2日まえの7月19日は「やまなし桃の日」だった。
ちょうどこの日は1年が始まってから100の倍数の200日目に当たるし、「百」と書いて「もも」と読むことからこの記念日ができた。
この時期は桃の出荷時期だから、桃の生産量・日本一を誇る山梨県(山梨県果樹園芸会)がPRのために「やまなし桃の日」をつくったらしい。
そのまま食べてもいいし、ケーキやパフェに入れてもジュースにしてもよし。
いまではほぼ食用とされている桃だけど、はるか昔はそうではなくて、「魔除け」として祭りの道具としても使用されていたのだ。
これからそんな日本と中国に伝わる桃の文化について紹介しよう。
魔物や邪鬼を払うために桃が出てくる物語として、日本で最も有名なのは、古事記にあるイザナギが黄泉の国(死の世界)で妻のイザナギと出会う場面だろう。
愛する妻を失ったイザナギはどうしても彼女に会いたくなって、生者の世界から黄泉の国へ足を踏み入れる。
そこでイザナミを見つけたはいいけれど、愛する妻はウジ虫のわく腐乱死体となっていた。
「ごめん、マジ無理っ」とイザナギはあわてて逃げ出し、そんな夫を見て激怒したイザナミや黄泉醜女(よもつしこめ)という鬼女がイザナギを追いかけ始める。
後ろから全速力でやってくる死の世界の者たちに、イザナギが投げたのは桃。
死者と生者の世界の境には桃の木があり、桃には魔を払う神聖な力があるとされていた。
イザナギはそんな桃をつかんで鬼女たちにぶん投げて、何とかこの世に戻ってくることができた。
「よみがえる」(蘇る・甦る)という言葉は、黄泉から帰ってきたことから生まれたという。
死と生の世界の境・黄泉比良坂(よもつひらさか)。
写真は島根県の東出雲のもの。
イザナギにとっては桃に命を助けられたようなもの。
この「功績」によって、桃はオオカムヅミ(または意富加牟豆美命:おおかむづみのみこと)という日本の神となった。
そのとき桃はイザナギにこう命じられる。
「お前が私を助けたように、葦原の中国(地上世界)のあらゆる生ある人々が、苦しみに落ち、悲しみ悩む時に助けてやってくれ。」と命じられた。
つまり「桃神」は日本人を悲しみや苦しみから救ってくれるらしい。
はは、ワロスワロス。
と思ったけど、いた!
悪い鬼に苦しめられていた人間を助けたのは、スイカやみかんではなくて桃太郎だ。
おばあさんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃が流れてくる。
この日本で最も有名なオープニングは、先ほどの話に関係があるという。
日本神話のイザナギの神産み#黄泉の国にみられるように、桃が邪気をはらい不老不死の力を与える霊薬である果実とされていることと関連する。
気になるのは桃が「魔除けの果実」となった理由だけど、これはハッキリ分からない。
桃の木にはたくさんの実がなるから、百(もも)と言われて強い生命力を象徴しているから、という説を何かの本で読んだことがあるけどイマイチ根拠が薄い。
彼がピーチボーイ、桃太郎だったのはオオカムヅミ神のパワーを持っているからだろう。
アニメ『まちかカドまぞく』で魔族を倒す魔法少女が「千代田桃」なのも、桃を魔除けのシンボルとする日本の伝統的発想に深いところで関係しているはず。
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さて2010年に、3世紀のもので一説には邪馬台国の中心といわれる奈良の纒向(まきむく)遺跡で2千個以上の桃のタネが出土して話題になった。
古代日本で桃の実は祭祀で供物として使われていて、1ヶ所で出土したタネの数としては国内ではこれが最多。
桃には邪鬼をうち払う神聖なパワーがある。
日本人は古代から桃に対してそんな魔除けの考え方を持っていて、平安時代になると「追儺」(ついな)の儀式では鬼を追い払うために桃の弓やツエが使われた。
この追儺は3月3日の節分(桃の節句)の起源になっている。
こんな信仰のルーツをたどると中国に行きつく。
