旅で人は変わらない。自分は自分で変える。③「旅がくれるもの」

 

始めのことば

「そういう危ない間をだんだん登って行く間に雪に映ずる日光の反射のために眼を打たれて、その痛さが甚だしいのみならずいかにも空気の稀薄なるために呼吸をすることが困難で、胸板を圧迫されて居るのかあるいは胸隔が突き出るのか訳が分らぬが今思い出してもぞっとする位苦しかった。(チベット旅行記一 川口慧海)」

ボクが最も尊敬する「バックパッカー」川口慧海

 

「今の自分や生活を変えたい!」という強い気持ちも、始めは、小さな好奇心から生まれるように思う。

いつもと同じ生活をくり返していては、自分を変えるどころか、「変えよう」「やろう」といった気持ちを維持することさえ難しくなる。 だから、何かを変えようと思ったら、今まではまったく違う環境に自分投げ入れようとする考え方は、ごくごく自然で当然。
 

 

新しい環境にいれば、自分をその環境に合わせるしかなくなる。 海外に行けば、言葉ができなくても、何とかしなければ、ホテルに泊まれないし、別の都市に移動することもできない。 自分が今まで培ったすべての力を使って、いろいろな問題解決に当たらないといけない。

自分を変えたかったら、変わらざるを得ない状況に自分を投げ入れることがいい。 「話しかけるのがイヤだな」「やりたくないな」と思っても、それではすまされない状況に身をおいて、今までだったら、やらなかったことやできなかったことを少しずつやるようにしていく。

 

一人で外国を旅すれば、当然、いろいろなトラブルに遭うしそれを自分で解決しなくてはいけなくなる。 ここで、「旅」という漢字の意味を思い出してほしい。 「旅」とは、まさに戦いなのだ。

 


 

普通であれば、「旅で何を得られたか」「どう変わったか」ということを他人に説明する必要はない。  けれど、就職活動をしているときに、旅の経験を自分の「売り」にするのなら、言葉で表現しないといけなくなる。

 

ボクが大学生のとき、この必要に迫られて困った。 旅で得たことを、言葉じゃうまく言えない。  「トーイックが300点から500点になりました」「~の資格を取りました」というように、具体的に言うことができない。

 

結局、そのときは「総合的な人間力」という抽象的な表現をつかって自分をアピールすることになった。 この言葉を使いながらも、「本当にあいまいな表現だなあ」とは思っていた。

 

 

よくよく考えてみると、旅の経験で自分の問題解決能力が上がったような気はしたけれど、それは大したものでもなかったのかもしれない。 「自分は、案外、変わっていないぞ」ということに気づいてきた。 実際、旅の前後で日本での生活に特に変化があったわけでもなかったし。

 

でも、前にも書いたのだけれど、ボクの場合、「旅の効果」は薬のようにすぐには現れなかった。
でも、旅で得た刺激をもとに行動していくことで、 少しずつ自分や生活が変わっていった。
海外一人旅をすれば、さっき書いたように、ホテルやレストランで、嫌でも外国人と話をしないといけなくなる。

 

自分の場合、旅に出る前は、外国人に英語で話しかけることなんか、高すぎて飛ぶ気も起らなかった。
でも、外国に行ったら、やるしかない。
でも、話しかけてみると、案外英語で話が通じるし、面白い。
これを、日本でもやってみた。
日本でも、国際交流パーティーなんかで、とりあえず、外国人に話しかけてみる。
こんな感じで、いろんな外国人と付き合うようになっていって、生活が変わったり、新しい考え方なんかを知ることができた。

 

自分の経験から言わせてもらうと、2か月ほど外国を旅したくらいでは自分は変わらない。
ボクは、バックパッカー歴20年以上で、人並み以上に旅好きだと自覚しているけれど、旅には限界があると思う。
ボクは旅というものに期待をかけ過ぎていたから、この思いが強いのかもしれない。

 

幕末の長州藩の志士、高杉晋作の有名な辞世の句がある。

「おもしろい ことのない世を おもしろく」

この後半は、自分で自由に続ければいい。
ボクの場合は、「するのは、すべて、自分次第なり」かな。

 

旅でいろんなことに驚いたり感動したりして、良い思い出を増やすことはできる。けれど、目に見えるような形で人の心や人生を変えてくれることはない。
旅に、そこまでの力があるとは思えない。

 

中には、「旅で自分が大きく変わった」という人に会ったことはある。
カンボジアの孤児院で子どもたちと接したことで、大きく心を揺さぶられ、帰国後、仕事を辞めて別の人生を歩んだという人がいた。
でも、こうした人は例外。
ネットを見ると、「旅で人生が一変した」という言葉ををたくさん見る。
でも、ボクは、彼女以外にそうした人と会った記憶がないから、実感がわかない。

 

それでも、間違いなく、旅は素晴らしいと思うよ。
そう思っているから、今でも続けている。
海外の旅では、日本ではあり得ないような刺激を「これでもか!」とくれる。
そして、その刺激が自分の中にあった何かと結びついて「化学反応」を起こして、新しい興味が芽生えたり、何かをやってみようという気持ちが生まれたりする。
ボクにとって、旅がしてくれるのは、そうした自分を変えるチャンスをくれること。

 

ただ、チャンスは、何もしなければただのチャンスで終わる。
自分に新しい気持ちが生まれても、具体的に動き出さないと何も始まらない。
旅で得たものをきっかけとして、自分が考えて動くことでその人の価値観や生活、人生などが変わっていくのだと思う。
ボクとしては、旅そのものではなくて、旅で得た貴重な経験を帰国後にどう活かすのかが大事だと思っている。
旅そのものよりも、旅で得たことを再認識して、それを日本での生活に役立てることで、旅が過去のものにならず、生きてくる。

~続く~

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。