はじめの一言
「物乞いの人にたいしてけっしてひどい言葉が言われないことは、見ていて良いものです。そしてその物乞いたちも、砂丘の灰色の雑草のごとく貧しいとはいえ、絶望や汚穢や不幸の様相はないでのです(メアリ 明治時代)」
「逝きし日の面影 平凡社」
さらっと、前回のおさらい。
2015年にアメリカの雑誌「TIME」が、人類の歴史が始まってから現在までの「金持ちランキング」を発表した。
上位10人はこんな人たち。
人類史上お金持ちランキング 1位ムーサ、2位カエサル、5位スターリン
1 マンサ・ムーサ 世界の産金の半分以上 1280~1337
2 カエサル 4兆6000億ドル 前63~後14
3 神宗(北宋6代皇帝)世界のGDPの30% 1048~1085
4 アクバル(インド) 世界のGDPの25%支配 1542~1605
5 ジョセフ・スターリン GDPの9.6% 1878~1953
6 アンドリュー・カーネギー 3720億ドル 1835~1919
7 ジョン・D・ロックフェラー 3410億ドル 1839~1937
8 アラン・ルフス 1940億ドル 1040~1093
9 ビル・ゲイツ 789億ドル 1955~
10 チンギス・ハーン 領土 1162~1227
前回、中国の皇帝「神宗(しんそう)」とムガル帝国の皇帝「アクバル」について書いた。
今回はその続き。
スターリン?
このランキングを見てびっくりしたのがこのスターリンという人。
なんでスターリンが「人類史上第5位の金持ち」なんだ?
この人はこのランキングに入っていい人物なのか?
スターリンとはソ連共産党の指導者で、ソ連共産党のトップだった人。
ヨシフ・スターリン(ウィキペディア)
俳優の岡田真澄さんがこのスターリンによく似ていると有名。
共産党は国民に、「貧富の差のない平等な社会(共産主義社会)の実現」を約束したんじゃなかったっけ?
共産党というグループはその実現のためにあったはず。
【共産主義】
財産の私有を否定し、生産手段・生産物などすべての財産を共有することによって貧富の差のない社会を実現しようとする思想・運動。
(デジタル大辞泉の解説)
スターリンが目ざした共産主義社会にも、この2つのことがあったはず。
・財産の私有を否定
・貧富の差のない社会を実現しようとする
「貧富のない平等な社会を実現する!」という人間が、人類史上5位の金持ちってのはどういうことだ?
なんてね。
知ってましたよ。
スターリン時代のソ連では、「平等な社会」なんて建前だったことぐらい。
なんせ当時のソ連には、「強制収容所」がいくつもあったから。
何の罪もない人たちが入れられたこともある。
強制収容所
政治的理由から形式的な裁判で、あるいは裁判なしで、強制的に市民を収容する施設。ソ連では1930年代の「粛清」の時代に多くの人々が収容された。
(世界史用語集 山川出版)
この文を読んだだけでは、実感がわかないと思う。
スターリン時代の強制収容所では、人が人として扱われることはなかった。
そこでの様子は、ソルジェニーツィンの「収容所群島」を読めば分かる。
ソ連のグラーグ(強制収容所)では、このようなことがおこなわれていた。
チフスが発生して、短期間の内に一万五千人の死者を堀の中へ投げ捨てたー 裸で、くの字に曲って硬直したまま、節約のためにズボン下までもぎ取った状態で
(収容所群島 ソルジェニーツィン)
ナチスドイツのアウシュビッツ収容所を連想させる。
ここは、かつて黒人奴隷を収容していた場所(ガーナのケープ・コースト城)
人びとに平等を説いていたスターリン本人は、とんでない金持ちだった。
これは、共産党のトップだったスターリンだけだったのだろうか?
先ほどの「収容所群島」を読む限り、決してそうではないことが分かる。
金への欲望は、支配階級にあった共産党の多くの人間に見られ、その組織の下にいる人間ほど金儲けにどん欲だったようだ。
金だけではなく権力にも。(収容所群島 ソルジェニーツィン)
その仕事の性質と人生選択によって人間生活の上層部に入れない《青施設》の下級勤務者は、その分だけ下部世界の生活を貪欲にむさぼり味わった。
連中はそこで下部世界の(食欲と性欲以外の)最も強い本能、すなわち、権力本能と金儲け本能によって支配され、導かれていた(収容所群島 ソルジェニーツィン)
金儲けの欲望はーこの連中に共通した欲望である。
誰もそれを邪魔する者がない以上、このような権力を金儲けのために利用せずにいられるだろうか。いや、それをしないためには、聖人でなければならない!(収容所群島 ソルジェニーツィン)
ロシアには、かつて「スターリングラード」という都市があった。
これはスターリンにちなんで名づけられている。
反革命勢力に対する勝利に貢献したため、また旧帝国に関する名称を廃止する方針のため、1925年にヨシフ・スターリンにちなんでスターリングラードと命名された。
(ウィキペディア)
1925年といえば、まだスターリンが生きていた時代だ。
スターリンが死んだ後に人びとによって生前の功績がたたえられて、その名前にちなんだ都市名がつけられたのではない。
自分が生きているときに、そう名づけられている。
国民には貧富の差のない平等な社会を約束する。
でも自分は人類史上5番目の大金を所有していて、さらに自分の名にちなんだ都市まである。
こうしたことを考えると、スターリンがこの長者番付にのっているということには、どうしても違和感を感じてしまう。
*ちょっと注意。
今回のことは、スターリン時代のソビエト共産党がしたこと。
世界中の共産党がこうだったわけではない。
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