国境なら分かるとしても、国教となると「?」となる人も多いのでは。
これが理解できると、ニュースの内容が頭に入りやすくなるとか良いことしかないから、今回は「国教とは何か?」ってことを説明していこう。
まず、日本には国教というものがなく、憲法ではすべての宗教が平等とされている。さらに、政治と宗教はまったく関係なく、政治に宗教を持ちこむことは憲法違反になる。
それで、首相が靖国神社を参拝すると、「これは憲法で定めた政教分離に違反しているのではないか?」と問題視する人もいる。
もし、神道が日本の国教だったら、政教分離ではなくて政教一体になる。そうなったら、首相の靖国参拝はきっと問題にはならない。
インドの西に、面積は日本の約2倍、人口は約1.6倍のパキスタンという国がある。
パキスタンと日本のもっとも大きな違いは、「パキスタンはイスラム教の影響がとても強い国」ということだろう。
パキスタンの首都は「イスラマバード」で、これは「イスラムの都市」という意味になる。
パキスタンでは国家としてイスラーム教を保護し、国民に対して「イスラム教を正しく信じなさい」と勧めているから、イスラム教が国教となっている。
日本の首都は「東の京」という意味で、宗教性はない。
パキスタンはイスラム教を国教とし、その価値観や考え方を最優先しているから、パキスタンの憲法や法律はイスラーム教の教え(クルアーン)と絶対に矛盾しない。
パキスタンの宿
スタッフの後ろにあるのはイスラーム教の聖典クルアーン(英語読み:コーラン)にある言葉。
日本の最高法規は日本国憲法だけど、パキスタンの最高法規は聖典クルアーンだ。
日本は日本国憲法の”下”にあり、日本には憲法を超える存在はない。一般国民も天皇も、憲法を守らなければいけない。
日本の法律も憲法の下にあるから、法律の内容が憲法と矛盾してはいけない。
「その法律は憲法と合ってないんじゃない?」という場合は、裁判所がチェックすることになっていて、それを違憲立法審査権という。
パキスタンの場合イスラーム教が国教だから、憲法も法律もクルアーンの”下”にある。だから、憲法も法律もクルアーンの内容に沿ったものになる。
たとえば、日本の法律では妻は1人しか認められていないが、イスラムの教えでは4人までもつことが認められている。
この場合、日本の法律はイスラーム教の教えと矛盾していることになる。
パキスタンではそれがなく、イスラム教で「妻は4人まで迎えることができる」となっていたら、それに合った法律ができるのだ。だから、法的で4人まで妻をもつことができる。
イスラム教を国教としているパキスタンではOKでも、日本では法律違反になる。
日本人の常識や価値観からすると、複数の妻がいることは一般的には認められないけれど、例外もある。
ある日本人女性が日本でパキスタン人の男性と知り合い、交際している時に「実は母国に妻がいるんだ」と言われた。それでも付き合いを続け、パキスタンで結婚したという。パキスタンではそれが合法で、その日本人女性は「第二夫人」 になった。
日本ではあり得ない。
トルコでは、国民の98%以上がイスラム教徒でその影響はとても強い。しかし、トルコではイスラム教が国教にはなっていない。だから、イスラムの教えでは4人の女性と結婚できるが、トルコの法律はそれを認めていない。一夫多妻を禁止している。クルアーンより憲法が上位にあるから、こうなっている。
そんなトルコも、昔はイスラム教を国教にしていた。
それを変えたのは、「トルコ建国の父」と呼ばれるケマル・アタテュルクという人。
ケマル・アタチュルク
アタチュルクが1923年にトルコ革命をおこなったときに、「政治に宗教を持ちこませない!」と政教分離をおこなった。
外務省のホームページから。
アタテュルクは、宗教と政治を分離しなければトルコの発展はないと考え、憲法からイスラム教を国教とする条文を削除し、トルコ語にはアラビア文字に替わって、アルファベットを当てました
トルコが近代国家になったのは、政教分離をしたことがもっとも大きな理由だろう。
ボクがトルコを旅行していたときは、着ている服や文字などを見て、イスラーム教の国というよりヨーロッパに近いと思った。
ケマル・アタチュルクが政教分離でイスラーム教と政治を分けていなかったら、トルコは今のような発展した国にはなっていなかったはず。
しかし、現在のトルコでは一部から、「エルドアン大統領は政教分離という、トルコの国としての原則を破ろうとしているのではないか?」と見られている。エルドアン大統領がトルコの「国是」としている世俗主義を壊していると反発した人たちによって、2016年に「トルコクーデター未遂事件」が発生した。
政治と宗教を分離することで、世俗主義が成り立っている。特定の宗教を国教に指定していないトルコのでは、政教分離の原則を守ることが重視されている。
以下、世界各国の国教を一覧にしよう。
キリスト教
・ローマ・カトリック – バチカン、アルゼンチン、コスタリカ、マルタ、スペイン
・正教会 – ギリシャ(ギリシャ正教会)、フィンランド(フィンランド正教会)、キプロス(キプロス正教会)
・イングランド国教会 – イングランド
ルター派 – アイスランド、デンマーク、フィンランド(スウェーデンは2000年まで、ノルウェーは2012年まで)
長老派 – スコットランド
イスラム教
・イスラム国家で宗派指定なし – ジブチ、イラク、チュニジア(以上アラブ連盟加盟国)、バングラデシュ、パキスタン
・スンニ派 – アルジェリア、コモロ、エジプト、ヨルダン、リビア、モーリタニア、モロッコ、カタール、ソマリア、アラブ首長国連邦(以上アラブ連盟加盟国)、アフガニスタン、ブルネイ、モルディブ、マレーシア
・ワッハーブ派 – サウジアラビア(アラブ連盟加盟国)
・シーア派 – イラン
・イバード派 – オマーン(アラブ連盟加盟国)
・スンニ派およびシーア派 – クウェート、イエメン、バーレーン(以上アラブ連盟加盟国)
仏教
・スリランカ – 1978年の憲法で指定。
・大乗仏教 – ブータン
・上座部仏教 – カンボジア
おまけ
イエメンの首都サヌアの様子
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