10年ほど前、中国を旅行していたとき、杭州で日本語ガイドのお世話になった。
そのガイドは鼻毛の飛び出た40代のおっさんで、こんな質問をしてくる。
「日本の元号を決めるときのルールを知ってますか?」
元号のルール?
まあ、少しは知ってますよ。
でもそれを書く前に、改めて元号というものを確認しておこう。
年号でもいいけど、正式には元号という。
高校の日本史ではこう習う。
年号
中国の前漢時代に始まる。日本では大化を最初とするが、実際に使われたのは大宝元(701)年以降であるとされる。
即位・瑞祥・災異などで改元された。私年号を除けば、平成までに248の年号が使用された。「日本史用語集 (山川出版)」
前漢はおよそ紀元前202~後8年で、そのとき日本は弥生時代でまだ文字もなかった。
元号はそんなときに生まれたのだ。
日本の元号は漢字2文字で、そのときの日本の理想にふさわしいものが選ばれることになっている。
でも、漢字2文字なら何でもいいというわけじゃない。
いまの「平成」と同じく、国民が日常的に書くものだから、読みやすくて書きやすいものでないといけない。
「薔薇」とか「 霹靂(へきれき)」みたいな漢字だったら、大変なことになる。
国民が元号不要論に傾いてしまうかもしれない。
元号制定のルールについては、このへんのことなら知っていた。
でも、このとき中国人ガイドから聞いて初めて知ったことがある。
「日本の元号は中国の古典から選ばれるんですよ」
彼はキメ顔でそう言った。
調べてみると、ガイドの言うとおり。
いまの「平成」も中国の古典から採用されていた。
史記の「内平外成(内平かに外成る)」と書経の「地平天成(地平かに天成る)」という言葉からできていて、平成とは「国の内外、天地とも平和が達成される」という意味になる。
「日本人にとって重要な元号は、中国の古典から選ばれる」ということは、中国人の彼にとっては誇らしく、気分のいいことらしい。
それで少しドヤ顔をしていた。
誇らしいのはいいけど、鼻毛が出ていて気になった。
隋や唐などの古代中国は超大国で、日本にとっては先生のような国だった。
それは間違いない。
でも生徒である日本は、中国のマネをしていただけでもない。
そもそも日本人と中国人とでは、価値観も考え方も生活もちがう。
だから中国から取り入れたものを、日本人に合うように変えていく必要が生まれた。
そうやって、日本人は独自のものを生み出していく。
外国のものを日本風に変えていく、というのは日本文化の大きな特徴だ。
歴史学者の津田 左右吉(つだ そうきち:明治6年 ー 昭和36年)は、その例として、日本人が漢字から仮名を考案したことをあげている。
カナ文字を作ったことは、日本民族がシナからとり入れたものを材料として、日本人の生活を発展させるに必要な、そうしてもとの材料とは全く違ったものを新に作り出した一つの例である
「日本歴史の特性 (津田 左右吉)」
*いまの時代に「シナ(中国)」という表現は不適切だけど、これは古い本だから見逃してほしい。
古代中国から輸入した元号も同じ。
中国の古典はあくまでも材料。
その材料の中から、日本人が自分たちに合った言葉を選んで、元号をつくり出している。
でも、中国の古典から文字が採用されていることは事実だから、それで自尊心をくすぐられる中国人がいるかもしれない。
でも、そんな中国人にはがっかりなニュースがある。
いまの元号・平成はもうすぐ終わりで、来年には新しい元号が発表される。
共同通信社の記事(2018/8/19)によると、元号制定のルールが変わったらしい。
新元号は日本の古典から選ばれる可能性が出てきた。
政府が来年5月1日の新天皇即位に伴う改元を巡り、中国の古典(漢籍)から採用することが慣例となっている元号の出典に関し、日本の古典も選択肢に入れて検討していることが分かった。
「新元号、日本古典も選択肢」
日本古典の具体例には、古事記や日本書紀なんかが候補にあがっているらしい。
だから来年の元号はこれまでより”脱・中国化”が進み、より日本的なものになるかもしれない。
でも、もともと日本はそんな国で、いろいろなものを日本風に変えてしまう。
このニュースにネットの反応は?
・いままで中国古典だったんだwwwwwwwwwwwwwwww
・キラキラ元号とか胸熱
・星美と書いてスターと読むとかそういう?
・源氏物語の巻名を順番につけていけば、かなり先まで捗るな
・「旭日」がいい。
・きくところによれば,「西暦」になるそうだ。
・皇紀にすれば何の問題も無いのにな
・訓読みの元号なら斬新だね
・天地(あめつち)とか?
・次の元号は天照
・天照元年とか厨二心がくすぐられるな
・変な元号は嫌だけど、元号ばかり良くて名前負けになったりしても困るな
・ならもう、ひらがなでいいんじゃないかな
新しい元号がどんなものになるかは分からないけど、日本の古典から選ばれるとなると、今までにない和風の元号になる。
杭州の中国人ガイドはがっかりするかもしれないけど、そんなことは知ったっちゃない。
それより彼は早く鼻毛を切ったほうがいい。
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