命の“選別”・トリアージとは?その歴史や日本での訴訟事例など

 

今回の話は、知らなきゃいけないことだけど、できればずっと無縁でいたいな~ってこと。
「トリアージ」という命の選択について。

きのうの記事で、できるだけ多くの選手がメダルを取れるように、卓球の水谷選手がこんな提言をしたことを書いた。

「資金をトップ選手に集中させても良いと思う。もうメダルが取れないと分かる選手に見切りを付けるようなことも必要だと思う」

予算を全体的・均一的にかけるのではなくて、才能のある選手に集中させる。
メダルから遠い選手は、ハッキリ言えば切り捨てる。
才能による選択と集中だ。
プロ・アスリートの世界ならこういう厳しい考え方も必要かもしれない。
見切りを付けられたといっても、言い換えれば、早く別の分野で挑戦することができるわけだ。

でもネットの反応を見ると、この提言にはやっぱり否定的な人が多い。
そのことはこの記事をどうぞ。

日本と韓国の教育・スポーツ観の違い:勝利か“みんな”か?

では、これが才能ではなくて、命だったらどうだろう?
才能のある/ないによって、優先されたり切り捨てられたりする。
この考え方が人の生命にも当てはめられたとしたら?

 

第一次世界大戦のとき、フランス軍がつくったトリアージセンター

 

トリアージとは「選別」という意味のフランス語で、この考え方やシステムは戦場でつかわれた。
むかしのフランスでは、戦争で傷を負った人間が出ると、ケガの程度ではなくて「身分」によって治療がおこなわれていた。
だから死にそうな兵士よりも、貴族など高い身分の人間の治療が優先されたのだ。
彼らは上級国民だからしかたない。

でもフランス革命のころからその考え方が変わってきて、身分ではなくて「必要性」によって治療の選別がおこなわれるようになる。
戦場では医師や看護師にたいして、運ばれてくる患者が多すぎる。
できるだけ多くの兵士を救うためには、もう助からないと分かる人には治療をしないで、そのぶんの手間や薬、時間などを助かりそうな兵士に集中させる。

資格のある人が患者をみて、治療をおこなう人としない人をトリアージ(選別)するのだ。
「みんなに平等な治療をおこなう」というのは平時の常識で、戦場でそれを実践したら、多くの人を殺してしまう。
1人を見捨てることで、2人3人の命を助けられることもある。
それが嫌なら、その逆の結果を招くだけのこと。
でもそうやって助かっても、そのあとまた戦場に送られるのだけど。

もちろんこれはむかしの考え方で、いまの軍隊ではもっと人道的におこなわれているはず。

 

日本でのトリアージ訓練

 

いまの日本では、トリアージは大地震や大規模な事故やテロといった緊急時に適用される。

東京都福祉保健局のホームページにはこんな説明がある。

トリアージとは、災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合に、傷病の緊急度や重症度に応じて治療優先度を決めることです

 

患者全員に治療をおこなうことが物理的に不可能な場合は、助かる見込みのある人が優先されて、そうでない人は“あきらめてもらう”。

 

日本で使われているトリアージ・タッグ

黒:明らかに救命が不可能なもの(=治療は受けられない)。
赤:一刻も早い処置をすべきもの。
黄:赤ほどではないが、早期に処置をすべきもの。
緑:歩行可能で、今すぐの処置や搬送の必要ないもの。

 

1995年の阪神・淡路大震災のときに、こんなことがあったと聞いた。
このときにはトリアージ・システムがあって、患者をみて治療の優先順位が決められていた。
「赤」の人ならすぐに治療を受けられるけど、「黒」だとそれは無理。
当時はトリアージを知らない人も多かったから、自分の家族や友人に「黒判定」をされても納得できない人がたくさんいた。
それで「ふざけるな!治療をしろよ!」となって、結局、「声の大きさ」で治療順位が決まってしまったところがあったという。
助からない人を助けようとして、救える命が失われてしまったことになる。

でもこれは、「当時、そういうことがあった」と聞いただけの話だから、どこまで本当か分からない。
いまネットでも調べてみても、そんな記録はなかった。
でもこれはじゅうぶん想像できる。
自分の子供や親にそう言われて、「はい、分かりました」と言える人間がどれだけいるのか。
せっかく助かったと思ったら治療を拒否されて、看取ることしかできないなんて酷すぎるにもほどがある。

 

ことし1月、産経新聞にこんな記事(2019.1.21)があった。

治療優先度誤りと日赤提訴 津波被災の90代女性死亡

東日本大震災のとき、トリアージで「軽傷」と判定された女性がその後、脱水症で亡くなった。
これは、病院が治療の優先度を誤って判断したためだと、遺族が病院を運営する日本赤十字社を訴えた。

このニュースのネットの反応は?

・医療関係者だって完全無欠の神じゃないし
トリアージ後に容体急変したらどうしようもないじゃん
・あの大震災時に患者が溢れてる中でどうしろと。
・かけがいのない命かもしれないけど
あの状態で精一杯のことをしてくれたと思えないんだ
・恐らく普通の日本人が初めて遭遇する事態だから気持ちは察する
・トリアージって関越道バス事故で初めて聞いた

トリアージとは一生かかわりたくないけど、いつか突然、選択されて運命を受け入れないといけなくなるかもしれない。
これは上級国民も同じ。はず。
だからトリアージというのは、知識というより覚悟の問題だ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。