【病魔退散】日本”最強”のお札(お守り):疫病神信仰と元三大師

 

「鎖国」をやめて外国人を受け入れはじめた明治の日本に、モース(1838年 – 1925年)というアメリカ人がやってきた。
彼は東京大学の教授をしていて、日本にダーウィンの進化論を紹介したり、大森貝塚を発掘したことで有名な人。

まあくわしいことはここをクリックですよ。

エドワード・S・モース

 

モースと申す

 

あるときお寺が祭りを開いていて、たくさんの人が参拝に訪れていたの見たモースはその様子をこう記した。

僧侶達は、見受ける所、大法会をやり、そして天運を授与しているらしい。すくなくとも彼等は、戸の上に張りつけて悪霊の侵入をふせぐ、小さな紙片を売っていた。

「日本その日その日 (モース エドワード・シルヴェスター)」

この様子はまだ外国の影響のなかった、江戸時代のころと同じだったはず。

 

そうか。令和のいまでも厄除けのお札は「売っている」けど、明治時代も同じだったのか。
*寺や神社のお札やお守りは「授与する」と言うけど、まあそれにはお金が必要だ。

きょねん日本に来た台湾人が「台湾の道教や仏教のお寺では、お守りは無料です」と言っていたし、ドイツ人やリトアニア人が「ヨーロッパの教会なら、お守り(のようなもの)にはお金がかからない」と話していた。

 

といっても、教会では全てが無料ではなくて、例えば100円ほどの寄付でこんなろうそくをわたす教会もある。

それに信者が集会に参加すればいくらかの寄付をするだろうし、台湾でも賽銭箱をお金を入れるだろうから、「無料」というとちょっと語弊があるかもしれない。

 

さて、モースが見た「戸の上に張りつけて悪霊の侵入をふせぐ、小さな紙片」というのは、ひょっとしたらこれかもしれない。

 

 

一般的には元三大師(がんざんだいし)と呼ばれるこの人物は、平安時代のお坊さんで名前を良源(りょうげん:912年-985年)という。
京都の比叡山延暦寺で座主(天台宗の最高の位)をつとめていた僧侶だから、その法力はすさまじかったに違いない。

あるとき京都で疫病が流行すると、元三大師は角を生やした鬼の姿「角大師」になって、疫病神を追い払ったという話がある。
そこから鬼となった元三大師の姿をお守りにして、人びとは家の入口に貼って病魔の侵入を防ぐようになったという。

古代の日本では、病気はもののけや怨霊、悪鬼など目に見えない存在がもたらすという考え方があったから、こういう対応は庶民から貴族まで一般的に行われていた。

当時の日本人の信仰についてくわしいことはここをクリック。

疫鬼の概念が多く取り込まれた平安時代には朝廷の行事として、花が散ると共に疫病神が方々へ四散することを防ぐ「鎮花祭」、道の境で疫病神をもてなすことで都の外へ返してしまうという「道饗祭」といった疫病を防ぐための祭事が行われている。

疫病神

この「鎮花祭」が現在の花見につながったと言われる。

 

病魔から守ってくれるありがたい「角大師」の話とお札は日本全国に広まって、江戸時代には「門松に かくれ顔なり 角大師」という川柳まで作られる。
疫神病除(やくしんやまいよけ)のお札としては、知名度や効力(といっていいのか?)において、このお札は日本でも最強レベルだ。

 

良源と角大師(鬼バージョン)

 

英語版ウィキペディアにも良源とこのお札の説明がある。

Ryōgen is known generally by the names of Ganzan Daishi (left) or Tsuno Daishi (right). The figure of Tsuno Daishi (Horned Great Master) is said to be a portrait of him subjugating vengeful ghosts.

Ryōgen

英語版ウィキペディアの中で、日本の厄除け札について、これほどくわしい説明があるのは他にないと思う。

 

いま日本を太平洋戦争以来の国難、新型コロナウイルスが襲っている。
ということで、滋賀県にある玉泉寺のお坊さんが新型コロナ対策としてこのお札を配っていて、それが京都新聞に取り上げられた。(2020年3月26日)

コロナ感染防止願いお札復刻 鬼の姿「角大師」家庭用に、滋賀の寺

これを玄関先に貼って、ウイルスを撃退してもらいたいと寺側は話す。こういう日本人の信仰や文化はいまも明治も江戸も変わらない。

 

欧米のキリスト教文化圏では、馬の蹄を魔除けとして扉にぶら下げておく風習がある。
でも上下を逆にすると、不幸なことが起きるとか。

くわしいことはこの記事をどうぞ。

【キリスト教文化】欧米の魔除けとラッキーアイテム・馬の蹄鉄

 

おまけ

このまえ静岡県にあるお寺に行ったら、こんな説明書きを発見。

 

いま日本全国の寺や神社にあるおみくじの元となるものを考案したのは良源とされる。

元三大師が観音菩薩より授かったとされる五言四句の偈文100枚のうち1枚を引かせ、偈文から進むべき道を訓えたのが原型とされる。籤に番号と五言四句が記されているのはこの偈文100枚が由来である

おみくじ

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。