歴史学者の村上瑞祥氏によると古代中国の書「山海経」に、桃には魔除けの効果があると考えられていたとみられる記述がある。
この所(鬼門)は諸々の鬼の出入りする所で、神荼(しんと)・鬱塁(うつるい)という二神がいて、悪鬼を捉えて虎の餌にする。黄帝はこれに習って、桃の枝を門戸にさして、神荼・鬱塁の二神を描いて諸々の凶鬼を塞ぐ。
死者の霊である鬼が生者の世界に入ってくる鬼門はこの世とあの世との境で、日本神話でいうと黄泉比良坂(よもつひらさか)に相当する。
古事記にはここに桃の木が植えられていたと書いてあるけど、それはこんな中国思想の影響を受けているのだろう。
中国で桃の木は仙木と呼ばれ、魔を払う力があり不老長寿の仙果と考えられていた。
それで邪悪なものが入ってこないように、魔除けとして桃の木で周囲を囲った「桃源郷」という理想郷(ユートピア)の考え方が生まれる。
「ここではおいしい桃が食べ放題!」というワケではなくて、食用の意味もあると思うけど、桃源郷の桃(桃林)は中二病的に言うと、魔物の侵入を許さない結界の役割を果たしている。
ちなみに三国志に出てくる「桃園」もこれに関係あるかも?と思って調べてみたけど、桃園とは桃の木のある庭園のことで特に関係はないようだ。
台湾人の話では、この観音菩薩の両隣にあるのが桃。
そう言えば、姫路城には桃がデザインされた鬼瓦があったゾ。
と思って、姫路城について解説している「姫路城おすすめ・見どころ案内」のサイトを見たら、日本で桃は昔から「多産(子だくさん)」や「生命力」の象徴で縁起物とされてきたという。
そんな桃の実は「霊果(れいか)」とされ、「魔除け」の効力を持つ。
ほかにも桃太郎と桃の関係にも触れている。
くわしいことはホームページをどうぞ。
では、いまの中国でも桃を魔除けとして使っているのだろうか?
メールで中国人に聞いてみると、「桃木の剣は魔除けに使うことがあります」という返信がきた。
さらに詳しくたずねるとこう言う。
「現実には、主に道教に関する活動や祭祀で使われています。中国の化物やゾンビに関する小説、アニメや映画などでよく見られます。」
邪悪な存在を退治する聖なる武器として、桃木の剣は中国の小説やアニメで登場するらしい。
ヨーロッパで言えば聖剣エクスカリバーか?
アマゾンを見たら、日本でも悪魔や邪鬼をうち払う「桃木剣」が1280円(配送料別)で売ってた。
「さいきん運が悪いなあ」と思ったら、これを部屋に置いておこう。
でも中国製なら、きっとオオカムヅミの力はない。
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このイザナギとイザナミの話なんですが、ギリシャ神話にもそっくりな話がありますよね。竪琴の名手オルフェウスが、毒蛇に噛まれて死んだ妻のエウリュディケを取り戻すために冥界へ行き、竪琴の演奏で冥界の王ハーデスに嘆願して説得できたものの、「地上へ戻るまで決して振り返ってはならない」という約束を破ったために、結局は妻を取り戻せなかったという神話です。
紀元前のギリシャ神話と、日本の神話がソックリだというのは全くの偶然なのでしょうけど、おそらく、世界中の各地で類似の伝説が(大昔には)存在していたのだろうと推測されます。死者は、どれほど嘆いて、どれほど神の助力が得られようとも、決して元通りこの世に蘇ることはないという教えなのでしょう。
旧約聖書に出てくる「悪徳の都市であるソドムとゴモラを神が滅ぼす様子を振り返って見たために、塩の柱となってしまい逃げられなかったロトの妻」のエピソードも、考えようによっては、類似の伝説だと言えないこともないですよね。こちらの話は、前の2つの話に比べて、人間に対する神様の「大量虐殺をも厭わないキビシイ厳罰主義(?)」が目立ちます。
自分はこんな神様は嫌だなぁ。一神教でなくてよかった。
前にスロバキア人とお寺に行ったとき、三途の川の渡し賃の話をしたら、ギリシャ神話でそっくりな話があると言っていました。
それも偶然でしょうけど、どこかでつながっているかもしれません。