の生け花、お茶、庭、盆栽などについて、そのベースが中国にあったにせよ、(中略)それらの文化は、日本の土壌のなかで高度につきつめられ、もはやコピーを脱した独自の輝きをもって自立していることを、誰もが認めるしかないからである。

(呉善花 平成)

 

実は、「日本の美術品や工芸品は、わが国のものには及ばない」という感想も少しぐらいは入れようと思っていた。

けど、そんな感想がまったく見つからなかった。

 

引用は、以下から。

「日本絶賛語録 小学館」
「逝きし世の面影 平凡社」
「イタリア使節の幕末見聞録 講談社学術文庫」
「シドモア日本紀行 講談社学術文庫」
「ワサビの日本人と唐辛子の韓国人 呉善花」

 

おまけ

2016年10月の「サーチナ」の記事で、日本のランドセルが職人の「匠の精神」によってつくられていることを紹介していた。

それを紹介したい。

日本の「ランドセルの制作現場」を見よ、「これが匠の精神だ」=中国メディア

ランドセル職人たちの真剣な眼差しからは「良いランドセルを作る」うえで一切妥協しない姿勢が伝わってくるが、記事はこうした姿勢を「匠の精神」であると表現しているようだ。

こんな職人たちの匠の精神に対して、中国のネットでは「これだけ真面目な仕事ぶりを見ると、日本人に好感を抱かざるを得ない」、「日本人の匠の精神は尊敬せざるを得ない」といったコメントが寄せられたとか。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。