インドで平和を考えた⑨ 「核は絶対ダメです、すぐにでもなくべきです VS 世界の現実(壁)」

 

日本が世界に誇ることができるものは、何だろう?

「世界で一番古い国」とギネスで認定されている(神話の時代も含めれば)ことかもしれないし、戦後の焼け野原から出発して世界第二位の経済大国になったことかもしれない。

 

東南アジアや中東では、現地からは日本は「金持ちの国」と思われていて、「オレも日本人みたいに、気軽に海外旅行にしてみたいよ」と宿のスタッフから言われたこともあれば、こちらは大学生なのに、「日本で働きたいから、身元保証人になってほしい」と真顔で頼まれたこともある。

 

マルコ・ポーロの言う「黄金の国・ジパング(日本)」のイメージは、今でも南半球の世界ではある。

しかし、日本が「お金持ちの国」になるためには、水俣病といった公害問題引き起こしたことを始め、他にも負の側面がある。手放しで称賛できない負の部分がある。

 

そう考えたとき、「日本の平和」はどうだろう?
日本は戦後70年にわたり、争いを起こさず、被害者にも加害者にもならず、平和を維持してきたという事実だ。

これなら、大きな負の側面が見当たらない。

 

海外に旅に出る前や旅に出るようになったころ、ボクが「日本が世界に誇ることができるもの」として、自信をもって言うことができたのは、「日本の平和と安全」だった。

広く世界を見れば、現在ではシリアが内戦中だが、これまでも、世界の各地で戦争や争いが絶えず繰り返されてきた。

大規模な武力衝突とまではいかなくても、「微笑みの国」と呼ばれるタイでも、武力衝突はある。
ボクがタイから帰国した後に、カンボジアとの国境近くで互いの軍の間で、死傷者を出す戦闘があった。

 

日本は、戦後、そうした死者を出すような戦争や衝突を一度も起こすことなく、核兵器も徴兵制度なく、平和を維持することができた。

世界史では、「ローマの平和(パックス=ロマーナ)」という言葉がある。

 

「アウグウストゥスから五賢帝時代までの約200年におよぶローマ帝国の最盛期。各地にローマ風都市が建設され、経済は活性化し、ラテン語が普及した(世界史用語集)」

 

ここまではいかなくもて、日本の平和は、世界に誇っていいものではないか。
そして、日本の平和や安全を支えてきたものは、憲法の前文や9条にある平和の精神や非核三原則だろう。

こうしたことを考えると、「日本が世界に誇ることができることは?」の質問の答えとして、「平和と安全」が最適なものであるように見える。

いっそのこと、日本は「平和の先進国」とさえ言ってもいいのではないか?

と、旅に出たころは、そんなことを考えていた。

 

しかし、世界を歩いて、実際にいろいろなことを見たり聞いたりして、「現実」を知ると、その自信がゆらいでくる。

 

核兵器については、「核兵器こそ平和の最大の敵だから、すぐに地球上からなくすべきだ。できれば核だけではなく、すべての兵器がこの世からなくなればいい」

と考えていたが、前回の記事でも書いたけれど、世界の国は必ずしもそうは考えてはなく、むしろ核をもつ国は増えている。

「核兵器は平和の敵だ。すぐにでもなくすべきだ」という考えは、日本では広く支持されるものだろうと思うが、他の国の人に聞くとそうでもない。

 

「それは、現実離れした理想論だ」「核兵器をもつことは、平和と安全に役立っている」「核兵器のことは関心がない」といったボクの考えとは違う声をたくさん聞くと、「これが現実の世界か」とたじろいでしまう。

しかしこれも、ボクが無意識に「日本の常識」をそのまま他国に当てはめようとしていたことから起きたものだろう。

 

その国が置かれている状況を考え、相手の立場に立って考えてみると、自分が「いけない」と思っていたことでも、相手にはそれが必要で、正しいことでもある場合がある。

 

「核兵器は、平和の敵だ。すぐにでもなくすべきだ」ということが、一番正しい考えだとボクは思っていたけれど、国によっては必ずしもそうではない。

「日本の常識」が「世界に通じる常識」だと思ってしまうと、こんなことになる。

 

さらに、いろいろと調べていくと、日本も国としては、「核兵器をすぐになくすべきだ」とは、考えてはいないらしい。
むしろ、前に出てきたインド人の「核兵器は、いつかはなくなればいいけど、今は必要だ」という考えに近い認識を外務省はしている。

 

具体的には、次の記事で述べることにする。

この外務省の考えを知ったときは、カエサルが仲間のブルータスに裏切られて殺されるときに言ったとされる「ブルータス、おまえもか」という言葉を思い出した。

 

「外務省よ、おまえもか」という思いだ。

 

ちなみに、カエサルとは、世界史に出てくる超重要人物で、世界の常識にもなっているので、絶対に覚えておいた方がいい。

英語では、「ジュリアス・シーザー」と呼ばれる。

 

Julius_Caesar_Coustou_Louvre_MR1798

カエサル(ウィキペディア)

英語の「July(7月)」は、このジュリアス・シーザーが7月に死んだことに由来する。

「紀元前44年から、7月はユリウス・カエサルの名にちなんでJulius(Iulius)と呼ぶようになった(ウィキペディア)

 

また、「emperor(エンペラー:皇帝)」の語源も、このカエサルと関係している。欧米人が「皇帝」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、このユリウス・カエサルだろう。

 

「カエサル」

「前100~前44 平民派の政治家・軍人。第1回三頭政治を結成してコンスルとなり、様々な改革をおこなった。ガリア遠征に成功して権力基盤を固めた後、ポンペイウスを打倒。前44年終身ディクタトルとなって独裁権を握った。カルタゴなどへの植民、ユリウス暦の採用など諸改革を実施したが、ブルートゥスらの共和主義者に暗殺された(世界史用語集)」

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。