世間を怒らせたCM表現:放送中止/変更でみる日本人の価値観

 

「附子」は「ぶす」と読む。
これはトリカブトの毒(根っこを乾燥させたもの)のこと。
間違ってこれを口に入れると、神経に障害が起きて顔が無表情になってしまう。
附子によって表情がおかしくなることから、いまの日本で使われる「ブス」の意味になったという。

この「ブス」という言葉がいま、世間の関心を集めている。

朝日新聞の記事(12/21)

「ちょうどいいブス」に批判 放送予定ドラマの題名変更

 

読売テレビが来年1月から、連続ドラマ「ちょうどいいブスのススメ」を放送すると発表。
するとすぐに、「ブス」表現をめぐって賛否が分かれた。

テレビ局の放送コードで「ブス」はOKなのだけど、視聴者の価値基準ではどうか?

「適切/ふざけんな」の判断は個人の主観によるから、人によって判断は違うのだけど、結局は「ふざけんな」という人たちの勝利。
テレビ局側は、タイトルを「人生が楽しくなる幸せの法則」に変更すると発表した。

「ちょうどいいブスのススメ」に比べると、インパクトが弱くて印象に残らない。
でも、これだけ世間の関心を集められたのだから、宣伝としては大成功なのでは?
ひょっとしたら、これがねらいだったりして。

 

ヤフコメでは「適切派」が多い。
世間とはどこにあるのか?

 

普通の表現じゃつまらないし、聞いた人の頭には何も引っかからない。
視聴者や消費者の記憶に残らなかったら、時間とお金をかけて宣伝する意味がない。
でも、インパクトをねらい過ぎると反発をくらう。
だから言葉を考える側は、世間の「ちょうどいい」以上の「ギリギリOK」というラインを見極める必要がある。

でもこれはとても難しい。
世間の価値観・考え方・見方なんて、時代やそのときの状況によって変わるから。

ということで今回は、過去に日本のテレビで流されたCMで、世間からアウトの判定を受けたものを紹介しようと思う。
日本人の価値基準の変化が見えてくると思うから。

 

まずは1991年の「チョコラBBドリンク」のCM。
こCMのなかで、桃井かおりさんがこんなセリフを言っていた。

「世の中、バカが多くて疲れません?」

この「バカ」に批判が殺到。
それでこう変わった。

「世の中、お利口が多くて疲れません?」

今回の「ブス」騒動と背景がよく似ている。
ただ訂正後の「お利口」というのは、「バカ」を批判した人たちをやゆしているような気もする。

 

1996年には日産「スカイライン」のCMが問題になった。
「男だったら、乗ってみな」という牧瀬里穂さんのセリフが「男女差別になる」ということで日産にクレームが付く。で、セリフはこう変更された。
「キメたかったら、乗ってみな」

 

最後は、けっこう有名でボクの記憶にもあるもの。
コカ・コーラの「からだ巡り茶」のCMだ。

「からだの巡りに気をつかうことで、体の中からキレイを目指す」というコンセプトで誕生した飲み物で、その考え方はいい。
世間の批判を受けたのは、CMのなかで広末涼子さんが言ったこのセリフ。

「ブラジャーが透けるほど汗をかいた」

ボクもこのCMを見て“衝撃”を受けたから、この言葉はよくおぼえている。
いまだったら、CMの企画段階でストップがかかるはず。
消費者からの苦情を受けて、セリフは「こんなに汗をかいた」に変更。
「こんなに」と「ブラジャーが透けるほど」ではインパクトに天地の差があるけど、これはねらい過ぎて失敗した例だ。

インパクトがあるけど常識の範囲内という「ギリOK」の表現は本当にむずかしい。

ちなみに「からだ巡り茶」では、「広末涼子、浄化計画」というキャッチコピーも問題になってて変更されている。
この八文字のどこがいけないのか?

この表現は薬事法に抵触する恐れがある、と東京都から指摘を受けてキャッチコピーは「気分浄々」に変わった。
でもやっぱりこれだと、インパクトに欠けて記憶には残りにくい。

 

ある表現を公共の電波に乗せるには、世間というフィルターを通さないといけない。
前後の状況やCM・ドラマの内容にもよるけど、「ブス・バカ・男だったら・ブラジャーが」という言葉は、テレビやラジオではもう簡単には言えない時代だ。
クレームがついて放送中止や変更になっては大変だから、制作側は、世間の常識や良識の範囲で攻めていかないといけない。
でも、それだと印象的な言葉やシーンがつくりにくくなる。
誰からも文句を言われないものは、結局誰の印象にも残らなくなってしまう。

 

ユーチューバー動画に人気が集まる理由がコレだ。
お利口さんの動画より、バカがつくった動画のほうがインパクトがあって面白い。
でも、過激さや注目をあびることしか考えないと、ローガンポールのような世界レベルのユーチューバカが生まれてしまう。

2017年12月末に日本の青木ヶ原で撮影した死体の動画に非難が集中(後述)し、広告ラインアップ Google Preferredから除名された。

ローガン・ポール

 

おまけ

1995年の夏にサントリーBOSSが流したCMが、批判を受けて放送中止になってしまった。
問題となった矢沢永吉さんのセリフがこれ。

「夏だからってどこか行くのやめません?」

この言葉に旅館経営者などが怒る。
「レジャー気分に水をさす」とクレームがついて、CMは放送中止に追い込まれた。
世間はホントにおそろしい。
ユーチューバーが強いわけだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。